大和ノ朝
次の日の朝、目覚ましにより8時に起床をする。執事の吉田さんが起床は8時より遅くで大丈夫と言っていたので問題ないだろう。
着替えて食堂に行くと、バイキング形式で料理が並んでいた。こういう文化なのだろうか?
「おはようございます」
「学習院さんおはようございます」
「おはよう。日本国の男性は朝が早いのだな」
大和では男性は朝が遅いのだろうか。夜更かしするほど娯楽が男性にあるのだろうか……
あぁ夜の営みか。
「そうですかね。日本で8時起床はかなりゆっくりな方だと思います」
「男性が早起きですか?」
「そうか、勤勉だな。だが睡眠は大切だぞ。男性は8時間は寝て体調を整えてもらうのが健康大和男子だ」
大和撫子みたいな言葉があるんだね。言語学はやっていないけれど、こうした細かい言葉の違いは面白いのでつい気になってしまう。
「大和男子とは面白い言葉ですね。日本には美しい日本人女性を指す言葉で大和撫子という言葉がありますよ」
「何?日本でも大和という言葉を使うのか」
「日本では古い時代に大和と呼ばれていたようです。その時代の男性が清らかで美しい女性を大和撫子と言って流行したようです。今でも控えめで凛とした清楚で美しい、内面外面ともに優れた女性を大和撫子と呼んだりします」
「ほぉ実に素晴らしい言葉だ。撫子とは花のことかね?」
「そうですね。仔細は覚えておりませんが、ナデシコの花は可愛らしく、また撫でし子とも読めることから、子どもは女性に例えられ、いつしか良い女性の象徴となっていたと記憶しています」
「か、かわいい」
可愛いという言葉で顔を赤くする二凧ちゃん。この子はチョロすぎるけど大丈夫だろうか。あまりにも初心な反応で可哀想になってくる。
「なるほど、男性の方が強く女性が守られる立場であったからこそ生まれた言葉だと言えそうだ」
「そうですね。なので日本の男性は守られるという感覚に慣れていないというより、あまりわかっていないのでむしろ女性を守ろうとしてしまうでしょうね」
「なるほど、となると次女の二凧は大和だと男性に選ばれない代表的な見た目だが、日本国だとむしろ逆だと」
「お、お母様!」
顔を真っ赤にした二凧ちゃんが母親に向き直るが母はどこ吹く風である。娘の結婚を後押ししようとするのもあまり変わらないようだ。どこの世界も母は強いようだね。
「婚姻という形で愛されるかは別として、日本では男性も女性も子どもを可愛がり大切にするので、小さいからといって嫌われることはないですね。性的な対象としてとなると、そういう趣味の人じゃないとダメですが、日本にはそうした趣味の男性はたくさんいますよ」
日本では俗にロリコンという。もっとも、合法ロリがいけるかどうか、リアルがいけるかどうかはその人によるがそこまで伝える必要はないだろう。
「そういう趣味とは」
「背が小さく、胸が小さい女性が好きな男性ですね。中にはまだ第二次性徴前の子を好む者もいるそうです」
こっちでは児童ポルノ法はあるのだろうか。男児に関しては間違いなくあるだろうが、女児に対してあるかは不明だな。
「そんな奇特な男性がいるのか。しかし、婚姻はともかく性行為には最低年齢があるだろう」
体ができていないうちに性行為をするのは危険である。これは異世界でも変わらないようだ。
「そうですね。性行同意年齢には下限がありますので、そこを下回る相手の子と実際にしてしまうと犯罪になります。なので、成人しても小さい方は普通にいますのでそうした女性とお付き合いしているのではないでしょうか」
実際に小さい女性が付き合っている彼氏は大抵ロリコンであるというのはよくあることだ。
「それは非常に良いことを聞いた。二凧にも可能性があるということか」
「大変可愛らしいので間違いないでしょう」
「ぶっ」
二凧ちゃんが咳き込んでいる。母親の前でこの話は可哀想に……
「なるほど、未婚と聞いているが、どうだうちの娘は?」
これは判断に困る問いかけだ。ホームステイ先の関係が悪くなるとは思わないが、大袈裟に言って言質を取られたりしても困る。私自身あまり結婚や性的な欲はもうないのだが、もし関係を結ぶのであれば小さい子が良いという程度の欲はある。日本では捕まるので全く持って諦めて、データと共に生きることを決めていたが、世界も常識も変わってしまった。また考え直す必要もあるだろう。
関係を結ばずに大和国を生きていきたいとも思わなくもないが、男性が少ないこの社会では許されそうもない。
であれば日本では無理だと諦め、コントロールし切っていた欲望だが、可愛いと思える二凧ちゃんとの関係を真剣に考えるというのもありだろう。
「二凧ちゃんはとても可愛らしいと思っております。しかし、異なる文化の国ということで、一月ほど熟考させていただけたらと思います」
素直な気持ちを言ったと言えるだろう。全く可能性を否定はせずしかし明言は避けたというところに収まっていると取ってくれるといいが。
「落ち着け落ち着け落ち着け落ち着けそんな漫画みたいなことがありうるのかぶつぶつ……」
「日本国の男性は女性の好みが幅広いと聞いていたが、本当だったとはな。いや、知識もあり気立もよく礼儀正しい男性というだけでも素晴らしいのに、日本国の教育には感心させられる」
思ったよりも侯爵の顔色は良い。二凧ちゃんに至っては己の世界に入ってしまっている。考えるに、あり得ない内容の相談だったのに、好感触だったというところか。言い過ぎだっただろうか。
「そうでした。こちらの学校教育、特に義務教育過程がどのように行われているのか見学したいのですが、できますでしょうか?」
「もちろんだとも、本当に好奇心旺盛な男性だ。研究校での授業であればすぐに用意できるだろう。それでも良いか?」
