屋敷探索
連載作品は初投稿なので、かけるところまで書きたいですね。
食後は外のテニスコートを少し見ていると二凧ちゃんが「ちょっとだけ打ってみませんか」とのことだったので、サーブ練習をした。
テニスは高校の授業時にやったのが最後だったので全くできないと思ったが意外とできるものだ。といっても玉がラケットに当たるというだけでコントロールができているわけではないが……
なぜか、二凧ちゃんは私が打つ姿を凝視している。大和では男性が運動するのがそれほど珍しいのだろうか。それとも順番待ちをしているのだろうか。
「二凧ちゃんは順番待ち?二凧ちゃんが打っている姿もみせてほしいのだけど」
「ボ、ボクですか」
誘うと意気揚々と見本を見せてくれる。なるほど、順番待ちをしていたのか。言わないとわかりにくい文化はまさに日本的である。
二凧ちゃんは、身長が低い分威力はないがフォームがとても綺麗で、少なくともしっかりと練習したことがあるのがわかる。スポーツはどうしても身長による影響が大きいものが多いが、それでも小さな体で懸命に運動しているというのは生命力を感じる。
テニスというと、上流階級のイメージが日本でもあるが、やはり大和でも同じなのだろうか。
「やっぱり華族はテニスが流行りだったりするの?」
「そうですね。明治以降華族の嗜みとしてテニスが流行りました。それに1:1でできて男性も女性もできると言うことで、その……ふ、夫婦の遊びとして人気があるんです」
以前天皇・皇后両陛下がテニスをされていたのがテレビに流れていた気がするが、それに近い感覚なのだろうか。
「なるほどね。日本だとイギリスから入ってきたスポーツで確かに上流階級のスポーツだったはずだからそれと同じなのかな」
「イギリスはたしかこっちでは銀帝国のことでしたね」
イギリスにあたる国は、銀帝国と呼ばれているらしく、案の定3枚舌外交をやっているらしい。銀連邦が日本でいうところの英連邦にあたり、かつての植民地のほとんど独立してしまっているようだが今でも繋がりはあるようだ。なお、南アフリカを未だに銀帝国が植民地にしているらしい。細かい所で歴史が変わっているものである。
「昨日教えてもらったけど、銀帝国はたしか男性保護政策が1番進んでるらしいね?」
「はい、政策のおかげなのか、日本を除けば男女比がかなり良くて、1:30ぐらいです」
私たちの世界でも先進国で、出生率が下がり、その改善として子育て支援を伸ばしていった国が特に北欧だが、銀帝国は男性支援をすることで、男女比を改善させようとしているようだ。
どうも人工授精よりも、自然生殖の方が男性が生まれやすいらしく、男性が意欲的だと男性の割合がより高くなるというデータがあるのだとか。
日本で聞いたら眉唾物の研究だと思っていたところだが、実際に男女比が良くなっているのを見ると、この世界ではそうらしい。
「男性の権利とかエンパワーメントとか言いながら、男性の強さを取り戻させつつ、保護する政策とかしてそうだね」
「男性の権利に関して主張してるのはたしかに銀帝国ですね。詳しくはありませんが、特に参画の権利でしたね。それを主張しているはずです。保護するだけでなく意欲的に活動するのを促すとか言っていた気がします。ちょうど今講義で銀帝国の政策をやっていますので聞いてきます。銀帝国ですが、大和とは昔の同盟国ですし、男女比が改善しているので注目の国ではありますが、油断ならない国なので注意が必要です」
参画の権利ね。子どもの権利条約と似た感じかな。男性も考える力があるはずだから、保護ばかりでは弱らせてしまうことにつながるだろうからね。男性が生まれにくいのも遺伝子的な問題だけではないような気もする。実際保護政策を変更した銀帝国のデータが事実であるなら、男性の積極性が健康などに影響を及ぼして男女比を好転させている可能性も考えられる。
