最上伯爵
屋敷に帰ると、いつも通りの二凧だけでなく響がお出迎えをしてくれている。
「響、2日ぶりぐらいかな」
「お、おう、今日はちょっとあいさつに来させてもらったぜ」
そう響が言うと、後ろからドシドシと大柄な女性があらわれる。身長190cmはありそうだ。
「お主が学習院殿だな。最上伯爵家当主最上奈義だ。よろしく。うちの親族がお世話になるな。めでてえことだがハハハハハ」
豪快な人だな。勝手なイメージだが華族家というと、華やかなイメージだったんだが、どちらかというと服装がしっかりしている山賊といった印象だな。
長宗我部侯爵と相性悪そうだけど、もう少し性格とかを探る必要があるかな。
「最上伯爵、こちらこそよろしくお願いします」
「おう。堂々としちょるの。テレビに出たりお見合いパーティー開いたりするやつはちっとちげえな。可愛げはないがいいじゃないかがハハハハハ」
これだと大和の男性がビビってしまうだろうな。それを踏まえての発言なのだろう。
「ご当主様ちょっと圧かけて試すのはダメだって、あっダメですよ」
「今話題の男性が本当に自分で行動しているのかを試さねえと関係性がわからねえだろ?普段はちゃーんと大人しくしとるわい」
よく婚姻できたなこの人。同性には受けそうだが大和の男性受けは悪そうだが……いやもしかしてこういう女性が好まれるのだろうか。大和はわからないな。
「試してもらう分には構いませんが、そろそろ中に入りませんか?」
「おっそうだな。中でじっくり話させてもらわねえとな」
「学さん最上伯爵はこういう方です。こう見えて地元では慕われていますし、意外に繊細なやり取りを大切にされるお方です」
二凧がなぜかフォローを入れてくれる。
「人を惹きつける魅力があるタイプの人なんだろうね。二凧、フォローありがとう」
「い、いえ、怖がられてはいないですか?」
「学会発表にいる教授より怖いものはこの世にないよ」
文系の研究って少なくともその分野において「日本で一番詳しいです」ぐらいまで準備してないとボコボコにされるからね。なぜか幅広く詳しい教授たちが知らない知識を持ち出してくると対策ができずに詰む羽目になる。
「そ、そうですか」
部屋に入るとテーブルには侯爵と伯爵が向かい合って座っている。2人とも声は発していないが目からは火花が散るような勢いである。この2つの家は特に関係がないはずだが……
侯爵と二凧の間の席に座っておく。たぶんポジション的にここだろう。正面に響がいるしね。
「最上伯爵殿、良くぞいらした」
「長宗我部侯爵殿、この度は良きご縁談誠に感謝申し上げる。我が親族の女から大勢の女性を吟味した上で男性自ら選ばれたというのは大変僥倖であります」
「いやはやおめでたいことだ。学習院殿も2番目の妻として十分な器量を持つものを選ばれたと思う」
最上伯爵話し方変わりすぎでしょ。あと、言葉の上では互いを褒めあっているが裏では完全にマウントの取り合いをしているね。最上伯爵は男性が選んだところを強調し、侯爵は響が2番目として選ばれたことを強調しているね。
「学習院殿、この度は我が娘を妻に選んでいただき誠に感謝申し上げる」
ん?さらっと流しそうになったが娘といったけど姪では?
「響さんは姪でしたよね」
「それは先ほどまでの話であります。学習院殿の素晴らしさの2番目の妻ということであれば伯爵家の親族では弱いというもの、響を我が養子に迎えいれる所存であります」
「ご、ご当主様!?」
響も初知りだったようだ。想像するに分家の娘と本家の娘だと意味合いが変わるのだろう。この辺りは華族のバランスとりなので響本人が良いならまあ良いだろう。
「(二凧、娘となると格が変わるという意味?響にとってデメリットはある?)」
「(はい、その認識で合っています。学さんをの素晴らしさをみて女性が増えていくと考えた伯爵が、2番目の地位を守るために養子にしたのだと思います。響さんに損はないですね。むしろ羨ましがられることです)」
なるほどね。増やすつもりはないけどね。
伯爵が考えている通り仮に増えていくとすると、例えば男爵の娘と伯爵の姪だと男爵の娘が勝ってしまうことがあり得るみたいな話か。普通なら大した問題じゃないのだろうけど、最上伯爵は日本男性というところに希少価値でも感じたかな。
「学習院殿は実に利発で知的な男性でありますな。響はこう見えて賢いでありますし、警視庁に入社し、幼い頃から合気道をしており物理的に守れる力強さもあります。見た目が小さいことだけが玉に瑕でありましたが、見た目にとらわれない学習院殿の本質を見る慧眼やあっぱれであります」
合気道をやっていたのか知らなかったね。
「まさにその通りだな。学習院殿のように男性でこれほど考えているものは大和には皆無と言って良いだろう。二凧も我が娘ながら賢いと思っていたが、これほど知的な男性と結ばれるのはまさに引き合わされた運命と呼ぶべきものだろう」
