お見合いパーティー5
紅音を手招きして呼んで剣持さんと一緒に外に出ると、紅音も一緒についてきてくれる。
「そうでどうしたんですか」
「はい、室内警備をしている蜂須賀様をお借りしたくてですね。あの実は、先ほどお帰り願った岩倉様なのですが」
あぁ、あの人か。もう少し能力というか性格に問題があるかどうかを先に審査したほうがいいかもしれないね。
「何かまた暴れているの?」
「いえ、それが侵入者の1人が、人権派といいますか何と言いますか所謂極左暴力集団の活動家でアンチ華族みたいな人がトイレに隠れていまして……」
うわぁ、そういえばこっちでは社会主義を標榜しているソ連的な国家のザガロ連邦が現役だから、革マル派とか中核派が生きているのか。日本だと活動家の高齢化が進んでかなり弱ってきているけどね。ソ連の崩壊で社会主義ブームが一旦終わったからね。
そもそも大和には身分制度が強く残っているからね。そういうところの不満を吸収しているのだろう。
「なるほど、野次馬の中に活動家が紛れ込んでいたと、それどころか活動家が扇動した可能性が高いかな。それで彼女の主張は?」
「岩倉様を人質にとって、華族制度の終焉と、男性を利用した欺瞞で国民の目を欺いた華族や財閥の利権の温床であるパーティーをやめろと言っています」
典型的な反華族、反権力といったところかな。また面倒なのがまた紛れ込んでしまったな。極左暴力集団は私のしたいことと真っ向から反するからね。男性の分配など起こってもらったら困る。
「なるほど、単独犯?武器は?」
「単独です。武器はナイフを1本持っています」
拳銃持っていますとかでもないか。隠し持っているかもしれないけど、大和でも銃の携帯は禁止されている。
「なるほど、紅音人質を解放しつつ取り押さえることはできる」
「ん……問題ない……」
「よしじゃあ、私も行って話したら相手も動揺するでしょう。その隙に紅音にやってもらおうか」
「危険……許可できない……」
たしかに学生運動時代を生きているわけではないから、あまりそういう危機感はないからやめておいた方がいいか。いや、今後のことを考えるとワンアクションとっておきたいかな。こうした活動家たちの主張も聞いておいた方が、理解度があがるだろう。
「今後このような輩が出ないようにしたい。剣持さんにもついてもらうし、よほど大丈夫だと思うけど紅音が無理だというなら諦めるけど」
「……わかった……主の願い叶えるのが忍者のつとめ……」
ちょっと、無理のあるお願いだったか。これは申し訳ないことをしてしまったかもしれない。
「ありがとう紅音、行こうか」
「学習院様は私が命をかけてお守りいたします!」
トイレにいくと、ごく普通の服を着た女性が酷く落ち着いた目をしている。覚悟決まっちゃっているタイプかな。彼女はトイレの中ではナイフをちらつかせている。
大和の女子トイレって、みられることがあまりないのか、個室の中は流石に見えないけど、外からトイレの中がよく見えるんだよね。防犯のため、こういう作りなのか、そもそも男性が見ることがないからこういう作りなのか教えてほしいところだ。ということで個室に入ってなかったらよく見るのが大和のトイレだ。
「早く中止にしないとこいつの首を切……男?」
「妾は岩倉公爵の娘ぞ!はよお離さんか」
私の姿に気づいたのか、驚きの声をあげている。人質の方も未だにわめいているようだ。首筋にナイフを当てられてあれだけ話せるなら大したものだ。
「どうも、学習院学だよ。お名前は?」
「……ちっ、俺は角田だ。男を盾にするなど卑怯な。これだから身分を笠に着たカス共は」
「いやいや、今回のパーティーの責任者の1人は間違いなく私だから、責任者が出てくるのは当然ではないかな?それとも人権派である君は男性が力を持っているのは気に入らないとでも?」
