予感
部屋に呼んだのは今綺麗になっているからである。ここ数日はメモと本が乱立していたが、茸木さんに整頓してもらったので人を招き入れることができるというわけだ。
「二凧、今日もお疲れ様だったね」
「はう……はい、あのありがとうございます」
「これで婚姻関係というか、バランスはいい感じになると思う。協力してくれてありがとう」
「最上伯爵が響さんを養子にしたことで、うちが独占していると周りから見られることは減ったので、対外関係的にもバランスがとれた感じにはなったかなとボクも思います」
ホームステイで親代わりにもなっていたのが厄介ポイントだよね。
「これで問題の大半が終わったから、腰を据えて今書いている日本と大和の文化の違いをまとめていこうと思うんだよね。大和の人は結構、日本に興味があるみたいだから大和で出版しようと思うんだよ。どうだろう、また二凧にも聞くことがあると思うんだけど、手伝ってくれる?」
「はいもちろんですよ。すごく良いことだとおもいます」
ネタはたくさんたまっているからね。今日の結婚式の話なんかも面白いし、歴史の違いなんかもたくさん面白いところがある。日本の教科書なんかも私のタブレットに入れてきてあるから教科書の比較もできる。楽しみが止まらないね。
「ありがとう、協力のところに名前を入れさせてもらうからね。それで、それに関連して聞いておきたかったんだけど、何歳ぐらいで子どもが欲しいの?」
「ぶっっ、ごほっごほ、ご、ごめんなさい。もう一度聞いてもよろしいでしょうか」
二凧がむせ始めたが、実はこれは大切な問題である。
大和だと女性が子どもを産むというのが残念ながらマストに近い。これは人口の維持というのが私たちの世界に比べるとシビアであることが理由だ。そのため、日本に比べると、産みたいという思いも強いので大丈夫だとは思うが、逆にいうと人工授精があるおかげで、計画的に妊娠をするということが可能である。
となると二凧のキャリア形成、人生設計の中では妊娠というのが入ってくるのは自明である。そして、婚姻関係を結んでいるので、いつぐらいに妊娠がしたいのかは聞いておかないといけないだろう。
「妊娠ってある程度計画的にしないといけないと思うんだよね。女性がメインで働いていることを考えるとキャリアの形成にもかかわってくるわけだし、そういう意味で二凧はどれぐらいで妊娠をしようと思っているの?」
「えっと、それはま、学さんがせ…提供してくれるという意味ですか?」
提供?人工授精の話かな。自然生殖の方が男性率が高くて良いと聞いたけどね。
「?人工授精の話?自然生殖の方が良いって言ってなかったっけ?」
「自然……生殖……性行為をしてくれるということで……しょうか」
言葉がつっかえだしたね。また言いにくい内容なのかもしれないけど、そうか、大和では男性の性行為の同意をとるのが大変のようなことを前に言っていたからかな。これを悪用されたのが早川君であるから二凧はそこを注意してくれていたのだろう。
「大和での自然生殖の価値がよくわかってなかったからあれだけど、婚姻関係を結ぶのは性行為をある程度想定したものだと思っていたけど違ったのかな」
「い、いえ違いますというか違わないのですが、想定していなくて」
忘れていたが婚姻というのは付き合っているにニュアンスが近いのか。それは悪いことを聞いてしまったのかもしれない。しかし、そうなると日本でいう結婚というのはどこから?あぁそれが神前式なのか。納得である。
「とりあえず、自然生殖の同意があるという前提で教えてほしいんだけど、いつぐらいに妊娠したいとか、どういうキャリアプランを考えているの?」
「は、はい!ボクはまだ考えてなかったので、一般論として女性は基本的に20歳から30歳までには第一子を産みます。とはいっても25までには基本的に産むと考えています。高卒の方は18から働いて2から3年経つとちょうど人工授精で子どもを産むことが多いですし、大学に通っていると、ゼミに入る前に産時休学を使って子どもを産むことが多いです。大学卒業を待っていると遅くなってしまいますし、就業してから1年たたないと育児手当がもらえませんからね。あっ育児手当に関してはただ男の子が生まれた場合は別ですし、自然生殖の場合も別です。自然生殖の場合は、人工授精よりも妊娠する時期をコントロールしにくいですからね。でも男性とお近づきになれる仕事に就ける場合は、25歳まで待つことも多いです。自然生殖を前提とした婚姻可能年齢が大体25歳だといわれていますからね」
流石に二凧は詳しいね。日本の妊娠に関する仕組みに比べると男女比がおかしな社会だとそのあたりの支援は充実してそうだね。日本でもよくあるが、博士号までとるような高学歴になると母体的な意味での出産適齢期を逃してしまうから、大学生中に出産してしまう場合も一般的にあるということかな。
逆に婚姻を狙う男性警護官とかだと25歳までは妊娠せずにいくというわけか。随分とシステマティックな出産になっている。人工授精がメインだと時期をコントロールしやすいし、産休や育休のような仕組みもかなり機能していそうだ。まあ、産んでも育てやすいのだろうね。
「二凧は20歳だったよね。早めがいいの?」
「は、はやい方が嬉しいかも、です……は、恥ずかしい」
自然生殖だと羨ましさ以上に尊敬の眼差しで見られそうである。できちゃった婚とかこの世界にはなさそうな言葉である。二凧が相当恥ずかしがっているので、妊娠の話はやめることにしようか。大和だと自然生殖はどうやら羞恥心をあおってしまうようだ。人工授精の話は恥ずかしくないらしくよく違いがわからない。
「その辺りについてはおいおいということかな。私としては、二凧とするのが嫌ではないということだけ伝えられればいいかな」
性行為による妊娠の確率って30%ぐらいしかないしね。人間なので欲望はあるわけだから、二凧ほどの相手だともちろんしたいわけだけど、妊娠は女性側の都合の方がどう考えてもメインだしね。大和だと男性側は種を分けるイメージなので、欲しい時にあげるという形になるだろう。
「はい……う、うれしいです。ぐすっ」
泣き始めちゃったね。二凧はかなり慎重だから一気にこっちが飛び越えている可能性もあって申し訳ない。悪いと思っているが改善されることはないだろう。
「二凧は大丈夫ではなさそうだね。そうだ、響と婚姻したことで動きやすくなったから、色々と行きたいところがあるんだよね。土佐も行ってみたいし、旅行に行きたいよね」
「旅行ですか?土佐来ますか!」
「そうだね。土佐行ってみたいよね。ホームステイが終わって正式に婚姻したらいこうか。土佐の行けるところとか調べないといけないね」
「はい!調べておきます!」
二凧は結構新しい情報があると、すぐ切り替えられるタイプのようだ。ウキウキで土佐の話をし始める。高知県という県はなく土佐県だが、徳島県も飲み込んでいるので大きな県である。なお香川県と愛媛県は合体して愛媛県になっている。四国という名前ではあるが二国しかないのは少し寂しいものだ。
二凧の話を聞きながらホームステイを振り返る。長かったような短かったような、しかし日本にはしばらく帰らずに大和に残ることになるだろう。今のところ順風満帆である。だが、どうも嫌な予感が拭えないのはなぜだろうか。




