お見合いパーティー6
過激な活動家というのは非常に厄介なものだ。国外の紛争地帯や憎悪で彩られた中東のような場所とは違い、一応日本では社会を変えるのに対して暴力じゃないとできないなどということはなく話が通じる。大和は身分制度が残っているせいでさらにやりにくいだろうが、まだ通じる範疇である。実際に社会問題に関心があるのであれば複数人の仲間を集めて、政治家の人でも呼んでみるなり、政党の党員になるなり、心ゆくまで穏健な方法が試せることだろう。少なくとも正当な方法があるにも関わらず、本人の能力不足によってそれをしないがために、暴力によって解決を求めるのは非難されてしかるべきである。
「ん……主顔色悪い……」
くだらないことを考えていたら、紅音に心配されてしまったようだ。
「いや、大丈夫だよ。暴力による訴えはよくないと思っていただけだよ」
「ん……男性に対する暴言……強い処罰を求める……」
紅音はどうやら、さっきの活動家の捨て台詞の方を心配しているようだ。どう考えてもナイフで人質を取ったことの方が暴言よりも罪が重いと思うが……
そんな話をしながら紅音とびくびくとついていくる茸木さんを連れて帰ると、二凧が心配そうな顔で寄ってくる。
「学さん大丈夫でしたか?」
「あぁ大したことなかったよ」
「ん……たいしたことある……ナイフをもった極左暴力団を言葉でボコボコにしていた……」
「な、何やってるんですか!」
語弊のある言い方だね。ちょっと相手の主張を聞いてあげていただけじゃないか。
「このパーティの責任者として、頭の足りない活動家さんの所に出向いただけだよ。取り押さえるのは紅音がやってくれたし、紅音が抑えるまでの目眩しだね。別にそう危ないことはしていない。彼女がどれだけ愚かでも男性を害してしまったらその集団の主張は崩れるわけだから、よほどおかしくなってない限り手は出せないよ」
この社会、男性の保護を盾に主張を展開している女性が多い。なので、男性に正論で殴られるとカウンターを打てないので詰むのである。そのうち、男性という括りだと攻撃できないので、日本男性や私のことを権力者に加担する名誉女性やら日本男性は違うとか言い始めて攻撃してくるだろうが、そう言い始めたら男性を守るためにという建前である彼女らの主張は崩壊するので、一般受けはしなくなるから支持層は離れるだろう。女性の権利なんかを主張した際に、過激になった女性中心主義者が男性を攻撃するが、それに反論する女性を女性という括りから外して攻撃するのと同様である。結局のところ一般受けはしなくなり、活動も独りよがりで尻すぼみになっていくのである。
「それはそうかもしれませんが……」
「ん……男性は女性に比べてメンタル的に弱いという通説が誤っている気がしてきた……」
日本の自殺者で見ると男女比が約7:3だからね。男性の方が社会的に仕事に就かないといけないことが多く、負担の大きさがあり、うまくいかないから自殺するのか、メンタルが弱いから自殺するのかは知らないけどね。個人的には両方ありそうな気もするね。たしかに数値だけみると男性は意外と脆いよね。通院しながら女性は回復していくけど、男性は初手で自殺しているイメージがある。我慢して一気にはじけ飛ぶイメージだね。こちらはなんの統計もないけど。
「そんなこともないよ。意外とビビっているかもしれない」
「はう、ゴホッごめんなさい。ちょっと詰まりそうになりました」
突然崩れ落ちる二凧、何か私が意味あることいっただろうか。わからない。
「いえ、違うんです!ちょっとお茶目なこという学さんも可愛いなとかそんなこと思ってたわけなんです!いつもかっこいいのにお茶目な所も素敵なだけなんです!」
うん?あんまりわからないが、どうやら普段との違いがよかったということらしい。なるほどね。二凧は全部解説してくれるからわかりやすいね。
「なるほど、いつも見せている姿と離れた姿を見せるのが良いみたいな感覚ということかな」
「い、いえそんなことを冷静に分析し、しないでください……」
