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貞操逆転パラレル日本の比較文化記  作者: バンビロコン
7/50

3日目後半

 東京駅は人が多く、これ以上は安全を保障できないということで、剣持さんの提言により早めに切り上げることになってしまった。一つ、変質者が出てしまったということで仕方ないのだろう。男性警護官は国家公務員の役割として、男性の性被害に関してなどの逮捕権を持っているらしい。日本では警察以外に麻薬取締官や海上保安官なんかが持っているのでそういうことだろう。

 ちなみに、逮捕には、通常逮捕と現行犯逮捕、緊急逮捕の3種類がある。一般人でも現行犯逮捕はできるので覚えておく必要があるだろう。すぐに警察に身柄を引き渡さないといけないけどね。


 やや出鼻をくじかれたが、お昼は銀座の寿司屋に連れていってくれた。申し訳ないがこのような高い店での食事経験はない。思えばお金持ちになろうという気概がある人はこういう場所で食事をすることを目標として努力するのだろう。


 金銭に命をかけられる人たちの感覚はわからないが、回転寿司などと比べるのもおこがましいほど美味しいということがわかった。こちらは庶民だからね。女性の大将も日本の好みが気になるのかいくつか質問をされた。

 

「日本国でも寿司は人気ですかい?」

「人気ですね。私たちの世界で日本が消費量No.1でした」

「そこまで同じですかい。回る寿司屋とかもあるんで?」

「ありますね。銀座は高級寿司屋が並んでいるというのも同じです」

「好みは同じとみていいかねぇ。これは腕がなるねぇ」


 昼からこんなに美味しいもの食べてたら間違いなく太るんだよね。二凧ちゃんは今までの食事から見ても少食なのか少しでお腹いっぱいになるようだ。大和の男性は少食らしく、二凧ちゃんぐらいしか食べないらしい。すまない高級寿司をたくさん食べてしまって……


 ――――

 腹ごしらえというには高級すぎる食べ物を食べてしまい、なんとも貴重な経験をしたものだが、午後はお待ちかねの大和国立博物館だ。


 大和国立博物館は、巨大な庭園に明治期以降に作られたのだろう美しい洋風の建物だ。東京駅や大和銀行を設計した人物と同じだとか。


 あまりに巨大すぎて私のような博物館好きでは1日で回れない可能性が高い。6つの展示館があることからも、特に見たい者に絞っていくべきだろう。


「二凧ちゃんは博物館はどこからいく予定なの?」

「大和の歴史が展示してある本館からがいいかなと思っています」

「それはありがたい、質問するかもしれないけど大丈夫かな?」

「今回は、大和国立博物館の学芸員さんをガイドとして雇っていますので、安心してください」

「素晴らしい」


 学芸員の人は専門家が多いからね。これは楽しみだ。学芸員の方は案の定女性の方で丁寧に挨拶をしてくれた。先ほどの男性警護官たちも博物館ではまた守ってくれるのかぐるっと私たちを囲んでいる。

 

 本館では、時代順に大和国の歴史的な遺物が並んであった。旧石器時代から縄文、弥生と繋がっていく。

 こうしてみると、歴史自体は大きく違わない。同じような人が性別を変えて同じような時期に台頭してきている。男性を保護するのが貴族から武士に変わり、近代以降では民主主義的な国家へとつながっていく。男性保護区みたいなのがどの時代にもあるのが特徴的だろう。


 定住生活をしていない旧石器時代では、今よりも男女比が少しマシだったようで1:28ぐらいと予想されているようだ。弥生時代頃には今とほとんど変わらない1:32程度になっているらしい。邪馬台国の女王卑弥呼が男王可夢偉に代わっているのが特徴だ。


 どうやら古代において男性は呪術的な役割を担っていたらしい。たしかに性行為によって子どもを妊娠させることができるかどうかといつのは、男性が少ないと神秘的に感じられたのだろう。

