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貞操逆転パラレル日本の比較文化記  作者: バンビロコン
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新しい生活

 一日千秋という、待ち遠しいことがあると1日が非常に長く感じられるという四字熟語があったが、単純に事件が立て続けに起こって長く感じるということも中々ないだろう。お見合いパーティーなどという気持ち的に長いイベントが終わり、部屋でのんびりする時間だ。


 お見合いパーティーの後、百合の母親に挨拶をしに行ったところ、喜びの涙を流していた。アルビノは相当難しい問題があるらしく、今まで大変だったようだ。


 今後については今のところ進学校に通っているらしいが、地元から出られるのであれば出たいとのこと。東京の方がまだ理解があるらしい。理解があるというより、人が多いから構われないという方が近いだろう。日本だと好意的に見られるのでまだましだが、差別的に見られるのであればたまったものではない。

 相談もあったので一度、長宗我部邸に来てもらい、結果、手続きが終わり次第、母娘が同室で長宗我部邸に住むことになった。


 最近思ったがこの屋敷広すぎるね。鴻池邸も相当大きかったが、どうにも理由があるらしい。

 明治維新期以降、大和でも西洋化を目指したわけだが、その際に西洋風の住宅の建築技術を輸入していった。どうも当時の西洋建築は男性のいる家はみんなでお世話をするので住む人数が多くなる傾向にあるらしくて、とにかくたくさん住めるという状態になっているらしい。特に使用人用の大部屋なんかがあるつくりが多いようだ。


 この屋敷でも、吉田さんを含めた使用人用の部屋ももちろんある。使用人も小さいながら一部屋あるようなので、最近の個人のスペースやプライバシーという考えからすると大部屋という形よりも現代向きといえるだろう。


 ちなみに、茸木さんも無事、使用人として部屋を使うことになった。茸木さんにとってこれがよかったかどうかは不明である。今回の目的であった別の華族家との婚姻という意味では、響もしばらくしたらここに住むことになるようだ。部屋割りを昨日相談していたらしい。部屋割りにも格付けなどがありそうで気になったが、あまりに眠かったので寝てしまったのである。


 本当に、お見合いパーティーのあとも新しい関係を結ぶ三人の今後をどうするかで忙しかったのだ。あの激動の1日を終えたのであれば今日ぐらいのんびりしていきたいものである。

 実際、今回の目的であった長宗我部家がやりたい放題しない抑えとして、最上家と縁が結べたので十分に対策はできたと言えるだろう。


 屋敷は静まり返っている。今日はそもそも月曜日ということもあって、二凧も大学にいかなくてはならないし、今後住み始めることになる響も昨日はとまったらしいが朝早くから警視庁に行った。同じく百合も高校に行っているのでいない。今屋敷にいるのは使用人たちであるが使用人は私に近づかないので、実際に部屋まで来る可能性があるのは紅音と、今後雇うことになる茸木さんだけである。


 茸木さんは今、紅音と話をしているはずだ。そんなことを考えているとちょうど紅音が部屋にやってくる。用事があるとのことであるが、紅音が要件を言わずに入ってこようとするのは珍しい。大抵は食事か二凧が帰ってきたか、頼んでいたものを持って来てくれたかである。


 紅音を部屋に入れると、いつもよりも顔が赤い。


「ん……主……あの茸木という女性は大きく矯正が必要……主の使用人に相応しくない……再考を……」


 珍しく紅音が自分から話しかけてきた。紅音はこちらを見てから話すことが多いので、大抵、本を読んでいる最中なら話しかけてこないし、急ぎなら断りをいれていくる。それらを加味してみると、茸木さんと何かあって怒っているのだろう。

「何かあった?」

「ん……マトモに話すこともできない……」


 パーティーで緊張しているから話せないというわけではなかったんだね。慣れないと話せないだけかもしれないけど、「い」が「ひ」になっていたりしたから舌足らずで発音が悪いという可能性もあるし、「あああ」と言い始めが苦しそうだったから吃音かもね。