しかし、それにしても、銀帝国も警戒されているのは流石というべきだろう。日本を狙って外交をしてくるだろうね。
「異世界でも扱いが変わらないのは流石イギリス、銀帝国といったところか」
「イギリスという国も親近感がありますね」
世界の国々に想いを馳せながら、テニスコートを離れ今度は遊戯室へと向かう。温暖化やヒートアイランド現象が進んでないのか春先の気持ちの良い天気だった。ピクニック日和というやつだろう。しかし、アウトドア派というわけではないので部屋の中に籠るのはありがたい話だ。
屋敷に戻ると、最後の遊戯室に案内される。遊戯室は、下がカーペットになっている屋内運動場といったところだろうか。児童館の室内遊戯室に似ているが、豪華さが違う。広さはバレーボールコート1つ分のサイズはある。
吉田さんがバレーボールを用意してくれたので見てみると、1つのつもりだったのだが、なぜかバレーボールが10個ほどあった。なんと準備のいいことだ。
バレーボールは私が唯一できるスポーツなのだが、受験勉強の合間にもボールを触り続けるぐらいには好きであった。最近ではめっきりやっていないが、唯一の外向的な趣味ともいえるかもしれない。
あまり意識的ではないのだが、バレーボールをするときだけ、数少ない友人曰く、性格が変わったように積極的になるらしい。もちろんバレーボールというのは、積極的にやらなければ試合にならないのだから当たり前だと思うのだが、その違いが、どうやら普段の様子とは違うと取られるようだ。
「とても良い遊戯室だね。それではバレーボールをしようか。二凧ちゃんこっちにおいで」
「はい!」
「まずはラリーかな。ほい」
ボールを投げると、二凧ちゃんは完全に腕を振ってしまっているので、ボールが明後日の方向に飛んでいく。もちろんダッシュで追いついて返すが乱れてしまって二凧ちゃんが空振りした。初心者あるあるである。
「ごごめんなさい」
「初心者あるあるだから、ちょっとこっちおいで」
「は、はい」
二凧ちゃんを近くまで引き寄せて、隣で構え方を見せる。バレーボールはほぼほぼ型ができていれば間違いなくできる。実際にボールを作った面にあてれば必ず飛ぶからだ。理論的で良いスポーツだと思う。
「さあ一緒にやってみて、まずは手を伸ばします。オッケー、次に両手を開いて重ねて親指を曲げます。いいね。そのまま握る。こんな感じ」
こちらの見本が早すぎたのか上手く出来ないようなので、手を握って形を整える。体がカチコチになってしまっているので肩を触って力を抜くように告げる。
「あわわ肩に……手触っちゃった」
「このまま腕を伸ばしたままで、足だけ動かしてボールに当てるんだよ。腕は振らないからね。中腰でそう」
腰を掴んで動かしてあげると、スムーズに動くようになってきた。
「はう……」
「だいぶいいよ。素晴らしい上達具合だ。そのままでボールを投げるからやってみようか」
「はう……」
返事が空返事だが、集中しているのだろう。余分な力が抜けてボールは綺麗に返ってくる。ナイス!声をかけながら続けると、体がリズムを掴んできたようだ。
ポンポンと気持ちのよい音が室内に響き渡る。なんとも心地よい光景だ。まれに勢いよく飛んでいってしまったボールは吉田さんがササっとボールを拾ってくれる。大変ありがたいことだ。
「バレーボールは理論でいけるってのを覚えておけば、二凧ちゃんならバッチリだよ。次は少しズレたところにきたボールをアンダーで返そうか」
「はわ……っは、はい!」
「足を動かして相手に面をむける。ここに当てれば必ず相手にボールはかえるから安心して、後はそこに間に合うように動くだけだよ。いいねうまいうまい」
「えっなんかできてる」
体が覚えてくれたら後は簡単だ。二凧ちゃんは私と同じでインドア派なのだろう。お世辞にも運動能力が高そうには見えないが、バレーボールなら大丈夫だ。アンダーやオーバーはどちらかというと眼球運動や距離把握・空間把握能力の方が大切だ。
