3日目前半
清々しい大和での3日目の朝がきた。べたついた湿度もなく、気温は心地よいものである。
食堂に行くと、既に見慣れたこちらをちらちらみている二凧ちゃんの姿がある。完全に惚れている人間の動きだ。「おはよう」とにこやかに挨拶をしておく。
「お、おはようございます。えっと、今日は外に見学に行きます」
「国会議事堂や東京駅の見学だね」
「はい!」
最初のうちは長宗我部家にお願いしきっている。こちらの情報が全くなく、危険性なども予知できないからね。国会議事堂なら、そこまで危険ではないだろうという予想で、リクエストしたが、大変だっただろうか。
最終確認をしているのだろう。吉田さんとなにやら打ち合わせをしている。本日は国会議事堂と東京駅、大和博物館の見学と聞いている。特に博物館は最も気になるところの一つだ。
午前中は国会議事堂と東京駅ということで、迎賓館から帰ってきた黒塗りの高級車で移動することになる。
華族家の屋敷群がある地帯を抜けて、コンクリートジャングルとも呼ぶべきか、東京の都心に出る。
二凧ちゃんとお話ししながら、窓の外を見ていると、教科書にのっているような国会議事堂が見える。国会議事堂はちょうど正面から綺麗に道が作られているので、写真写りが良さそうだ。
この辺りは日曜日ということもあり閑散としている。そういえば、見学は平日しかできないのではないかと思って聞いてみると、日本人男性が一般の日に来ると混乱が予想されるためという回答が返ってきた。誠におっしゃる通りである。
「すごいね、日本の国会議事堂と全く作りが同じだよ」
例の素晴らしい御影石でできた白い建物である。日本と同じであれば、明治期に威信をかけて作られたのだろう。
「本当に日本と大和はそっくりなんですね。逆に違うところとかはありませんか?」
「そうだね、あっ、あそこの銅像が変わっているね。日本では板垣退助、大隈重信、伊藤博文のはずだ」
国会議事堂には、日本の議会を作るのに貢献した三名の人物が銅像として並んでいる。国会開設の要求運動をした板垣退助、政党として初めての総理大臣となった大隈重信、初代総理大臣にして、大日本帝国憲法の制定に中心的な役割を果たした伊藤博文だ。
ちなみに、伊藤博文はドイツで憲法を学んで帰ってきているが、ドイツ語はできない。英語は堪能だったがドイツ語は通訳に頼っていたようだ。ドイツも立憲君主制だったから、ドイツの憲法を参考にしたかったようだね。
「自由党党首の板垣黛璃に、漸進党党首の大隈重嶺、初代内閣総理大臣にて、華族院の初代議長の伊藤千浩ですね」
「自由党は同じなんだね、大隈は日本では立憲改進党の党首だね。伊藤はほぼ同じだね。日本国憲法の前身となる大日本帝国憲法の成立に中心的な役割をはたした人物だ」
「大和でも大和国憲法の制定に中心的な役割を果たしたのは伊藤千浩です」
なんとも似たような歴史をたどっている。あくまで名前が違うだけでほぼ同じような人が同じように生きているのか。それにしてはなぜ、第二次世界大戦に参加しないことになったのだろうか。おおよそ男性が少ないこと以外大きな違いはないのだが、そこは大きく変わっているのが不思議だ。
「そういえば、大和では明治以降、拡張路線をとらずに近代化を推し進めたんだよね。よく侵略されなかったね」
「そうですね日本と違ってこちらでは、男性の確保というのが戦争の大きな原因になりがちです。古来から男性を得るために女性たちは戦ってきたという歴史があります。第二次世界大戦以降、世界規模の戦いを反省し、戦争の原因を探るとその要因として、女性の男性を得られないという不満が政府にぶつけられたとき、対外にそれを押し付けるようにして侵略戦争に向かうと現代では言われているほどです。なので男性の問題というのは、世界全体の課題なんですよ」
「戦争の原因として、政府が自分たちに不満を向けさせないように外に向けるということだね」
実際にドイツは第一次世界大戦で天文学的な賠償金を命じられ、国内がボロボロになった後に不況が相まって、ゲルマン人の誇りを取り戻すなどといってナチス政権が立ち上がっている。たしかに頭のおかしい賠償金をかけたフランスなどの戦勝国に問題があったので、より対外戦争に向かってしまったのだろう。その反省から第二次世界大戦では天文学的な賠償金は請求していない。ただホロコーストの問題があったのでこじれたのは事実だ。そもそも、戦争でこじれないことはほとんどないだろう。した時点で、苦しむ人が出るのは道理である。