 そうした性にまつわる祭り、特に妊娠した者を喜ぶ祭りや男の子が生まれたことを喜ぶ祭りなど見慣れない文化もあった。


 平安時代の摂関政治など、藤原氏がたまたま男性がよく生まれたため成り立った政治とまで書いてある。確かに血筋が良くて、男性が生まれやすければそれは力を持つことだろう。


 歴史的に男性の家族というのが力を持ってきたようだ。権力者も婚姻の際に男性家族を蔑ろにできない。これを考えると、ホームステイ先の私たち日本人男性を大切にする彼女らの気持ちもわかるというものだろう。

 もし、家に残ってくれた場合、男性家族は日本にいるため、実質的な男性家族になれるというわけだ。


 鎌倉時代の北条氏がまさに源頼朝ならず源雷光の婚姻相手である男性が北条氏であったため、その家族が力を持つという典型例の一つだろう。


 面白い逸話が豊臣秀吉ならず、豊臣秀実である。40すぎまで子宝に恵まれず、権力者に上り詰めたものの子どもがいないというだけで評価は低かったようだ。忠臣として戦場に常にいたため仕方なかったようだが、子なしというのは社会的にバッドステータスであることが伺える。

 この頃には男性が出した精子を保存液にいれて取っておき、女性子宮内に直接いれる妊娠方法が既にあったようだ。たしかに精子は保存液に入れれば3日ほど持つのだろう。


 これで高齢出産をした豊臣はなんと男児を産むことに成功。その子に全力を注ぐようになり、当時の諸侯や有力な部下にはその男児の種を分けることで権力を誇ったようだ。豊臣の奇跡などと言われているらしい。

 こうして権力構造が安定し日本においてあったような関ヶ原の戦いは起こらず、男児と正妻の関係にあった徳川家が力を持っていく流れとなったようだ。

 


 学芸員さんの解説と二凧ちゃんの考察を聞きながら大和国の歴史と日本の歴史を考えていたが、歴史というのが修正力があるのではないかと思うほど似通っている。秀実のエピソードしかり、大きくて話は変わっている。これならば、大きくズレてもおかしくないと思うんだが、結局江戸幕府ができており、大筋は変わらないのが不思議だ。


 大興奮の本館が終わったところで、一旦休憩というより二凧ちゃんが、「話し合いをしましょう」ということで、展示館のすぐ外にあるベンチに腰をかける。


 二凧ちゃんと座って議論を交わしていたら、なぜかギャラリーができていたようで、警護官の人が等間隔にたって整列させているのが目に入った。


「大和の歴史は男性保護の歴史ですので、いかに次世代に繋いでいったかというのが当時の権力者たちの評価ポイントになります」

「むしろ1:30のような歪な男女比でここまで発展させてきた人類には感動するね。そのせいか日本の歴史よりもはるかに合理的というか、必死さが伝わってくるところが多い。男性がいないということは民族の断絶を意味するわけだからね」

「必死ですか、なるほどその視点はありませんでした。それに関連していえば、出産に関する医療がどの医療技術の中でも常に最先端だと言われているのもまさにそのためです。出産の歴史という名著があるのですが、人類の人口増加の歴史というのは、どのように出産の医療技術が進んできたかという歴史でもあります。本によると、貴重な男性が死産なんてことになれば、母親が自殺してしまうということもよくあったそうです。帝王切開も男児を守るために、母親を切るという選択から生まれたようです」


 出産の歴史か、とても興味深い本だね。興味は尽きない。

「村ぐるみで男の子を育てるというのも男を守る手法なんだろうね。ひと家族がもつと権力が集中して争いになってしまう。男の子は村全体の維持に必要不可欠だからね」

「はい、それに関して、男性の史という観点からいえば、権力者に男性が集まるというのは安全のためなんですね。そして権力者は集められた男性を分配する役割が残っています。そして、華族が今でも残っている理由として、村社会が崩壊していく中で華族家に一度男の子を預けて育ててもらった方が安全だということがあります。地方で華族が強いのは土地持ちというのもありますが、社会が高度化する中で核家族化が進む中、男児の子育て不安が男児を華族に任せるという方向に繋がっています」