「吃音かなんかあるんだろうね。別にそこまで問題ないでしょう。雑用がメインだしね」


 吃音、簡単に言えばどもりだが、なんとなく心の問題と思ってしまうがそうではない。対人ストレスなどの環境要因もある場合も否定はできないが、大半は体質であると考えられている。もちろんどもりが原因で心ないことを言われてより悪化してしまうこともあるが、大元は違うことが多い。体質というのはどうしようもならないことが多いので、そこは会話をそこまで必要としない仕事に就くのがよいだろう。

 そう考えると、使用人という仕事柄話すことが全くないわけではないが、私の雑用として細かい作業なんかを任せたいので別に話せる必要はない。

 

 たしかに茸木さんは知識量が多いようには見えないし、要領がいいとも言えないが、単純作業をやってもらいたいので紅音のような高度な専門職の技能は必要がない。使用人の中でも雑用であればむしろ適任である。

 

「ん……男性の使用人は名誉あること……会話すらできない女性が就くのは良いとは言えない……」


 意外なところに反応してくるね。珍しく紅音が激しい怒りを持っていると見える。

 紅音ほど高い能力を持っているのにこの程度のことに感情を入れて反応するとは意外だ。忍者という役割上かなり感情のコントロールが巧であるように思えたのだがそれを越えてしまったのだろう。

 たしかに、忍者というのに誇りを持っていそうだし、紅音は男性のためにという思考が強いからこそかね。

 

「紅音は名誉を大切にするということは理性としてわからなくもないが、私個人としては別の文化圏ということもあって男性に仕えることが名誉という感覚は理解できていない。茸木さんはたしかに高校を中退して、アルバイトで生計を立てていることもあって経済的に安定しているとは言えないし、吃音があるため会話になりにくいと思われるが、別に雑用をするには能力的に何ら問題ない。たしかに、男性の使用人には良い人をつけなくてはいけないと思うのもわからなくはないし、私が茸木さんに紅音と同じようなレベルを求めているのであれば問題であると言えるが、そんなこともないしね」

 むしろ経済基盤が不安定なので味方に引き込み易いし、吃音が獲得性吃音なのか発達性吃音なのかわからないが、「あああ」と文頭を繰り返す連発タイプなので、聞き取りに大きな支障はない。特に気にせず言わせておけば良い。


「……世の女性の憧れの仕事をしているとしられたら危険……あれにそこまでの覚悟はない……」


 茸木さんに危険があるからという路線に押し方を変えてきたかな。危険な仕事だから名誉があるというニュアンスだろうかね。まあそれにしては茸木さんは心配しているような雰囲気ではないけどね。昨日言わなかったのはめでたい席だったからかな。それとも今日話して無理そうだったかな。

「今日話して無理そうだったの?」

「ん……そう……全女性の夢のある仕事をするには到底……」


 そっちが本音だろうね。

 

「憧れね。紅音随分と今日は饒舌だね」

「んっ……そんなことはない……ただ安全面の観点から周囲に嫉妬を受けやすい仕事であると伝えたかった……」


 たしかにその観点だと正当な主張にも聞こえる。しかし、この程度の誤魔化しが通用するとも思ってないだろう。もしそうであれば先に説明するわけだからね。紅音個人の感情的な何かがあるのだろう。

「珍しいね。感情的になっているね。何か止めたい理由でもあった?」

「うっ……」

 ちょっと強めに聞こえたのかマズイと思ったのだろう。言葉を詰まらせている。


「紅音、雇うというのはある程度責任のある法的行為だと思うから、本当に茸木さんに危険が及ぶというのであれば対策を練らないといけないのだけれど、危機管理のプロとして紅音は何が必要だと思う?」

 

「うっ……主申し訳ない……危険性が高いとはいえない……」


 紅音は素直に切り替えて謝罪を始めた。男性警護官が安全性の確保以外の理由で男性のしたいことを妨害するのは越権行為だしね。男性が女性を雇うということが嫉妬などの原因になったり、男性に力を持ってほしくない人たちが攻撃してくることはあり得るが、大っぴらげにいうわけでもないし、茸木さんはどうみてもアクティブに外に出るタイプでも友達が多いタイプでもないから事実が洩れる可能性は極めて低い。むしろ適任にも思えてくる。