「はい、ですが明治以降の大和政府は列強諸国から近代教育を導入し、一斉教育によって不満をコントロールし、確実に大和を守る道を選びました。男性を守るたくましい大和女性というイメージを作っていったと言われています」
なるほど、これは実に興味深い。日本にはなかった観点だ。日本でも近代化において教育は農村から人を取り上げ、工場労働者にする役割を果たし、産業の近代化に成功したが、教育勅語や修身の授業を利用して、同じ価値観をもつ日本人を作り出していったことはよく知られている。そこを利用したのだろう。
「なるほど、外に取りに行っている場合ではないと、侵略者から大和の男性を守らなくてはという方向に強くシフトしたというわけか」
「元々江戸時代に鎖国をするほど、保護傾向が強かったので明治以降は海外と国交を開くからこそ外から技術を学びそれを持って男性守り切るという勢いのある時代でした。華国、そちらだと中国でしたか、その前身となる黄国がヨーロッパ諸国に分断されているのをみて富国強兵政策が行われていきました」
アヘン戦争に近い戦争があったのだろう。大陸に土地を持ってないから陸軍の暴走もなかったということか。
黄国は威信を守るため大和に不平等条約、朝貢貿易を持ちかけ、沖縄をよこせと言ってきたのでブチギレた大和国と和黄戦争になったらしいが、近代化が進んだ大和国という軍隊の進化に加えて、守るためという大義名分による女性たちの意欲の高さでフルボッコにしたらしい。そして台湾と沖縄を手に入れたようだ。
他にもロシアにあたるオロス国が北海道を狙ってきたので銀帝国と同盟を結び、オロス国と和オ戦争になったようだ。引き分けに近い勝利で日本海とオホーツク海の権益とついでに千島列島や樺太をゲットしている。その後は特に手を出されず第一次世界大戦では漁夫の利をして太平洋の島をもらい、第二次世界大戦は参戦せずと来ているらしい。実に上手い立ち回りだ。
国会議事堂で、大和国の歴史解説を聞きながら、民衆院と華族院の両院を見て回る。華族院が若干華美である以外大きな差はなかったように思われる。若干の不完全燃焼を残して、国会議事堂を離れることになった。
ーーーーーーーー
次に東京駅だが、古めかしいというより昭和感漂う街並みに少し驚かされた。東京駅自体は元々レトロな作りだけれど、周りは暑苦しい超高層ビルや百貨店で囲まれているイメージであったが、ビルの高さが低いのである。再開発が進む前の東京駅といったイメージだ。皇居のすぐ近くということで再開発が抑えられているのだろうか。
駅に着くと黒服のSPみたいな女性たちが降りてきて軍隊ばりの整列をしている。
「二凧ちゃん、あれはなにかな?」
「あれは男性警護官です。男性を保護するボディガードのようなもので、厳しい訓練を受けてきた護衛のスペシャリストです」
軍人のように見える男性警護官は、私たちが車から降りると直立不動で出迎えてくれる。どうやら私の護衛のようだ。
「国交樹立したばかりの国の男性とはいえ、少し大袈裟なように見えるけれども、男性が外に出ると警護官がつくの?」
「そうですね。人が多いところに行くとどうしても押し合いになる可能性がありますので、男性警護官は必須ですね。彼女らは国家公務員ですので男性の要望か男性家族の要望があればほぼ無料でつけることができます。足らないと思った時は有料ですが民間の男性警護員もいますので安心ですよ、今回は日本人男性の護衛に関して多めに国家公務員の男性護衛官をつけるよう、男性省から通知が出されたのでこういう措置となっているそうです」
国家公務員として護衛がつくならたしかに下手に手を出せないだろう。今回は日本人男性に、怪我をさせたり恐ろしい国だと怖がらせると外交問題に発展するので厳重になっているところだろう。ちなみに、男性省という男性に関する特別な措置をするための省があるらしい。
「なるほどね。一応挨拶をしておこうか」
「えっと、男性が直接挨拶することは少ないと思うので喜ばれると思います」
護衛に挨拶するのはそこまでおかしなことだとは思わないが、まあ、警護が当たり前だとしなくなるというものか。それに自らあまり話しかけないのであったか。
「男性警護官の皆さん本日はよろしくお願いします」