運動が苦手な人が良く勘違いをしているが、自分の体を自分の思い通りに動かすというのが運動で最も必要な要素なのだ。苦しみを乗り越えるのが大切なのではない。楽しみながら、己の体が動くことを確認する。少なくともこれが私の思う運動であると思う。
「ラリーがもうできそうだね。いくよー」
ポーンポーンと平和にボールが返ってくる。後は力の加減を体が覚えていくのだ。しかし、少しの時間で一気に上手くなったものだ。これがバレーボールの面白い所だ。手を振り回していたのを足で運ぶようにするだけで見違えるほど上手になる。体感的にも非常に気持ちの良い状態だろう。
「あっ」
二凧ちゃんが体制を崩してボールがすっぽ抜けてしまう。無理に拾うが球が大きくぶれてしまった。
「ごめんなさ……ぎゃ」
何もない所に躓いて足首をグキッとやり、二凧ちゃんが転んでしまった。まずい転び方だ。急いで駆け寄り、足の様子をみる。今のところ腫れてはいないが、腫れは後からやってくるので注意が必要だ。
「大丈夫、足首やってない?吉田さん冷やすものお願いできますか?」
「承知しました」
吉田さんが飛ぶようなスピードで動いてくれる。
「全然大丈夫ですから」
「無理して立つのは良くないよ。よいしょ」
「えっ!えぇーーー」
小さな体を抱っこして持ち上げる。昔、子どもにバレーボールを教えるボランティアをしていた頃を思い出す。
「長椅子に座ろうか」
「お殿様抱っこってなに?現実?こう言うの本当にあるの?夢?日本だと普通?異文化?異文化?」
二凧ちゃんがブツブツと言いながら何やら慌てているようだ。顔まで真っ赤である。しまった!バレーボールでテンションが高くなってしまい失念していたが、そういえば男女比がおかしい異文化だった。つい子どもが捻挫したイメージでやってしまった。まあ「これは日本では普通です」で押し切るしかないだろう。
「学習院様、お持ちしました。おや」
「吉田さんありがとう。二凧ちゃん冷やすよ。多分大丈夫だと思うけどまだ無理せず、もし腫れてきたらすぐ病院に行こう。吉田さん、大和国でも捻挫の対応はこれで大丈夫かな?」
「お手本通りの対応だと思います。ただ男性が処置するということがございませんので、お嬢様の心拍数の上昇されておりますが」
おっしゃる通りで、二凧ちゃんの顔は赤く呼吸は荒い。いつもなら熱中症を疑う場面だが、今回は違うとわかる。申し訳ない気持ちでいっぱいである。どうやら、バレーボールをすると人が変わるといわれたのは間違ってなかったようだ。
「なるほど、それはすまなかったね。緊急時にどうしても異文化だという感覚が無くなってしまうね。二凧ちゃん大丈夫?吉田さんに代わろうか?」
「い、いえ!そのままで……そのままでお願いします!」
日本で考えてみよう。目の前で捻挫した男性がいて、女性が介抱する。まあ別にそこまで変ではないことのようにも思える。お姫様抱っこが余計だったぐらいか。女性が男性を抱えることは体格的にも難しいだろう。小さい女の子だったものでついやってしまったが、小さいことにコンプレックスがありそうな二凧ちゃんには悪いことをしたかもしれない。反省である。バレーボールをするとどうしてもあつくなってしまうようだ。
「学習院様、汗をかかれたことでしょう。一度お風呂に入られると良いでしょう。お嬢様の方は私が見ておきます」
「そうですね。よろしくお願いします」
吉田さんが助け舟を出してくれる。なんともできた方だ。まあ代わってもらった方が良いだろう。二凧ちゃんに別れを告げて、風呂へと向かった。二凧ちゃんは心ここにあらずであった。
風呂に入って部屋にいると、吉田さんがおやつの時間だと呼びにくる。なんて贅沢な暮らしだろうか。贅沢というのは1度覚えてしまうと、永遠にこの暮らしをしたいという欲求が高まってくるが、まずは情報収集である。