大和の場合、男性への理想が高い。これは数が少ない以上仕方がないが、そのためか変わったところに興味を持ってくるのが興味深い。
「まあとりあえず席に戻ろうか。そうだ、茸木さんを使用人として雇おうと思うんだけど、いくらぐらいかかると思う?」
「茸木さんですか、住み込みですか?」
「雑用係の使用人が欲しいんだよね」
「そうですね。食事と部屋つき、男性と同じ家ということを考えると無賃でも問題ありませんね。ですけどそれだとまずいので、経歴を考えると弟子入りの制度を活用すれば、10万ぐらいでしょうか」
うーん労働基準法が機能してないでしょう。弟子入り、つまり徒弟制度だね。これは、昔の職人などの制度であり、中世のような学校といった教育機関がない中で、技術の伝達を行うための制度だ。別にこれ自体が悪い制度ではないが、近代の学校教育という仕組みと相性が悪かったので、日本では残っていない。徒弟制度の弟子にあたる人物は大抵、無賃労働もしくは少々のお小遣いがもらえるというのが多いと聞いている。日本の伝統工芸の後継者不足の問題は、技術の伝達手段であった徒弟制度が法律上できなくなってしまったせいである。教えるために労働者として雇うにはコストもリスクが高く、伝承を諦めてしまうというケースもある。学校なんかを作ってむしろお金を集めながら伝承する方が現代にはあっているような気がするね。そもそも徒弟制度も、技術の伝達がみんなうまいわけではなく、見て覚えろみたいなもので覚えられなかったものは脱落していくという教育といえるのかどうかも怪しい仕組みだ。今の思考系を重視する理論化して伝えるという方法とは異なっているし、全員ができるというより残った人が育ったという方法なのであまりに相性が悪い。
「直接、男性が雇うということも可能だよね?」
「はい、できると思います。男性の労働や収入関係はルールが特殊なのでちょっと今確かなことは言えないのですが、学さんが今後活動していくとお金が入るのでそれで雇いたいということですよね?」
例外規定がたくさんあるタイプか面倒だな。もう少し法律周りを勉強しておかないといけない。
「そうだね。ちょっと自分でも調べてみるから、二凧もわかったら教えてほしい」
「はい!わかりました!」
時間的にはそろそろ良い時間である。グループの中でのお見合いも概ね良好というところだろう。早川君には剣持さんが報告してくれているので、残りの時間をのんびりと過ごすとしよう。
「ただいま、招待状を出した側なのに、離れてしまって申し訳なかったね。二凧に頼んであったから苦しい空気であるということはないと思うんだけど、何か話せた?」
最悪、二凧が話続けて場をつないでくれているだろうしね。響は話すタイプだし大丈夫だろう。
「おう!いや、学のすげえ話をたくさんしてくれたぜ」
二凧が情報の共有をしておいてくれたのか。助かるね。
「百合は大丈夫だった?」
「あっ……大丈夫です……」
顔を赤くして下を向く百合、血管が見えやすいので本当に赤くなっている。
「百合はこれからどういう予定?どうやって帰るの?」
「はい……お母さんが迎えに来てくれる予定です」
「じゃあその時に挨拶をした方が早いかな。それでもいい?」
「は、はい!」
15歳だと母と話した方が早いだろう。というより、日本だとアウトだしね。
「響は今日はどうする?」
「最上さんはボクとお母様が用事あるので、学さんが問題なければ屋敷の方に一度来ていただきたいと思っているのですが」
響は華族家の分家だから色々とあるのだろうな。地盤となる場所も離れているし、極端に接近して共謀されなければよい。
「わかった。茸木さんを使用人として雇おうと思うのだけれど、確か大阪の方に家があるんだよね?」
「うひゅ、は、はい」
「ボクが引っ越しの手配をしておきます。茸木さんは家の鍵と住所を後で教えてください」
「は、はひ」
茸木さんは話がドンドン進んで後戻りできなくなって困っている印象だね。
「茸木さん、困っている?」
「うひっ、ひっ、わか、わからない」