今度は私をほめつつ響と二凧が褒められ始めたな。これはこういう風習なのかね。
「(二凧、2人で褒め合っているのは何?)」
「(これは一緒に男性を守って行きましょうという会話ですね。風習みたいなものです。男性と婚姻するにあたって男性の奪い合いにならないよう昔から色々な手法がとられてきましたが、その一つで自分の娘をほめた後、相手の娘をほめます。両家が力を合わせていくという誓いのようなものですね)」
不思議な風習もあるものだ。それから二凧と響を褒めながら私へのヨイショが数分にわたって続いた。
私の功績なんかを並べるのも風習としてあるのだろう。それにしても、事実を並べるだけでこの一ヶ月弱でバレーボールの実況したり、小学校で話したり、テレビに3回ほどでたり、早川君助けに行ったり、男性の会を作ったり、お見合いをしたりと結構やっているな。しばらくはゆっくりしたいものだね。
「なんと素晴らしい男性であります!長宗我部侯爵殿、侯爵の娘の二凧殿ぜひ我々が共に手を取り合い学習院殿を守ってまいりましょう」
「誠に同意だ。最上伯爵殿、伯爵の娘の響殿よろしく頼む」
そういいながら固く握手をする2人、心にも思っていなさそうな顔をしているね。
「学習院殿に聞きたいのだが、学習院殿は神前式を挙げられる予定はあるだろうか」
最上伯爵が突然こちらにふってくる。
神前式?結婚式の一種類だったかな。たしか神道系の結婚式という印象がある。正確には知らないが挙式、婚姻の契りを結ぶにあたってのルールの違いが日本にもあるようで、有名なのは教会式のような日本語の怪しい牧師さんがカタコトで「スコヤカナルトキモ」とか言っているあれだ。
「日本でも神前式はありますが、そこまで有名ではないと思いますね。ただ結婚式についてはそこまで詳しくないですので挙げるかどうかというのは回答を保留しますね」
「なに?日本でも結婚式を挙げることがあるのか。それはいいことを聞いたわい」
最上伯爵の口調が早くも崩れている。結婚式というワードに反応したようだが、なんだろうか。
「二凧、結婚式の種類の中に神前式があると思っていたんだけど、違うの?」
「け、結婚式!え、えっとそうですね。大和では神前式といって家同士を結ぶ式というのが行われます。結婚式というのはその、あ、愛し合う2人が結ばれる式のことで、夫婦の結ぶ式とでも言いますでしょうか……」
別者だったのか……これはやらかしたね。つまり、男性を擁立する家と結ぶというのが神前式で、個人的な2人が結ばれるのが結婚式というわけかな。先ほどの話ぶりからするに神前式の方が一般的のようだ。
となると、婚姻関係を結ぶという家同士のつながりがメインのところに、西欧式のスタイルでも入って来てそうなったのかな。
「なるほど、結婚式は西洋からの輸入ということかな」
「はい、大和では婚姻の時に式を挙げることがありましたが、婚姻式といいまして、今でいう神前式や仏前式のような神仏の前で家同士の繋がりを表明するという意味合いが大きいものでした。ですが、明治維新以降、西洋から結婚式と呼ばれる挙式スタイルが入ってきまして男女が結ばれるという形も広がったと言われています」
そもそも大和では結婚式と神前式が完全に別者として扱われるいうことか。それは知らなかったね。
「ふむふむということは、神前式をしてから結婚式をするということもあり得るということになるのかな?」
「あ、あり得ると思います。でも男性はそもそも式典を嫌がるのでその、神前式もほんの少しだけ出ることがほとんどですし、ましては結婚式だなんてされる方はほとんどいません。以前、結婚式を挙げたという事例もあるようですが、物語になったりするレベルですね」
その感じだと結婚式を斡旋している会社とかもないわけか。
「日本人男性だと神前式はあまり馴染みのある名前じゃないから、内容を聞くとたぶん結婚式だと勘違いするだろうね。日本だと神前式も結婚式の1つで、家同士の繋がりもあるけど男女が結ばれる式でもあるからね」
「そういうことなんですか。だから神前式といったとき、結婚式に詳しくないといったのですね」
結婚式って男性よりも女性が好きなイメージだけど、大和でも変わらなさそうである。
「婚姻の風習の違いは日本と大和で最も大きいところであるな。しかるに学習院殿と我々で擦りあわせが必要だ。この件は後ほどということでよいな最上伯爵殿」
「もちろんであります。長宗我部侯爵殿」
最上伯爵が突っ込んできたということは、華族家にとって神前式はなんらかの意味合いが大きいのだろうね。結婚式にさして興味はないが文化的側面の違いは少し興味がある。
「二凧は結婚式がしたいの?」
「し、したいといいますか!全女性の夢といいますか!いえ、はい!したいです!」
慌て始めたな。最近なくなってきたけど初期にはよくあった光景だ。もう懐かしさも感じる。しかし、二凧が結婚式をしたいならやってもいいな。