 茸木さんに関しては雇ってまずかったら後から切ればいいわけだし、労働基準法が適当というより、例外規定が多い大和だと日本よりかは簡単にクビを切れるのは確認済みである。恨まれるといけないので再就職まで斡旋しておくし、最大限まで優しく教えてそれでもできなかったという正当な言い訳を作るけどね。


 その辺りがわからない紅音ではないと思うが、紅音も人間だということか。人間には感情があるからね。まあ別に謝罪が欲しいわけでも何でもないけどね。こちらも文化の違いを配慮しきれていないわけだから、人のもつ個人的な感情は聞いておきたいところだ。

 特に紅音と二凧は私とも近い関係なのだから。

「紅音も人間だったということで安心したよ。それで、何が嫌だったの?」

「……申し訳ありません……」


 ついに頭が地面についてしまった。土下座である。

「謝罪をして欲しいわけではないよ。人間に感情があるのは当然だし、私も知らないことが多いから異なる文化に対する配慮が欠けているのだろう。ただ、知れば必ず考えるわけだし、日本的感覚でいうと雑用メインの使用人というのはそこまで社会的に高度な能力を求められる仕事ではないというところから、茸木さんの採用にいたっている。これは日本的な考え方であり、大和では違うというのであれば言われなくてはわからないのだからね」

「…………主の考えは素晴らしい……紅音、愚かだった……使用人も良い人物を揃えなければ主の素晴らしさを貶めると……」


 女性は背が小さいというだけでよろしくないと見られるのに加えて能力が低い人を雇っているのを見られると良くないというところかな。雑用にそこまでの能力いらないだろう。見られることをメインとする仕事をしない予定だから大きな問題にはならなさそうだし、使用人まで見られることはないだろう。

 万が一あったとしても、その程度でこちらが傷つくことはない。

「茸木さんは良い人物じゃないと?」

「……ど……努力が足りないかと……」


 言葉を選んだね。紅音ほど努力をしていればそう思うのもわからないことはない。怒りの原点はこれかな。自分が努力してここまで来たのに、何も努力してないものが使用人につくことに腹を立てたというところかね。

 

「努力というのは結果じゃなくて過程にあるのが良いところだと私は思うんだよね。世の中には100の努力をして結果を出す人もいれば50の努力をして結果を出す人もいる。結果だけを見ると彼らの努力が50だったのか100だったのかその全て見えるわけではない。ただ私たちがわかるのはできているという結果だけだ」


 努力ね。果たして努力をしていない人間などいるのだろうか。少なくともフリーターだろうがなんだろうが働いて金銭を得るというのは一定の努力が必要である。


「なので、努力というのは彼らと並走している人だけが見れるものなんだよね。紅音と暮らしてきて紅音が100の努力をしていると私は感じているけど、茸木さんはあったばかりで、見えているのは結果だけであり、100の努力をしていないとは限らないよね。まあそれに月10万程度で100の努力なんか求めないけどね。私の求める最低限ができればいい」

「……素晴らしい考え方に感服……紅音が間違っておりました……主に大変申し訳ないことを……」


 まあ50の努力をして結果を出せないこともあるし。100も同様である。そして、努力をせずに結果を出せないことも当然ある。また、間違った努力をしたり効率の悪い努力もあるから一概に言えないものだけど、努力というのは結果だけから見てはいけないのだけは確かである。


「いや、そこまで畏まることはないよ。私もそこまで考えて雇ったわけではないからね。茸木さんは吃音があるけど吃音の大半は発達性のもので体質によるものだ。これは致し方ないことだとわかっているわけだから結果に入っていない。それよりも、実際に緊急のところで避難を手伝ってもくれた。これはなかなかできることではないだろう。そちらの結果を評価しただけだし、私は出会ってすぐの人の努力はなかなか評価しにくいと思っているからね」


 これは表向きの理由で、1番の理由は背が小さいことで、2番目の理由は立て籠もり犯がいるトイレにいてでれなくなっていたことである。世の中にはもっている人間というのがいるのである。