「とりあえず、一旦家に来てから落ち着いて話してもらおうかな」
「はひ」
一人暮らしかつフリーターだから自由度は高いと思うんだけどね。緊張しすぎているのか会話がね。私が男性ということもあるが二凧にも緊張しているから華族という身分も相当に大きいものなのかもしれない。
「これでとりあえず決まったね。お見合いなどというものは始めてしたけど、来てくれたお三方に楽しんでもらえたのであれば幸いだね」
「(おい、長宗我部の、学って半端なくかっこいい上に人前でもおくさねえどころか、こっちを気を遣う余裕があるとか、フィクションでしか見たことねえんだけどよ)」
「(そうですよね。学さんは本当にかっこいいんです。ボクの話もたくさん聞いてくれますし、本を読んでいる姿もはぁ、ボクの理想の男性なんです)」
「(おっおう)」
二凧と響はかなり仲良くなったのか、2人で話している。やはり華族同士だと話し方みたいなのがあるのかもしれない。婚姻を結ぶのが、二凧と響と百合で2人が身分的に違うことを考えると、百合が浮いてしまうだろうか。そもそも、アルビノはこの世界だと排除されがちと聞く、積極的に話しかける必要があるかもしれないね。常識や排除傾向というのは一朝一夕でなんとかなるものではないから、腰を据えて行わなければならないだろう。
「仲がよさそうだし、響は二凧に任せようか。百合は私と一緒に百合のお母様のところに行こう。紅音もついてきて。茸木さんはとりあえず、二凧についていってもらおうか。二凧大丈夫そう?」
「はい!大丈夫です」
「では、私は締めの挨拶をしてくるからね」
「頑張ってください!」
そういえば、締めのあいさつを任されていたが何も考えていないな。まあなんとかなるだろう。各テーブルを回りながら締めに入る旨を伝える。どこも終わりかけていて男性とお話をする時間になっていたのでちょうどよいだろう。この時間までに終わらなければ、各自ホームステイ先の方に連れていってもらえればいいしね。まあホームステイ先の家には長宗我部侯爵や男性省やら首相が手をまわしているので大丈夫なようだ。ホームステイ先はあくまで親代わりなだけなので、親代わりが選ぶ女性と婚姻しないといけないなどというルールは当然にない。ちなみに、かつては男子親の家が許可しないと婚姻できないということが認められていたらしいが、大和でも欧州の流れを受けて辞めたらしい。
『お集まりの皆様、たいへん楽しんでいただけるところ恐縮ですが、時間が迫ってまいりました。私、日本男性の会副代表の学習院の方から少しばかりお話をさせて頂き、締めのあいさつとさせていただきます』
会場全体がこちらに注目しているのを感じる。
『今回のお見合いパーティーは大和でも前代未聞の取り組みということで、足を運んでくださった皆様も不安なところもあったかと思います。実際に少しばかりイレギュラーも発生してしまいましたが、この場に来ていただき楽しんでいただけたのであれば私たちも幸いです。お見合いということで、私たちは新たな出会いを求めています。もしよい出会いがあったのであればそれは開催した私たちにとってとても嬉しいことです。そして何より、身分や貧富に関係なくこうして集まれたことが何より意味を持つことだと思います。そして、日本と大和という、同じようで少しだけ違う国の私たちが互いを尊重し、理解しあえる。そんな場になってくださったのではないかと見て回って思った次第であります。長くなってしまいましたが、本日はお集まりいただき誠にありがとうございました。これにてお見合いパーティーの方を終了とさせていただきます。大変ありがとうございました』
会場から大きな拍手があがる。まあこんなものだろう。
『それでは、順次解散とさせていただきます。各テーブルごとにこれからどうするかなどは決めていると思いますので、それに従って動いていただけたらと思います』
これにて、長かったお見合いパーティーも終わりである。本当に今回は無駄に事件が起こって大変だった。
お見合いパーティーはこれで終わりです