「すこし調べておくよ」
「はい!よろしくお願いします」
「(長宗我部の娘は随分と信頼されて仲がよさそうだな。響、注意して関われよ。男は依存させれば勝ちだ)」
「(ご、ご当主様!が、がんばります)」
最上伯爵の方も何やら考えているようだな。侯爵家に追従するような感じではないのでとりあえず最悪のパターンである共謀するという路線はなさそうである。
「学習院殿、忘れていたが最上家からの贈り物で男性警護官をつけさせてもらおうと思っている。既にS級の男性警護官をつけているとなると、必要ないかもしれないがいかがしようか」
ついにきたね。いや、男性警護官が欲しかったんだよね。
「紅音は非常によく働いてくれていますが、私がよく出かけることもありオーバーワーク気味に思えます。過労はコストパフォーマンスを下げてしまいますので、もう1人男性警護官をつけてほしいとおもっていたところです。ぜひ、ありがたく頂戴したいです」
「本当にはぁ、優秀だわい。山形の地方活性案とか考えてくれんか。そうだそうだ、男性警護官についてはこっから選んでくれ」
そういってまたもや分厚い冊子を目の前に置く。前の冊子とすこし違うけど何か違いがあるのだろうか。
それに地方活性化か経済はあまり専門じゃないので無理だろうな。日本と違って男性をどうするのかが要因として大きいから、考えるのは面白そうだし男性が動くとたしかにおおきく変わりそうなのは興味深いところではある。
それこそ早川君とかそういう話が好きそうだろう。日本とかがちょうどその状態だが、安い給料で企業が儲かる仕組みから抜け出せないものだから、国内の消費が進んでいかず給料も上がらず全体的に若い人の諦めムードが広がっている。するとバリバリ働かずそこそこでよくないかと消費活力も減ってきて、労働意欲も下がり生産能力もさがっていくという悪循環である。
この世界において今見ている感じ、男性をどうするかという部分にかなりエネルギーが集約されているので、そこをつつけばよくなるのかもしれない。どちらにせよ勢いがないのだろうなという気はするね。日本は特にそうだが、企業や政治が一体となってそういう仕組みを作ってしまったといえるだろう。
「大和において鍵となるのが男性だというのはわかりますが、山形県の状況については何とも言えませんね」
「男性をどう動かすのかを男性が語るのか。はぁなるほどな。男性の知識人ってのはこうくるのか。おもしれえ、ぜひ山形にも遊びに来てくれ。じゃあ俺は帰る。学習院殿これからどうぞお頼みもうす」
そういって、ずんずんと帰っていった。なんというかブルドーザーみたいな人だったな。
「なかなかパワフルな人だったね」
「お恥ずかしい限りだぜ。あっ限りです」
「よいよい、最上伯爵のところは良い意味で華族らしくない、地方の実力者というのが良さだろう。仙台の伊達侯爵家と並んで東北を代表する華族家よ」
大和において地方自治体の華族の影響力は大きい。感覚的にはわからないけど、土地持ちのタイプの華族だと、地方の首長みたいなイメージということでいいのではないだろうか。選挙をしない地方の王様みたいなものかもしれない。
なお大和でも地方選挙はしているが、その地方の華族家が強すぎて華族家が推す人物がなるのが通例であって、実質選挙の意味がないような状態である。まあ地方の民主主義成り立ってないといえるだろう。
それでも華族院がある関係で衆議院の方の国会議員を選出するのに華族家は関わらないという不文律があるらしいので、一応国政は民主主義といえるのかもしれない。ただ日本に比べると地方自治がかなり強くて中央集権がかなり弱いという感じもある。
「一応バランスを考えた婚姻で、私なりに調べてみた感じとイメージは違っていたけど最上伯爵は勢いがあって悪くなさそうな人だね」
「悪い人ではないと思います。ちょっと豪快すぎる気もしますが……」
「お、おうなんかすまねえ」
響は最初あったときより小さくなった気がするね。
「これからもよろしくというところかな。響は今日から泊っていくの?」
「おう、まだ荷物が届ききってないけどよ。住むのだけは今日からの予定だ」
同じ家にいれておくことで、パワーバランスがより取りやすくなるだろうね。長宗我部家が何かしてくるとはもう思わないけどね。それよりも最上家も頼れるようになったのが大きいかな。
「わかった、今日からよろしくだね」
「お、おう」
「二凧、ちょっと時間あるなら部屋に来てほしい?もちろん紅音もきて」
「?わかりました」
不思議そうな顔の二凧を部屋に招待する。侯爵がなぜか嬉しそうな顔をしていたが、今後の相談をするだけである。侯爵の喜ぶようなことはしない。響が顔を真っ赤にしていえるが男性の部屋に入るというのは性行為以外もあり得るという事例を作って行きたいところだ。