甘い汁を吸わせてから、不当な要求をしてくることなど、どの世界でもあることだ。
食堂に入ると、同じく風呂に入り着替えたのだろう。髪を下ろした二凧ちゃんがいる。
「二凧ちゃん足はどう?」
「はい!全く問題ありませんでした。ご心配おかけしました」
「それは良かった。嫌じゃなかったらまた一緒にやろう」
「はい楽しかったです。またやりたいです」
どうやら、元気になったようだ。足を抑えている様子もない。しばらくして痛みがなければ特に問題ないことだろう。バレーボールはまたぜひしたいが、男性がバレーボールをするのは珍しいことなのだろうか。
「日本だと男女でバレーボールをしたりするのもそこまでおかしなことではないのだけれど、大和国だとどうなの?」
「あまり男性は体を動かすのが好きではないので……好きでやっている人は少ないと思います」
「なるほど、適度な運動は健康に必要だと思うけどね」
「はい、なので家に遊戯室がある所は多いです。詳しくはしりませんが、男性健康コーディネーターという役職の人が楽しく体を動かす方法を教えて、適度な運動を勧めるそうです」
「手厚いね」
手厚い一方でやはり、保護のしすぎで小動物のような扱いをされているのが非常に気になる所だ。ドッグランに連れて行かれる犬のような気分である。いや、犬は喜んで走り回るから違うか。
おそらく、女性の中では対等な関係ではなく、弱い生きものとしてラベリングされているね。おそらく、男性の性欲の低下もそうした環境要因の影響もあると仮説がたてられそうだ。この辺りは研究している学者がいることだろうし、調べておきたいね。
「日本国の男性は運動をかなりされるのですね」
「そうだね。生物的には男性の方が筋力がつきやすいというのもあるけど、運動も小学校段階から体育で男女共用でやるし、中高生では部活動で運動部に入っている人も多いね。私はバレーボール部だったからね。バレーボールはかなり好きなスポーツなんだ」
体育と部活動しか運動をしていないといっても過言ではない。地方の学生は部活動が盛んな地域も多かったことだろうから、同じ境遇なものも多いだろう。
「本当に文化が違うんですね。男子だけのバレーボールチームというのもあるのでしょうか?」
「もちろんだよ。スポーツは基本男女で分かれていて、男子バレーボールチームも女子バレーボールチームもある。この世界だと女子バレーボールチームしかないということは日本の男子バレーボールはどうするんだろうね。混合にするのかな」
「一緒にすれば世界の女子チームは喜ぶと思いますが……」
基本的にスポーツが男女で分かれているのは筋肉のつきやすさや体格の関係で、男性の方が有利だからだ。性別の生物学的な差異に配慮して分かれているのだが、日本から男子1チームだけというのであれば混ぜてしまうしかないだろうな。
「流石に男子バレーボールチームが圧勝しそうだけど、まあこの世界だとその様子も娯楽としてはいいのかな」
「はい、強い男性というのはフィクションではありますが、憧れの対象ですので」
やはり男性が強いということがもはやフィクションになってしまっている。となると、男性が強く意欲的に活動するだけで、多数の問題が起こりそうでもあるし、逆に問題が解決しそうなものである。
日本の立ち位置が見えてきたね。国際的に強い男性像を打ち出していく国になっていけば、イニシアティブを得られそうだ。問題は侵略国家がいるのではないかという、軍事的なものである。
「なるほどね。あっもし時間があったらで良いんだけど、女子バレーボールの試合を見ることができたら嬉しいんだけど、試合の観戦とかってできそうかな?オフシーズンかもしれないけど」
「わかりました。調べておきますね」