 核家族化や都市部への人口密集なども日本と同じ課題を抱えている。もちろん地方の過疎化もだ。しかし、おこる理由はかなり違ってきている。

「非常に興味深い文化だよね。そしてそのような異なる文化をもつのにもかかわらず歴史がほぼ同じというのがまた面白い!この歴史の修正力というのを感じざるを得ないよ」

「政府は並行世界という言葉を使いましたが、まさに相応しい言葉です。今後日本と大和の様々な分野で提携が進めば大きく研究が進むと思います」


 会話はちょこちょことメモをとっている。これは大学時代からの癖だ。話をしているとすぐに忘れてしまうし、話が飛び散る傾向にあるからね。二凧ちゃんも似たタイプなようで、頭の中でまとめきれてないものをそのまま好きなだけ垂れ流しをするタイプだ。


 男女関係なく、こうした敬意をもって広い視野から議論ができる相手というのは貴重だ。どうしても知識量の差があったり常識が違ったりするとすれ違いから感情的になりやすい。そうした意味で男女比の違いという大きなズレを抱えているのにもかかわらず、真っ当に話せる二凧が優れた人物であることがわかる。

 実際に学歴が高かろうが、知識があろうが真っ当な議論ができるとは限らないのが現実であるので、非常にありがたい相手だ。ハーバーマスという偉人が対話的理性という言葉を使ったが、真っ当な議論には相手に対する敬意と寛容の心が必要だと私は思っている。


 吉田さんがそろそろ閉館の時間というので、学芸員さんに挨拶をして博物館をでるとことにする。学芸員さんは「大変貴重な時間でした。またいつでもいらしてください」とのこと。その顔は満ち足りていたので、きっと彼女も知識が好きな人間なのだろう。


 今度はぜひ国会図書館にも行きたいものだ。雑誌のバックナンバーが読みたいね。

 

 さて、日も傾き夜ご飯の時間となった。ついさっきに昼食を食べたような気がするが不思議なものである。


 既に食事の予約をとっているということで、高級車はお高そうな料亭に着いた。もちろんこのようなお店は入ったことないし、完全に私服で浮いてしまうと思ったら、吉田さんが事前に服を用意していたらしく着替えて入ることになった。大和の正装は和服なようで、姿見でみると、どうにも時代劇のコスプレをしているように思える。眼鏡に鋭い目つきが、和服との相性が絶妙である。時代劇ではなく明治時代の頑固者であれば似合っているような気もしなくない。

 

 中庭が見えるドラマでしか見たことがない部屋に通されて待っていると、衣装チェンジをした二凧ちゃんがやってくる。2つの三つ編みをおろして、艶やかな黒髪を腰まで流している。まさに着物ロリといった美人が恐る恐る入ってくる。戦前のお見合いシーンのようだ。


「まさに大和撫子という言葉が似合うね」

「う……学習院さんもすごくかっこよくて死にそう。いえ違います。すごく似合っているという意味でかっこよすぎて見られないとか、永久保存がしたいとか好きすぎるとかそう意味であって他意はないんです。あれ何言っているのかわからなくなってきた」


 凄まじく慌ててるね。なんだろうこのあざとい生物は。反応が幼いと可愛らしく見える者だが、身長も相まって微笑ましい気持ちで満たされる。

 こんな子の家にホームステイという名のヒモ生活をしているのは、人生何があるかわからないものだ。


「二凧ちゃん落ち着いて、お庭を見てみよう。侘び寂びって奴は大和国でも同じなんだね。心が落ち着くよ」

「はぅ……すいません。落ち着きました」

 