「ん……申し訳ございません……」


 紅音は珍しくしょんぼりとした様子でしょぼしょぼと出ていった。ちっちゃい体がさらに小さくなっている。引きずるようならフォローしようかな。

 それにしても、紅音であの感じだと、長宗我部家の他の使用人なんかも危ないかも知れない。念の為茸木さんを呼ぶことにした。茸木さんは私に呼ばれたら来るという以上の仕事がないので安心である。

 

 茸木さんは、長宗我部家からメイド服を借りているようだ。昨日と同じで目は髪で隠したままである。痩せすぎなのもあって、住み込みで働かされている貧困の少女に見える。

「昨日ぶりだね茸木さん」

「よよよよろしくお願いしましゅ。ががが学習院様」

「よろしくね。どもりは昔からあるの?」

「は、はひ。ああああります」

 発達性の方だったか。突発性だと環境要因が強めなんだけどね。

 

「そうなんだね。無理に治そうとかしなくていいから気にせずに話して、それよりも仕事の方なんだけどね」

 仕事の方の説明をする。本当に面倒なことがあって、私は読んだ本に付箋を貼っていくタイプだが、それと同時に読みながらメモ帳にメモも残すタイプなので、同じ本でメモをまとめておいて欲しいのである。これが結構な手間なので、別の人にお願いしたかったわけである。

 大和に来てから一度もまとめていないのでこれがまた結構な量あるのだ。


 あとは本棚にあいうえお順で並べるとか飲み物を持ってきてもらうとか、本当に言われた内容をゆっくりやるのが仕事だ。お金があるならやって欲しかった大変助かる仕事である。

「できそう?」

「は、はひ!ががががんばります」


 そういえばこうした作業は紅音を念の為護衛としておいておいた方が良かっただろうか。まあ万が一、茸木さんが襲ってきても抑えられるけどね。小さい上に体が細いからね。となると人となりがわかるまでは飲み物だけは自分でやったほうがいいかな。


 思考がふっと途切れると静かな時間が続き、時計のカチカチという音だけが響き渡る。ふと茸木さんを見るとこちらを眺めているようだ。


「茸木さんは他のこの家の人から邪険に扱われたりはしていない?」

「はわは、ははい。だだ大丈夫です」

「私が個人的に茸木さんを雇っているからね。長宗我部家の使用人とは基本関係がない。私の指示以外は聞く必要はないから、そのつもりでいいよ。これは侯爵とも詰めておく」

「は、ははい」

「困ったことがあれば私に言ってくれれば大抵のことはなんとかできるだろう」


 二凧か紅音に助けてもらうからね。

「ががががんばります」

「頑張って話してるね。話しかけにくかったらメモで残しておいてくれてもいい。すぐに見て欲しかったら私のところに、そうでない場合はこのボードに貼っておいてくれたらそのうち見るだろう」


 吃音には色々あるが話すためのコストが普通の人よりも高いことが多い。うまく話せないという思いから話すのに力が入ってしまうのだ。コスト増によって話すのが負担と考えて会話を避ける傾向にある。そのため、話さずに重要なことを我慢されてしまっても困るので、筆談の道を用意しておくのが無難だろう。


「ああありがとうごござりましゅ」

「メモはこれだね。何か書いてみて」


 そういうと、サラサラと書きはじめる。

『こんなによくしてもらって何でもしますからすてないでくださいおねがいします』


 書くスピードも速いし字も綺麗だね。私の字とかあまりの汚さに象形文字とよく言われたほどなのにね。話すの苦手だから書きが得意になったのかもしれないね。

「そうだね。こんな感じで会話した方が良さそうだね。捨てないでか、しっかり仕事をしていれば捨てるつもりはないよ。頑張ってね」

 

『全力でがんばります』


 茸木さんはこれでいけそうだね。今後の関係的にこの方法で会話が良さそうだ。本人が話すのに苦でなかったらそちらもでもいいがどうみてもそうではなさそうなのでしばらくはこちらが良いだろう。


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[一言] 何ならLINEで…って鯖元世界に置き去りだから使えんのか 日本にも鯖センタはあるから誰ぞクローン作らんかねえ
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