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貞操逆転パラレル日本の比較文化記  作者: バンビロコン
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舞台裏

 ある日最新型の人工衛星に突如、大和が2つ映るという珍事が起き、蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。何度も確認して、それが事実とわかってから数日、大和国の外交官と日本の外交官で交流が取れることになった。

 

 日本の外交官は巨大なイージス艦で大和国に出向いたと言う。その時の大和国の女性外交官は、巨大な艦船を持ってきたことから、悪辣な侵略者を疑い、次に中から出てきた日本の男性外交官や男性の軍人をみて心底驚いたと言う。


 当然、世界常識に鑑みても、外交の仕事に男性が出てくることなどはない。むしろ男性が襲われたらどうするのか。いやそうしたハニートラップなどではないかと警戒したようだ。言語の確認をして互いに通じることを確かめ合ったあと、握手を持ちかけられた時にはハニートラップを確信した。


「随分と女性の外交官が多いのですね。申し訳ない握手をする文化はありませんでしたか?」

 日本の男性外交官が尋ねると、大和の女性外交官は大いに混乱したという。

「貴国では外交は男性が行うのが普通なのですか?」

「そうですね。日本の外交官は男性が7割女性が3割だったと記憶しています」


 その時、大和外交官に天啓が降りた。もしや、男性が多い国なのではないかと。

「し、失礼、日本国での男女比というのはどの程度なのだろうか」

「男女比ですか?およそ1:1で若干女性の方が多いですが……貴国ではいかがなのでしょう」

 男女比が1:1と聞いた時に女性外交官は国交樹立こそが己の天命だと理解した。


 彼女の報告をもって、激震が走った大和政府であった。特に外交官たちには国を挙げての支援が送られたのは言うまでもない。


 外交努力により、日本人外交官には最大限の便宜が図られ、国交樹立も含めた食糧支援などの内容が急ピッチで進められていく。ポイントは日本人男性の移住による国籍取得の自由化だ。

 ほとんどの国で、男性の自由移住は認められていない。しかし、男性本人が亡命、つまり祖国を捨てたいとなった場合は認められている。もちろんこれが戦争の原因となりうるわけだが……


 歴史的に列強諸国との不平等条約で苦しんだ日本であるわけだが、男女比が歪と聞いて日本の価値がわからないほど愚かではないと同時に、他国の軍事力がわからないうちは下手に動けないという苦境にたたされていた。


 結果、文化交流として日本人のホームステイを行うことにし、彼らが大和国で婚姻して国籍を取得するのを許可したのである。ただし、軍事的に同盟国になることと、自由恋愛と自由に渡航ができることが条件である。


 文部大臣である長宗我部侯爵もこれらの件に無関与ではなかった。ホームステイが決まった時は自分の家に1人来られるよう圧力をかけまくった。

 

 各地での権力争いの結果、条件が結婚できる年齢で若い未婚の女性がいる家柄の良い家庭ということになった。婚姻可能年齢は15歳からである。

 華族家などの家柄が良いところは、次期当主つまり長女が早めに婚姻をすることが通例であり、次女、三女は少し後に権力闘争の結果としてどこかの側妻や通い婚に収まることが多い。つまり、当てはまるものが少ないのである。

 長宗我部侯爵家には、たまたま背が小さすぎるために婚姻できなかった次女がいたためひっかかったのである。ちょうど東京の大学にいくために、侯爵と同じ屋敷に住んでいることも幸運であった。


「お母様、どうしたのですか?」

「あぁ、いや実はな。日本国男性のホームステイが決まった。我が長宗我部家にも一人来ることになる」

「そ、そのようなことが、しかしホームステイはその、日本男性をとどまってもらうよう働きかけるのですよね?」

「あぁ、二凧にその役をやってもらいたいと思っている」

「で、でもボクは背が小さいので、男性に嫌がられてしまうのではないでしょうか」


 侯爵は親心としては男性に酷いことを言われて二凧が傷つくのではないかと思ったが、同時に最後のチャンスとも思っていた。今年で20になったばかりの二凧であるが、女性の婚姻は25を超えると絶望的である。今まで、華族のお見合いパーティなどに参加をさせてこなかったが、一度ぐらいはどうかと思ったのだ。