 和服というのは良い者だな。動きにくいだけの服装だと思っていたが、なんとも花があるとでもいいのだろう。見ているだけで心があらわれるようだ。

 しかし、この可愛さで自己肯定感が低いというのは日本ではまずないことだろう。おそらく二凧ちゃんは日本にいたならば、私と関わり合うことはないだろう。つまり、この光景はあり得ない光景だ。しかも、二凧ちゃんは私に好意を持っているときている。


 正直に言って、私はもう大和国に永住することを決めている。

 

 昨日、六法や法律関係書を借りて読んでいたところ、国籍法によれば、他国籍の男性も大和国籍の女性と婚姻すれば大和国籍が得られるとあった。また民法により、重婚は推奨されているし、婚姻関係のない性行為も問題ない。また、聞き慣れない男性保護基本法という法律があり、それによると男性側からの離婚はほぼリスクがない形になっていた。


 デメリットを挙げるとしたら、男性側は精子提供の義務が月1であるようだ。大和国憲法に男性の精子提供の義務と書いてあった時は流石に驚いた。

 どうやら、人工授精技術が相当進んでいるらしく、多くの女性は人工授精で子どもを産むようだ。婚姻はできなくとも家族を持つ機会、子が生まれる機会を平等に与えられるというのであれば悪くない政策といえる。他には重婚していない状態で離婚すると私の場合国籍がなくなるという問題がある。つまり長宗我部家の意向に逆らえなくなる可能性があるわけだ。


 もちろんこれらデメリットは、性欲が強く、対象範囲の広い男性にとってはパラダイスだろう。しかし、私のように背の小さい子どもっぽい女の子だけが好みだと慎重さが求められる。誰でもいいというわけではないからね。


「が、学習院さん、今日はどうでしたか?」

「非常に有意義な1日だったよ。文化的な差異について一層理解が深まったと思う」

「そ、そうですか!これほどに学問に富んだ知的な男性は大和国にはほとんどいらっしゃらないので好き、んんんえっとボクにとっても貴重な1日でした」


 私は鈍感というわけではないので二凧ちゃんが相当私に好意を持っているのはよくわかる。これだけ見せられてわからなかったら、コミュニケーション能力に問題があるだろう。

 二凧ちゃんの方は、小さい子は好まれないという常識からくる自己肯定感の低さと男性関係のコミュニケーションの不慣れ、好意の感情を激しく抱いたことがないといった複数の要因が、本人を混乱させているようだ。

 

 そもそも、恋に落ちるなどというのは脳機能のバグの一種である。感情系の脳が過剰に指令を出し、合理的に判断する思考系の脳を押さえ込んでしまう。もちろん没入感があり、それが快感となりうることは否定しないが、全くの良い者として称賛することはできない。


 二凧ちゃんにはわるいが、もう少しこの国を理解して立ち回りを決めるまでは気がつかないふりをして混乱していてもらうことにしよう。


 さて、懐石料理ってこういうことを言うのか。あまりにも良い料理が運ばれてくるので無言で食べてしまった。二凧ちゃんも何やら緊張しているのか、またカチカチになっている。博物館とは打って変わって静かな時間が流れる。


 しかし、静かな空間で、鹿威しが時折カコンと美しい音をならしているのはなんとも風流があるというものだろう。鹿威しは漢字の通り、元々は畑にある害獣避けであったらしいが、いつしか日本庭園の装飾となっていたようだ。


 先ほどから吉田さんが電話のため隣の部屋に引っ込み2人っきりとなっている。まだ、黒電話しかないようで、こうした料亭とかで電話を借りることはよくあるらしい。


 しかし、いつも男女だけになることはなく、吉田さんなどの人が1人はいたことを考えると新鮮である。安全面を考えると大人数がいいのだろうが、いつも少人数なのは、女性に囲まれることの心理的な男性の負担を減らすための配慮だろう。