大和国も含めてインターネットがない世界なので、すぐさまこうした情報を調べられないのは欠点だ。テレビや新聞、ラジオ、雑誌といったメディアで情報収集するしかない。日本でいうとオールドメディアであるが、なるほどたしかに、インターネットがない時代は大層重宝されていたことがわかる。
食堂で、バレーボールや男女比の違いによるスポーツの違いを話していたらあっという間に日も傾き、いつしか長宗我部侯爵も帰ってきた。
当主がきたら夕食のような家父長制ならず、家母長制度のようなものがあるのだか思いきや、男性は別枠らしく、そもそも部屋で食事をとる男性も多いのだとか。
そんな話をしながら、夕食の時間を楽しんだ。それにしても二凧ちゃんは、雑談だけで一日時間をつぶせるタイプだね。話したいことがたくさんあるようだ。私も同じなので、互いに相性の良いおしゃべり相手が揃ってしまったのである。会話を生暖かい目で見ていた侯爵が、二凧ちゃんの話の合間を縫って話しかけてくる。
「随分と仲の良いことだ。嬉しく思うぞ。学習院殿、学校見学だが来週の水曜日に予約がとれた。先方も乗り気だ。いつでも見学を受け入れられるほど、まあ見学には慣れている学校だから心配はしなくて良い。当日は私が案内しよう」
「文部大臣自らですか!?」
文部大臣の視察という名目で、早めにねじ込んでくれたのだろうか。政治的な裏事情もありそうだが……
「日本人男性が学校を見学というのは優先度の高い事柄だと思ってもらえれば君ならわかるのではないかな」
もしかしなくても、男性が見学というのは珍しいのだろう。政治的な駆け引きに男性の見学や、男性のパーティーの出席などが使われていそうだ。権威付けなどの側面もあることだろう。まあ、あまり穿った視点ではなく、無難なことを言っておくか。
「なるほど、男性が何かを見学すると言うこと自体が珍しいのに加えて、国交を樹立したばかりの異文化の男性、しかも男女比が1:1の国からの男性ということで注目度が高いということでしょうか」
「あぁ、その通りだ。学習院殿が意欲的で大変優秀なのは間違いないが、他の日本人男性も動くものがいれば各所で見学が盛んになり大和としては国民の活性化ひいては経済・国家の活性化につながる。日本人男性が見学をすることは安全面の問題を除けばメリットが非常に大きいと私は判断している。当日は記者も来るのだが、安全面や外交的観点から日本人の撮影は断っている。記者が近くにいることに抵抗などはあるか?」
経済の活性化ね。これはおそらくどの世界でもそうだが、努力を適切に認めるということは大切なことだ。インターネット時代は全世界に繋がってしまうが故に承認欲求が過大となってしまったが、本来身近な誰かに認められるだけで、十分なものである。
そう考えるのであれば、男性が女性の努力を認めるということが少ないこの世界においては、見学に訪れるというのはそれだけで、日々の努力が認められることになる。さらに、感想といった形で人の努力を認めていくだけで、社会の雰囲気がよくなると考えているのだろう。政治家としての、権力パフォーマンスであることも否定はできないが、今回はあくまでこちらからお願いしたものであり、双方に利益があるのだから問題はないだろう。
「記者の方と話すのでなければ問題ありませんよ。先ほどの話を聞いて思ったのですが、同じ男性1000人でも日本男性の方が明らかに活動的ではあると思います。特に、今回の集められたメンバーはわざわざ応募した人の上に、夢追い人が多かったですから」
「すいませんあの学習院さん、夢追い人ってなんですか?」
あまり使わない言葉だったか。というより曲の題名とかが元だっただろうか。
「あぁ歌の歌詞である言葉なのだけれど、夢を追う人と漢字で書く通り、夢を追って生きている人のことで、作家になろうとしてアルバイトで食い繋ぐ人や、ミュージシャンになろうと路上でライブをしている人のようになりたいものを目指している途中の人のことを指すね。その中でも今回来た人たちは、特に今が経済的に上手くいってない人が多いかな」