「心配するな。何事も経験だ。記念としても良い。やってみないか?」

「......誠心誠意頑張らせていただきます」

「長宗我部家の女たるものそうでなくてはな。なに、逆境程度で折れていたら、学問の世界でも戦えんだろ?」

「はい!その通りでした。できる限り全力で準備します」


 侯爵としては、二凧が選ばれそうになくても、長宗我部家の親族を集めれば、選ばれる者がいるだろうと思っていた。何分、情報のない手探りの中で始めるのだ。それに、二凧は非常に賢い子であった。きっと無駄にはならないだろうと侯爵は思っていた。


 それからしばらくして、男性の情報が届いた。26歳の独身男性で、大学院まで行っている大和にはいないインテリ男性だ。文化を知りたいということで、雑学に関して幅広く把握している二凧にとっては、相性がいいといえるだろう。


 二凧はそこから2週間、関連する知識をひたすら集め、まだ見ぬ男性を想像する日々が始まった。


 ーーーー

 

 運命の当日、二凧は緊張した面持ちで控室にいた。周りには自分とは違い、背の高い素晴らしいプロポーションをした女性がたくさんいる。事前に覚えた名前を探して、二凧は小さな体で会場を練り歩いていた。


 そして、中央付近のテーブルに【学習院学】と名札がついている人物がいる。日本人男性の服はシンプルなものが多く、その男性もシンプルな服装であった。顔は若干目つきが悪いものの全体的には整っており、眼鏡の下にある鋭い目が非常に知的な印象を受ける。


 なんとか、勇気を出して話しかけてみると子どもに間違えられるというアクシデントはあったものの、小さいからといって邪険に扱われることなく、礼儀正しく、深い知識をもつまさにフィクションのような男性であった。


 ここに来ている男性は全員未婚であるはずだ。どうしてこんな素晴らしい男性が婚姻してないのだろうか。二凧は不思議に思ったが、恐ろしく常識が違うと結論付けた。なんといっても、名前で呼んでくれたのだ。


(名前で呼んでくれたし、可愛いって言ってくれた)


 名前呼びなど、相当親密な関係である。男性が女性を褒めることなどほとんどない。婚姻していてもないと二凧は聞いたことがあった。普段、非常に冷静である二凧にしては誰が見てもわかるほどテンションが高かった。どうみても惚れているのは明白である。

 男性経験が皆無であるこの世界の女性たちは夢見がちで、優しくされると簡単に惚れてしまうというなんとも残念なことである。



ーーーーー


「二凧はどうだ?邪険に扱われていなかったか?」


 長宗我部侯爵家の当主である元葉が、執事の吉田に尋ねる。吉田は古くからの長宗我部家の家臣の家系で、最も信頼を置いている相手であった。

 侯爵は、先祖代々の言い伝えで家族や親族といった血縁を大切にする人物であった。華族的にはスペアの意味が強い次女ではあるが、中学生の頃から、背が小さく陰口を叩かれていた二凧が傷ついていないかが気掛かりであった。そのため、最も信頼のおける執事の吉田には、二凧が男性により傷ついていたらそれとなく助けるように言ってある。


「はい、驚かれること思いますが、大変話が合うようでして、車内でも仲睦まじく談笑されておりました。また、迎賓館から退出される際に手を繋いでおりましたよ」


 手を繋ぐというのは、男性側が女性に気を許しているという証である。つまり、嫌いではありませんよ。好ましく思っていますよという合図でもある。

「本当か!二凧も良い経験になっただろう。文化の違いがあるから手を繋ぐという行為の意味は違うだろう。期待はしない方がいい。それに、残念ながら今後はもうないかもしれん」


 侯爵は安堵したと同時に、もうないだろうという現実的な視点から目元に悲しさが浮かび上がっている。

「お嬢様からお聞きしたのですが、日本では背の小さい子も男性からは受け入れられるらしく、鴻池家に嫌味を言われた時に学習院様ともう1人の日本人男性がそう言って庇ってくれたとか」


 大和において、男性が女性を庇うというのは非常に珍しいことである。庇われるのは憧れであり、同時に恥ずかしいことでもある。相当な好意があって初めて成り立つ者なので、フィクションであれば、そうした作品はメジャーなジャンルである。

 