 なぜだろうか、妙な展開である。今までのパターンからして、吉田さんが下がれば誰かが代わりにくるはずだが……


「あの!」


 思考が二凧ちゃんの問いかけで途切れてしまう。顔を見ると意を決したような表情だ。これはまずい予感がする。

「ん?どうした?」

「ががが学習院さん好きです!婚姻してください!」


 顔を赤くしながら二凧ちゃんが告白をしてくる。ちっ、やはり、吉田さんが下がった時点で気づくべきだった。仕組まれたか。それとも、もう少し展開があったが、二凧ちゃんを焦ったか。


 まだ婚姻関係がどうなるかがよくわかっていないからもう少し待ってほしかったのだが……

「だダメですよね!ごめんなさい!うっなんで焦っちゃったんだろボク終わりだ……うっううう」


 焦って相談せずにしてしまったようだ。ラブコメや青春ラブストーリーでもなければ、出会って3日で告白は少し早いと思うが……二凧ちゃんほど賢くても恋は盲目というやつなのだろう。あと初手婚姻はハードルが高い。誰かを大切にするという自信は私にはない。いや、こうして盲目になることを恐れているのかもしれないが、今は無難に流すとしよう。

 

「いやいや、別に嫌だと言うわけじゃないんだよ。ただ日本だと婚姻の前に付き合う、交際関係といえばいいのかな彼氏彼女の関係といって、婚姻の前段階のような関係があるんだよね。いきなり婚姻関係を結んだりしないんだよね」

「あわわわそんなうぅぅ……」


 交際関係ならばたいして問題がない。互いに嫌いではない男女だし、性的に全く興味がないのであれば友人関係というべきだが、そうではない。

 そして、二凧ちゃんという呼び方は対等という感じがしなくて、少しだけ違和感があった。これを機に変えておくことにしよう。

「だから交際関係から始めようか」

「えっいいんですか?」

「今日からは二凧と呼ぶから、二凧も下の名前で呼んでくれるかな?」


 これで一安心だろう。会話というのは別のものでかぶせていくのが基本である。

「ま、学さん……(名前で呼び合うなんてこんなの完全に婚姻だよ)」

「吉田さん、聞いてますよね。婚姻関係について教えて欲しいのですが」


 そう呼ぶと隣の部屋から襖がサッと開いて入ってくる。案の定、仕組んでいたようだ。種明かしをしてもらうとしよう。

 となると、今日のお出かけはデートのつもりだったのか。完全にホームステイで行きたいところを行っていると思っていた。これは盲点である。

 

「お嬢様、おめでとうございます。学習院様、この度は大変な失礼をおかけしました。お嬢様は恋する乙女の目をしておりましたので、ここ数日常に上の空。私どものお声がけにも全くと言って空返事でございました。いつか手順や策を考えず言ってしまうだろうと思っておりました」

「えっ……えっ?」


 なるほど、相談してというわけではないのか。相談していれば少なくともこちらにもう少し探りを入れてくることだろう。一般的に告白は勝率が高くないとしないと思われるからね。それにこの世界の婚姻はおそらく政治的、権力的なものが絡んでいるはずだ。なのでもっとうまいこと来るだろうと想像していたのだが...。

 

「吉田さん、大和国の婚姻関係を知らなくては同意もできないというのはあるのだが、私の調べによると、婚姻は結んでから男性側の意向で解消できると書いてあったけど、具体的にどういった流れで婚姻を進めていくの?」

「はい、大和では初めての婚姻の場合でございますが、家同士の見合いなどを通じて、女性側から婚姻を持ちかけ、男性側が了承すると通い婚と言いまして、男性宅に女性が遊びに行くこととなります。先ほどの話を聞くと、おそらく日本での交際関係に近いと思われます。そこで関係を深めていき、同居婚にいたることがあります。これは、互いに同じ家で住むことでして、大抵は男性のために女性宅の屋敷を提供するか、もしくは新しく建てた家に住むと言った形でございます。おそらく日本での結婚に近いかと思います」