早川君に聞いてみたら、他の人たちの様子もわかるかもしれないね。実際に男女比がこのような国ということは男性が団結して、何かしら主張をするという機会が必要かもしれない。
「男性で歌手を目指す人もいるのですね。大和でしたら即大スターですよ」
「そうだろうね。でもこういうのは早い方が有利だ。早めに大和国に来られたのは私にとって幸いであったよ」
運よく日本の中では早めに来られたので、このアドバンテージは大きいだろう。何かしら形に残しておきたいものである。
「そう言ってくれると我が国としても非常に鼻が高い。個人的には学習院殿ほどの力のある人材が日本で活躍していないというのがよくわからないがな」
山の中で隠居していたから、活躍するはずもないのだが、大和国にきて、新しいものに触れると意欲がわいてくるというものだ。
「まあ私よりも優秀なものも多いですし、能力というのはそこまで大きく差はありませんから。強いて言えば成熟した社会でやっていくには私は我が非常に強いもので」
「たしかに意志の強いタイプにみえるな。大和の男性には見られないタイプだな」
「ボクはとても素敵だと思います」
二凧ちゃんは、既にお世辞ではなく本気で言っているのがわかる。男性が少ないからか、並々ならぬ好意をこちらに向けているようだ。変人の目を向けられることはよくあったが、好意を向けられることは少ないので新鮮な気持ちである。
「二凧ちゃんは私と似たタイプな気はするけどね。男性関係の自信はないみたいだけど、知識に関しては自信とその扱いに関して慎重さが見てとれる」
「あの男性と話すのは、まだ、な、なれてなくて……」
「女性はこうあるべきという常識に関しては文化的なものがある。一般的に男性は長身な女性を好み、自分は好まれないという考えはなかなか抜けまい。そうした常識を打ち破る素晴らしい男性が抱いてくれたら治るかもしれないがな」
「お母様!!」
そろそろ本音を隠さなくなってきたね。ホームステイの目的からして、狙ってくるのは間違いないのだが、まだ仕掛けてはこないだろう。こちらは牽制だけでいい。
「ご存知かもしれませんが、日本では男性の方が女性よりも性欲が高いです。一般的に性犯罪は男性がするものですからね」
「大和女性であれば合意がとれる。ふむ天国ではないか。大和女性を送り込むことにしよう」
既に交換していると思っていたが、どうやらまだのようだ。日本側はそういう用意はできないだろう。まずは外交官レベル、そして知識人レベルとの交流からしているのだろうか。
「外交関係はよく知りませんが、男女関係でいうならば、男性側がリードして婚約することが日本では多いのです。おそらく大和国では女性がリードして婚約をするのだと思いますが、日本では女性が選ぶ側にまわりがちなのでね。大和国ではおそらく女性が告白をし男性が許可をするという形になると思いますが、日本では逆になります。最近は男性側も結婚願望が下がってきていますが、女性が求めてくる条件が高くてめんどうだから結婚しないと言う人が多いと思われるので、女性側から積極的に告白されるのであれば大和国は男性にとって嬉しいこととなるでしょう」
「なるほどそれは大きな文化の違いだな。これは大変貴重なご意見感謝する。外交官はなかなかそういう情報を落としてくれないからな。やはり同じ釜の飯を食うと言う言葉があるが、別の文化というのは共に暮らし、共に飯を食べることでわかるのだろう」
華族というか貴族っぽくはない荒っぽさを感じるが、長宗我部侯爵は非常に良い意味で寛容な感覚を持っているようだ。よく言えば庶民的な印象を受ける。
最も、日本の政治家も話してみると庶民的で努力家の人物もいるのだが、なかなかそうした側面が表に出てくることはないのが残念だ。