 もっとも、嫌味を言った鴻池家は男性に言い返されたので完全に赤っ恥である。大きなパーティでされたら、暫くは出てこれないだろう。

「学習院殿は、相当に仁徳の高い男性だからな。好意なく守るために言ったということも十分にありうるが……しかしそんなことをされたら、二凧はもうベタ惚れか?」


 男性経験のない女性というのは男性に惚れやすい。ちょっと話しかけられただけで、気があると勘違いをして舞い上がり、距離の積め方を間違えて訴えられたり、男性に怖がられたりするのである。教育を受けている華族はともかく、成り上がりの金持ちなどに多い光景だ。

 そこからストーカーなど犯罪に走るものも少なくない。

 

「はい、いつも無表情で勉学に打ち込む秀才のお姿はなくなり、完全に惚れてしまったようでして」

「ふむ、心ないことを言われて傷つく方を気にしていたが、真逆とはな。男性教育も高校での基本の内容だけだろう。仕方ない。吉田、明日は必ず2人きりにならないようにしてくれ。二凧のことを信じていないわけではないが、万が一がある。ホームステイ先の娘に襲われましたは流石に庇えないぞ、絶対に阻止しろ」

「はっ!必ずや」


 男性慣れをしていない二凧であるが、華族として高い教育を受けているので、その自制心から男性を襲ったりはしないのはわかる。しかし、日本人男性は無防備で不用意に話しかけてくるのだ。大和国男性ならば女性に好意がありますよと言っているようなものである。


 長女は身長も高く、大和女性らしい女だったので、長宗我部の跡取りとして既に婚姻し、土佐の方で暮らしている。そのため、次女に少しだけチャンスを与えようした親心だったのだが、もしや失敗しただろうか。長宗我部侯爵は少しだけ頭を抱えた。




 しかし次の日またもや斜め上のことが起きる。

「二凧が熱病にでも浮かされたかのようになっていたが、大丈夫か?学習院殿も二凧に気があるように振る舞っているがあれは日本では普通の対応なのだろうか?」


 学は勘違いしているが、男性は基本的に社交辞令を使わず、女性に対して会話などしないのである。そして、若干でも好意があるというのはこの世界の男性にとってはもはや婚姻しても良いと同義である。


「学習院様は非常に聡明な方で誰に対しても丁寧な対応をされていますが、二凧お嬢様には少々無防備な対応をされていらっしゃいますので、私共からみても好意がないということはないかと思います。しかし文化の違いがありますのでなんとも。特にメイドや私にはかなり警戒心があり、といっても、大和男性に比べれば甘い対応ですが、気をつけている様子が見受けられるます。しかし、二凧お嬢様には対応が異なるので特別という意味では大きく間違ってないかと……ただ、二凧お嬢様は背が小さいので大丈夫だと思っている可能性もなきにしもあらずかと……」


「親の勘だが、間違いなく好意はあるだろう。ただ、まだ異国ということもあり、慎重にしていると見受けられる。それにしても日本人男性は積極的で助かる。学校の見学など、普通は頼むこともできないが自分から言い出してくれるとはなんともありがたいことだ。校長が慌てておったわ。それで今日は屋敷内でどう過ごしたのだ?」

「はい、それが……図書室で学習院様は大喜びなされ、そのまま観覧は終わってしまうかと思いましたが、お部屋での貸し出しを許可しますと昼食後、テニスとバレーボールをなさいました」

「ふむ、図書室はそこまで貴重なものはないから、資料の扱いが多少雑だったとしても問題はないだろう。して、バレーボールをするというのは聞いていたが、二凧はテニス以外まともに運動はできないだろう。どうしたんだ?」

 

「それが、お嬢様はバレーボールで手取り足取り教えられ、途端に上達なさいました。その後ラリーをされまして、二凧お嬢様が転んだ際には殿様抱っこをされたようでして、もはや致命傷でございます」

「…………」


 侯爵は何が起きたのか正確には理解ができなかった。そもそも男性が何かを女性に教えることは少なく、ましてやスポーツなどしたことがない男性がほとんどだ。女性がスポーツを男性に教えるということはありうるが、それはある意味理想的な夫婦像の一つである。特に華族ではテニスが仲の良い夫婦を表す象徴的なスポーツであった。


「教え方は私が聞いていた感想でございますが、かなり巧みでして、男性であるということも相まって一流の上手さだといえます」

「ふむ、学習院殿は人に教える経験があるのかもしれんな。高学歴だから学者気質だと思っていたが、少し考えを変える必要がありそうだ。確かに学校現場を気にしていたことから教育関係に携わっていたのだろう。そうであれば納得できる部分はある。それに、女性が男性にする行為が日本では男性が女性にでもするのかもしれん」