「違う!このような催しは権力者の体のいいパフォーマンスに過ぎない!真の平等!労働者たちの幸せを考えれば、偽りの夢を壊さなくてはならない」
なるほど、翻訳すると特権階級による男性の独占に対する不満を吸収して活動しているのに、民間人に希望を与えて分断されると困るということだね。実に素直な主張だ。
「実際に一般人との婚姻も進められているのに、それを妨害するとは一般人からの恨みを買いそうなものだけどね」
「ち、違う!そんなことはありえない!ここにいるのは全て特権階級だけだ!それを証明するためにここまできたのだ!」
ふむ、だれか一般人でも連れてくるかと考えたその時、紅音が動いた。人質をまず吹き飛ばし、そのまま犯人を取り押さえる。カランとナイフがスライディングしていく。
「紅音ナイス。剣持さんナイフを!」
「はい!」
「くそぉぉぉ国家の犬どもめええええ」
鉄砲玉役かな。日本に比べると随分と元気なものだ。暴力を使って物事を変えてもそれはまた暴力によって変えられるだけである。
今のうちに、岩倉さんを犯人の近くから引き離す。というより岩倉さん思いっきりぶっ飛ばされていたけど大丈夫だっただろうか。
「大丈夫?」
「はわ、王男様……おほん妾を助けるとは大義であるぞ。妾と婚姻する権利をやろう」
王男様?王女様の逆かな。婚姻すると王配だったのは覚えているけど、王に男の子が生まれた場合ら王男というのか。
「助けない方がよかったかな。本気でそう思っているのか。それとも公爵の娘としてそういわないといけないと思っているのかどっち?」
「な!」
随分な道化だ。さて犯人の方はどうなったかと見てみると、まだわめいていた。
「◎△$♪×¥●&%#?!ぎゃっ!!」
突然犯人が大きな声を出したかと思うと、トイレの個室の扉が開かれている。どうやらそれに顔面を打ち付けたようだ。まだ中に隠れていたのか。自然と体がこわばる。
「あ、あのすすすみません。ト、トトイレにいたんですけ、ここわくてででれなくて……」
そう言って出てきたのは茸木さんであった。そういえばトイレにいくと言っていたけど、ここのトイレにいたのか。
「それはまた運が悪いね。というより持っているね。茸木さん」
「え、えっ?」
わかりやすい一般女性が来てくれたではないか。
「そこの活動家の人、ちょうど1人一般人の参加客がトイレにいたよ。私が呼んだから間違いないのだけれどね。どうやら、このパーティーに華族や財閥しかいないというのはどうやら君の思い込みだったようだ。もう少し視野を広げるために刑務所の中で勉強しなおすといい」
人質強要罪に建造物侵入罪、銃刀法違反といったところかな。10年ぐらいお勤めしてもらおう。そのころには世の中も変わっていることだろう。
「う、噓にきまっている。こ、こんな女が呼ばれたというのか」
茸木さんドレスも来ていないし、大和だと背が小さいのは嫌われるらしいからね。どんなに目が曇っていてもわかりやすいだろうね。
「茸木さん、華族か財閥令嬢だと勘違いされているらしいけどそうなの?」
「ち、ちがいましゅ。フリ、フリーターで、す」
「フリーターだと、なんのためにそんな奴を呼ぶんだ!やはり有り得ない!」
大和でも非正規雇用の特にフリーターは経済的基盤が弱く、安定性も欠けて社会的強者とは言えないだろう。
「いや、可愛いからお近づきになろうとする心理があるでしょう。それとも男性が女性に感情を持つことは許されないとでも?そもそも私たちの世界で社会主義はうまくいかなかった過去の産物だからね。少なくとも革命を起こして社会主義を作ろうというのはうまくいっていない」
ソ連の崩壊以降、学問の世界でも進歩史観の問い直しが始まり、それまでいたマルクス経済学の研究者も姿を消していった。社会主義のムーヴメントは過ぎ去ったと言っても良いだろう。社会主義を名乗っている中国も経済体制は資本主義である。権威主義的資本主義と言ってもいいだろう。