「まさにその通りですね。私も肌で文化的な違いを感じています。日本では当たり前でも二凧ちゃんの反応を見ていると大和国では当たり前ではないのだなということがよく伝わってきますね」
二凧ちゃんを見ると、小さな体をさらに小さくさせている。
「うぅ……観察されてます……」
「ははは、完全に遊ばれておるな。学習院殿は女性経験は豊富なのかな?」
「いえ、女性の友達はおりましたが、付き合っていたことはありませんので、性的な経験もありませんよ。二凧ちゃんほど男性に初心な子は日本ではいないので、流石に経験値では上回れるとは思いますが」
女性の友達などあり得ないという人がいるが、男女の友情はありうるのかという議論に対して個人的にはあり得ると思っている。というのも、性的な対象として互いに見ていない男女であれば当然、性対象ではない関係になるので、対等な関係を結べば友達と呼べるだろう。
つまり、私のように小さい子しか対象にしていないと普通にありうるのだ。逆に女性への性的興味の幅が広い男性だと、男女の友情はあり得ないと考えることだろう。性への欲求というのはそれだけ、人間の占めている割合の大きなものなのだろう。
「そうか男女比が1:1ということは、当然男性が、婚姻関係なく対等に話し合うということもありうるわけだ。考えてみると、女性側が襲うということがないのであれば男性が女性に怯える必要もない。なるほど、頭では理解できるが感覚的には全くピンと来ないな」
侯爵はわかるがわからないといったところだろうか。理論と体にしみ込んだ感覚というもののズレはよくあることだ。
「日本でも男女に本当の友情はありえないという人はいましたが、そう言う人は大抵は男で性欲が強いので性対象としてすぐ見てしまうからというニュアンスでしたね」
「面白い話だな。大和の女と日本の男、なんとも相性が良い。我々の未来は明るいことだ」
現状の情報だけだと十分に同意できるというものだ。大和の女性が保護が強いものの男性側が上手に乗せていけば、尽くしてくれる女性だと考えられる。日本でこんなことを言おうものなら人権屋とでもいうべき危険人物から、女性差別のレッテルを張られることだが、男女比が歪な世界ではむしろこのぐらいしなくてはならないだろう。
「はい、言語を同じとしているのも大きいと思うので、同盟国になってくれると日本国民としては嬉しいですね」
「同盟か日本でも既に噂ではあるのか、よく知っているな。同盟の方は近々成り立つ予定だ。日本は自衛権はあるが交戦権がない特殊な憲法をしているらしいからな」
予想通り、同盟の方が予定されているらしい。吸収合併されなくてよかったといったところだ。
「えぇ、日本は第二次世界大戦で負けまして、GHQによって戦争ができないようにされたのです」
流石に周りの国がいなくなった今、こっそりと平和憲法も改正することだろう。
「なるほどそれで同盟を焦っていたのか」
「はい、ただ異世界に来たので憲法改正をして9条が変わるでしょうね。元々他国からの圧力があるので変えられなかったというのが実情に近いので、今の政権与党は改正に前向きですから」
そういえば、どこかの大国が隣国に侵略していたがどうなったのだろうか。この世界の戦争事情も調べなくてはならない。
「国家の緊急事態と言っても過言ではないからな」
「日本では緊急事態宣言が出てましたからね」
雑談をしていると夜も更けていく。長宗我部侯爵も知識が豊富で特に外交に関して深い知識を持っていた。それだけではなく、やはり話し方も匠であり、知ることに貪欲である。知識に敬意をもつ人物というのは尊敬できる。二凧ちゃんも話題に入りながら、楽しい時間を過ごした。
夜も更けてきたので解散した後、部屋で大和の法律を確認しつつ、明日の予定を確認して大和での長かった2日目の眠りに着くのであった。
随分と長い2日目である。
銀帝国は世界3位の経済大国です。