「たしかに、教育関係者と考えれば一連の動きも説明がつくかと。ただ二凧お嬢様の方はもう……」


 外野から分析してこれなのだから、当事者であり、いくら聡明とはいえまだ20歳の二凧に理解しろという方が無理のあることだ。


 

「二凧……それは経験のない二凧では勘違いしても致し方ないな。あれも抑えてはいるが女だ。日本では男性の方が性欲が強いらしいから、女性への警戒心が薄くなるのはわかるが……二凧が襲ってしまわないよう、せめて婚姻をさせてあげたいところだな」


 婚姻というのは男性側により簡単に破棄できる。故に婚姻という言葉の意味は日本よりも軽い。そもそも婚姻していても会ったことがないという男女など山ほどいるのだ。それでも婚姻関係を持たないものからしたら憧れの対象である。

 故に、婚姻関係を結べるということ自体が重要で婚姻が了承されれば、多少本人も落ち着くだろうと侯爵は思っていた。

 

「おそらく2人になれば二凧お嬢様が焦って婚姻の告白をされてしまうと思います。なので二凧お嬢様には明日我慢していただければ学習院様に私から真意を聞きたいと思います」


 婚姻の了承を得るための告白は突発でしても上手くいかない。普通は男性家族が、男性に真意を聞いて事前に了承していることがほとんどである。しかし、事前に了承を得ていたとしても、その場で怖くなって拒否してしまう男性もいるほどなので確実とまでは言えない。

 振られた女性たちが、自殺をしてしまったという話もあるほどである。また、振られた女性の嘆き宿などという場所もあるとか。

 

「いや、もう席を用意して機会を作ってやろうか。長宗我部家の女たる者、玉砕もまた誉よ。真意を下手に聞き、面倒だと思われる可能性が非常に高い。場合によっては、ホームステイを辞められる方が困る。であれば、突発で驚かせてしまった方がまだマシだろう。二凧には悪いが、それ以上の支援は難しい。そもそも、我らが長宗我部一族は、豊臣に攻められても最後まで諦めなかった故に土佐一国への減封だけで済んだのだ。長宗我部は多芸よりも一芸の家系だ。二凧は勉学に進むと決めたからには男性関係が疎くなるのも仕方あるまい。であれば自らの武器を信じて進むべきだ」


 このようなことを言っている侯爵もまた、手順を踏まずに婚姻に成功してしまった経歴を持つ人物である。

「わかりました、明日の夕食時にそれとなく整えておきます」

「頼むぞ。私は失敗した時のための準備を進めておく。なに、断られてもあの御仁だ。邪険にはしないことだろう。少し距離を取ってもらえばいいだけのことだ」


 婚姻を断ったとしても、大きな問題にならないというのが彼女たちの読みであった。というより断られることしか想定していなかった。



 ーーーー


 

 次の日、二凧は呆然とした様子で屋敷に帰ってきた。侯爵はその様子をみて、てっきり失敗したかと思いきや、なにやら様子がおかしい。吉田は二凧におめでとうございますなどと言っている。侯爵は執務室でいつも通り執事の報告を聞くことにした。


「成功してしまっただと……」

「はい、私としても予想外なのですが……学習院様は既に婚姻に関して調べていたらしく、また大和国に残りたいという意思も確認できました」

「それは、望ましいことだが、あまりに都合がよすぎる。何か裏があるのではないか。まあいいとりあえず今日の報告を聞こう」

 

「はい、本日お二人は意気投合としてまず、国会議事堂で銅像違いや両国の歴史の違いについて議論を重ねました。あれは既に婚姻関係でもおかしくない距離の近さでした」

「二凧は話し始めたら止まらんからな。相手が嫌がっていないのであれば問題ないが……」

 二凧は幼い頃から知りたがりで、なんでも質問してくるような子であったと、侯爵は懐かしさを感じながら振り返る。


「えぇ、嫌がってはいなかったかと、そして続く東京駅ではなぜか東京ばな⚪︎を買われまして……」

「ん?なぜだ?バナナは男性シンボルをイメージさせるから、女性が好むものであって、男性は買わないものだろう」


 バナナというのは男性器を象徴する食べ物として大和国ならず、他の国でも有名である。そのため、子孫繁栄や男性運向上を願ってバナナをモチーフにしたお菓子は多くある。だが、男性には人気は全くない。というより普通に嫌がられている。