 1人の男性が複数の人と婚姻する世界では、婚姻もかなり違うようだ。男性の住む屋敷を用意して、そこに一緒に住む人と、通ってくる人に分かれるのだろう。平安時代の貴族みたいだね。となると、おそらく結納金みたいなのもあるのだろう。通りで男性家族の権力が強くなるはずだ。

 

 婚姻周りの文化を抑えていけば、長宗我部侯爵家が無理矢理言うことはできないだろう。むしろ私に気を使わないといけない。それこそ早川君のところの誰だったか忘れたが、女性が言っていたように他の女性と婚姻して、そちらの家に逃げてしまうということもできるわけだ。

 

 最も婚姻相手を探そうにも、男性家族は、合わせる女性を制限することができる。つまり、出会いを拘束できてしまうので、今回は男性家族がいない私にとって、長宗我部侯爵家の意向が強くなるわけだが、ホームステイ中は婚姻を解消してすぐに帰国ができることから、無茶はできない。つまり暫くは安全だと言える。

 

「なるほどね。つまり先ほどの婚姻してくださいは日本で言うと付き合ってくださいというニュアンスだったということか。それなら全く問題はないよ。私も二凧のことは好きだからね」


 数分の長考の上、結論としてはこうである。性欲などの欲望は厄介なもので、大事にしようという思いとそれを無視して行為に及びたいという思いが同時に湧いてくるようになっている。面倒なものだ。

「おめでとうございますお嬢様」

「え?あ、ありがとう?」

「先ほどの話に戻るけど、大和国だと、実家で暮らしたい男性が婚姻をして通い婚をしてもらうということかな。しかし、そうなると、私は最初から同居婚になってしまうけど、何か不都合とかあるのかな?」

「長宗我部家は土佐に本宅がありますので、今お使いになっている屋敷は別邸でございます。ご自身のご実家のように東京の屋敷をそのままお使いください」


 あれほどの屋敷を自宅のように使ってと言われても管理は、長宗我部家がやるのだからそうはならないだろう。

「大和での婚姻は何か婚姻届などが必要なのかな?」

「実は、婚姻届を役所に届ける必要がございます。もちろん、届出は男性側の離婚届で破棄することができますので、ご安心ください。ホームステイ中は婚姻届が出せないと、日本国との取り決めでなっていると聞いております。しかし、婚姻の約束はできますし、届出をしない婚姻の約束自体はよくあることですから」


 これは、良いことを聞いたね。あくまでホームステイ先で、自由恋愛の結果結婚することになった。ホームステイが終わった後に、日本に帰らず、婚姻していったということか。しかも、婚姻届の日付がホームステイが終わる日などにしておけば、元からそういう目的ではなかったと押しとおせると考えているのかもしれないね。


「なるほど婚姻に関して詳しい書物があれば、たぶん大衆紙とかであると思うんだけど、買ってもらったりできるかな?」

「畏まりました。ご用意しておきます」

「ということで二凧、今日からよろしくね」

「あう、え、えっと不束者ですがよろしくお願いします?」


 不束者というのは大和でも使うんだね。二凧はいまだ混乱の最中にあるようだ。うん、まあ仕方ないね。二凧は、得意分野と不得意分野の差が激しいタイプなように見える。せっかくの才女が男女関係ではポンコツというのも可愛らしいとは思うが、勿体無い気もする。


 話しかけても、YESボットになってしまった二凧であるので、致し方なく食事を続ける。料理の味は抜群であるが、もう少し楽しく食べたかったかもしれない。


 後から聞いたら先ほどの料理は、縁結びの懐石料理だったらしい。店の名前も縁というそうだ。吉田さんとおそらく長宗我部侯爵は明らかに狙ってたな。


 嵌められた気分だ。これだから、権力者は嫌いなのだ。

 

学くんは人の気持ちを軽く見る傾向がありますね。

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