まあ社会主義という理想は死んだのである。せいぜい福祉国家的な政策にその理想の一部が流れ込んでいるだけである。
「男性を平等に分けることが」
「その考え自体が男性の権利を軽視しているし、たしかに富というのは一か所に集中する仕組みがあるし、男性を富と考えれば特定の特権階級が独占していくという形になりやすいけど、男性の意思を否定していたら、その考え方に先がないとおもうけどね」
富めるものは益々富み、貧しいもは益々貧しくなる。たしかに資本主義のいう市場原理というのはそうなりやすいというのは間違いないが、経済学もそれだと資本主義が破綻するからケインズ経済学なんかが再分配をしてみたり、現在でも資本主義の限界を乗り越えようと研究がなされている。夢にすがりたくなる気持ちもわかるけど、現実路線で見て行った方がいい。
そもそもこの世界の社会主義は私たちの世界の社会主義と異なって、男性分配主義ともいえる。富ではなく男性の分配に注力しているんだね。そしてこれは男性のためだ言っている。特定の場所に男性が集中することで、男性の権利も損なっていると主張しているのだ。だから男性に否定されると非常に弱い。
「男性を使うなど卑怯だ!」
「使うという発想がそもそも男性を軽視した理論を積み上げてきたなによりの証拠ではないかな。社会から男性を排除して女性だけで考えた結果。男性を分配可能な資産とみた君たちの活動は私の考えと相反するし、当然日本という国と非常に相性が悪い。もし日本と国交を開こうとした場合、君たちの存在は煙たがられることだろう」
社会問題を考えるとどうしても人というのを軽視しがちになる。少子化問題で女性を産む機械といった国会議員がいたが、それと同じである。少子化だけ解決できれば他の問題を生んでいいのかという疑問に答えられないのである。
まあとはいっても男女比がおかしいと政府の失策は滅亡と隣り合わせなわけだから、男性の権利を無視した方向に流れやすいのだろう。
「クソっクソオスが!」
「ん……うるさい……主に汚い言葉をかけるな……」
あら、紅音が怒って気絶させちゃったわ。人間が絞め落とされるのを初めて見たね。
「剣持さん、この活動家の処遇を任せても?」
「は、はい!お任せください!」
本当に次から次へと問題が起こるな。
「さて茸木さん、部屋の方に帰ろうか。体調の方は大丈夫そうかい?」
「は、はひ!大丈夫れす……」
「そう慌てなくてもいい、折角の縁だし私に雇われてみない?茸木さん持ってると思うんだよね。トイレにいたら活動家がナイフを持って立て篭もることなんて普通ないでしょ?」
「え?やと?え、あう」
混乱の極みというやつだね。たぶん処理ができてないのだろう。余計なことを考えているか、そもそも予想外のことでフリーズしているかどちらかだ。
「茸木さんは、私に雇われて、仕事をする。良いかな?難しいことは考えなくてもいい」
「は、はひ!」
これ大丈夫かな。騙していることになっていたりしないよね。まあ再び落ち着いたところで話すことにしよう。それと後で二凧に家の雑用係の相場を聞いておかないと。個人的に雇うわけだからね。
「紅音、戻ろうか。あと茸木さんを個人的に雇おうと思うんだけどどう思う?持ってる人だと思うんだよね」
「ん……持ってるの意味はよくわからない……でも使用人は必要だと思う……能力は疑問……」
使用人ね。大和という国、労働者の括りから飛び出た、住み込みフルタイム労働者がまだいるんだよね。昔の丁稚奉公なんかもあるようだ。近い所だと、男性警護官然り、吉田さんのような執事しかりだ。絶妙に古いルールが残ってきている。
「単純労働が欲しいからそこまでできるこはいらないよ。難しい内容は紅音に頼るからね」
「ん……信頼いただき光栄……」
はあ、面倒なことになってきたものだ。