「それが全く同じ商品が日本にも売っているようでして」

「Oh……」

 あまりに文化が違いすぎて侯爵はもう一度、考えを改めなくてはならないと真剣に思った。

 

 

「続きまして、銀座の寿司屋では成人女性並みの量をお召し上がられ、店主と談笑をしました」

「日本国の男性はよく食べる。これは予想通りであるな」

 食事に関しては、まず最初に調査をしたところだ。日本男性は大和女性と同程度の量を食べると結論づいている。実際に平均身長も日本男性の方が大和男性に比べて圧倒的に大きく、その体格を維持するための食事量だろうと予想されている。

 

「はい、そして博物館では一つ一つ学芸員の説明を聞きながら、お嬢様と議論したのち、大和国の歴史が展示された展示館を見終わるとソファの方で激しく考察合戦が始まってしまいまして、お二人とも全く止まる様子はなく、ギャラリーができ始めてしまいましたので警護官のものが整列させました」


 侯爵は何やら頭が痛くなってきた。

「二凧も長宗我部家にふさわしい優秀な頭脳を持つが、話し始めると止まらないのが欠点であったな。学習院殿もそれついてこれるだけでなく、同じお話好きとはな、相性は良さそうだが……」

「録音してありますので、いずれお二人が書物にしていただけたらと思います」


 執事もまた優秀であったのでこの程度の事態にはゆうに対処できる。そして、告白に至った経緯を説明する。もちろん録音済みである。これは、万が一男性側に訴えられたとしても、犯罪ではないという証拠集めのためでもある。

「なるそどそれで吉田が離れた後、そのままの勢いで料亭で告白と……しかし、交際関係から婚姻関係となるプロセスを日本では踏むのか、これは危なかったな」

「はい、私も肝が冷えましたが、学習院様も相当二凧お嬢様を気に入っていたご様子で、上手に場を運んでくださいました」


 録音からは学習院が場の流れを作ってくれていることがわかる。本来女性がやるべきことなのだが、それを難なくこなしているようだ。

「断るにしても上手くやってくれるという確信はあったが、了承されたらされたで嬉しい反面、こちらの準備不足が否めないな」

「はい、通常はほぼ了承される所まで家同士で準備しておきますから、告白は儀礼的なものなのです。しかし、今回のはチャレンジャーな告白でしたので……」


 婚姻というのは色々と金がかかる。というのも男性側はいつでも断れるのだ。そうならないためにも最高の歓待や、結納金などを用意する必要がある。歓待も結納金も受けて無下に断りましたでは、本人ではなく男性家族が金目当てであると、男性を売ったのではと非難が殺到するが、たいして歓待もせずに準備不足による不手際で断られたら、笑い者もいいところだろう。

 

「学習院殿としてはもう少し情報を得てから了承したかっただろうな……もちろんその選択を後悔させるようなことをするつもりはないが」

「おっしゃる通りかと。ただ、二凧お嬢様は告白が成功してしまったことで悪化してしまいまして……」

「男性との婚姻というが、物語のような婚姻関係の結び方であるからな、それでなくても最近は婚姻関係でも自然生殖ではなく人工生殖が多いぐらいに、男女関係は淡白だ」


 人工授精の技術は年々上がっている。男性の義務である精子供給でできた精子バンクからの人工授精で妊娠するのが今や一般的だ。冷凍精子の技術も進み、保存にも問題がなくなっている。

 それでは婚姻関係など必要ないではないかと思うが、そうではない。まず、人工授精用の精子はそこそこの値段がする。しかし婚姻関係だと男性側から人工授精用の精子を提供してもらえることが多い。そしてさらに自然生殖だと、男性が生まれる確率が高い統計的に明らかになっている。

 そのため、華族や財閥のような富裕層は自然生殖を好むし、婚姻関係を大切にする。そして婚姻関係は力でもある。


「誠に……二凧お嬢様は明日、大学に行けるのか心配であります」

「暴走する前に、二凧には男性との適度な接触の仕方を教えなくてはならん。吉田頼むぞ。後は男性警護官もつけなければな」

「お任せください」


 未だ乙女状態で部屋で悶々と妄想を広げる二凧をよそに、大人たちは忙しく動き始めた。

 

 

主人公視点でないときは三人称視点でいこうと思います。

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