挨拶をすると敬礼を返してくれる。そして1番大柄な女性が前に出てくる。モデルのような美人といってもいいだろう。某歌劇団で男役をしていそうな感じだ。
それにしても、駅にきてわかったが、大和国はなぜか美人が多いのだ。そういう遺伝子が生き残って行ったのだろうか。単純に見た目の審査があるだけかもしれないが……ルッキズムの究極系だね。
「学習院学様、私隊長を務めさせていただきます、剣持美剱です。よろしくお願いします」
「剣道が強そうな名前だね。こちらこそよろしくお願いします」
「はっ!剣道だけでなく居合いや棒術もしております」
よくみると腰に警棒のようなものを持っている。あれで殴り飛ばすのだろう。
「大和国の男性と比べて文化的な違いからおそらく危機感なく動いてしまうと思うけど、なるべく気をつける所存なのでよろしくお願いしますね」
「はっ!男性自身からの声掛けを頂き、我々も違いを大きく感じております!本日ほど我々の使命を強く感じた日はありません!全身全霊で当たらさせていただきます!」
暑苦しく、大袈裟な人だな。芝居でも見ているかのようだ。ぞろぞろと大勢を連れて東京駅へと歩いて行く。
歩いて行くと女性が群がらないのように、男性警護官が分かれて近づかないように整理している。飛行機からおりた有名人にでもなったかのようだ。
東京駅の中はいつも通りダンジョンと化していたがどこをみても女性しかいないというのがまさに異世界感ある光景といえるだろう。たまにこっちをガン見している女性がいるが、男性警護官にひと睨みされて撤退している。
たしかに男性警護官が必要だね。国会議事堂見学は貸し切りにしていたのがわかるね。なんか記者らしき人がいておそるおそる写真を撮っていいかと警護官に聞いて、こちらに言われたが許可しなかった。皇族か何かだと思っているのだろうか。何か問題が起きた時に写真が使われると面倒だし、許可は出せない。
路線図もほとんど一緒で感動していると、二凧ちゃんが路線について解説してくれる。本当に何でも知っているね。どこからそんな情報を集めてくるのだろうか。
見てみたかったお土産屋に移動する、なんとあの東京ば⚪︎ながちゃんとあった。全く同じ商品があると安心感があるのだが、この気持ちはなんだろうか。海外旅行でトイレがT〇T〇だった時のような嬉しさだ。
嬉しさ余って二凧ちゃんのお金で買ってもらってしまった……これがヒモというやつである。しかも見た目が子どものような二凧ちゃんに出してもらっているのだからなおのことである。
他にもお土産としてあるアニメキャラが色々と違うことになっている。コンテンツ的にほぼ女性向けになるからだろうか。
お土産屋を重点的にみるコースなようで、いくつか見て回ったが、ジャケットモンスターシリウスとアルタイルとかいう広告を見た時は大爆笑してしまった。完全に異世界のポ⚪︎モンであった。男性にも人気があるので大人気作品らしい。
二凧ちゃんはやったことないらしいので、やってみたいという旨を伝えたら吉田さんが買っておいてくれるらしい。ヒモ生活良すぎるね。もう日本に帰れない。しかし、堕落したいというわけではない。堕落したら良いように使われる恐怖があるからね。
そんなことをしていると、女性の悲鳴が聞こえてきた。そちらを見ると、一人の女性が取り押さえられている。
近くの男性警護官の人に何が起こったのかを尋ねると驚きの答えが返ってきた。
「あれは、大和の恥なのですが、変質者であります。服の下を脱いで男性の前に飛び出して、自らの裸体を見せるという珍妙な行動をしようとしておりました」
あぁ、露出狂というやつか。駅で露出狂をするとはなかなか豪胆なことだ。つかまっているのは30代手前ぐらいの女性だろうか。日本なら美人の部類に入りそうな見た目であるが、そういうのは変質者が好きな日本人男性に任せたいところだ。
「学さん。怖くありませんか?東京駅はどうしても人が多いので危険が避けられないんです」
「まあ、愚かだとは思うけど、適切に裁かれることだろうし、怖さはないかな。なるほど、こういうことがあるから男性は外に出なくなっていくのかな」
「はい、男性の9割がなんらかの女性関係で怖い思いをしたことがあるらしいです」
9割か、それは恐ろしいことだね。女性の性犯罪みたいなのが問題視されるわけだ。
評価をつけてくれた方ありがとうございます