研究校というのは国立大学の附属学校で始めから研究目的の学校のことだろう。一般校のような雑味がないがまあ致し方ないだろう。
「そうですね一般校も見てみたいですが、ご都合があると思いますので研究校をぜひよろしくお願いします」
「男性に見られながら授業など中々ないからな。いい刺激になることだろう。よし、日程の方は私が押さえておこう。また知らせる。二凧、男性に慣れる教育をしてこなかった私も悪いがそろそろちゃんとしろ」
「はっはい!お母様」
二凧ちゃんはビクンの体を震わせてこちらをみるが、目が合うと顔を赤らめて俯いてしまう。あまりにも初心すぎて逆に対応が難しいね。私自身、見た目は眼鏡の平凡な男性といったところでしかなく、本来ならこうも好意を持たれることはないはずなのだが、貴重になると見た目もたいして関係なくなるのだろう。
「学習院殿ほどの知識人ならわかるかもしれないが、男性が少ないものでな、我が国では男性と話し慣れてないと上手くコミュニケーションが取れないものが多い。我々のような華族は訓練されているが、二凧はそうした教育はしていなくてな。家族の当主教育でもあってな、まあ二凧は本ばかり読んでいるから、学問の話になればすんなり話せると思うのだが……」
なるほど、次女は長女のスペアだと家制度が強い文化では考えることがあるが、教育にも差が出るらしい。長女は既に、地元で家を継ぐ準備でもしているのだろう。
「昨日も、歴史の話では大変盛り上がりましたよ。おっしゃる通り、こういうのは慣れだと思いますので、誰にでも始めてはありますから」
「もももうしわけありません……」
「本当によく出来た男性だ。大和の男性もこれぐらい堂々と話してほしいものだな。まあ学習院殿に関してはあまり心配はしていない。好きに我が国を見ていってくれ。吉田、仕事に行く。後は頼んだぞ」
「承知しました」
「お母様いってらっしゃい」
文部大臣らしい二凧母が颯爽と消えていく。ちなみに日本では文部省と科学省が合体し文部科学省になっているが、大和国では別れているらしい。男性省などという間違いなくこの世界特有の省もあるようだ。大蔵省の名前が変わっていないのも面白いな。
さて、大和国の民主主義を支える選挙制度だが、民衆院は選挙で選ばれる(公選制)が華族院は選挙ではない(非公選制)ので、二凧母は華族院の議員であり、そこから文部大臣に選ばれたと言ったところだ。華族院は政党を持っていない(非政党主義)が、民衆院は政党政治であり、慣例として民衆院で過半数を取った政党与党は、華族院から何人か大臣を選ぶらしい。
大臣が天皇の任命じゃなくてよかったね。
地方は華族の権力が強くて、労働者が多い都心部は政党の政治家が強いそうだ。それとは別に経済界を財閥系が握っている。意外にも権力が分散しているようで面白い。
大和国は人口が1億どころか8000万ぐらいしかいないらしい。男性の数は235万と言ったところ、もちろん老人もいるだろうから若い世代の性的な負担は計り知れないね。人工授精がないと無理そうだがどうやってるんだろうね。
たいして日本は1億2000万で絶賛少子化中といっても男性は6000万人ほどいる。大和国の人口に近いぐらいの男性がいるのだ。
おそらく世界中から日本は狙われているんじゃなかろうか。大和国は中立路線で行っているらしいが、社会主義国家の東側陣営と民主主義国家の西側陣営にわかれて睨み合いはこの世界でもしているらしいので、アプローチが激しくなることだろう。戦争にならないといいなというところである。
「食事したら屋敷を案内してくれるんだよね?」
「はい!任せてください」
屋敷内の案内と言ってもそれほどかと思っていたが、西洋風の邸宅は、本当に広いということを痛感した。私たちの住んでいる所はこれに比べたら兎小屋もいいとこだ。かつてアメリカの大統領が日本のアパートをみてウサギ小屋といった理由がわかるね。
身長140cmのぴょこぴょこ揺れている合法ロリもとい、二凧ちゃんを眺めながら、赤い絨毯を歩き、客間や応接室、談話室、食堂、キッチン、図書室、遊戯室などを見て回った。
地上3階建の地下1階で土地面積が8000坪近くあるという。建物内を維持する使用人も多いのか、メイドの姿もちらほらと見てとれる。この広さの建物は日本であったら歴史博物館として残されていることだろう。
図書室の蔵書数は相当なもので本が日焼けしないように窓がない作りになっている。ミステリーなら間違いなくここで密室殺人が起こることだろう。大和の歴史などの子ども用の本を見つけたので後から読むことにする。
政治や教育関係の本が多いようだった。曰く、華族議員の中でも教育に強い家系らしく歴史的にも文部大臣は長宗我部がよく選ばれてきたという。
世界比較の教育資料や学習理論なども出てきたがパッと見た感じ、日本と似たような内容に思える。作者の名前こそ違えどほぼ同じ装飾なのが面白い。
ここに座り込んで1日、本を読もうと思ったがお部屋に持っていって良いとのことだったので我慢することにした。いつでも使って良いとのこと。せっかくだからレポートにでもまとめようかな。
図書室に興奮していたらあっという間にお昼の時間になったようだ。吉田さんが腕によりをかけておりますので、お昼をお食べくださいと言われたら流石に断れない。朝昼としっかり食べることはなかったから新鮮な気持ちだ。
1階の食堂に戻ると、軽めのご飯が用意されている。二凧ちゃんは、終始緊張している様子であり、じっと観察していたら目が合ってしまった。それに慌てのかコップを倒していた。
家主なのだからぜひ堂々としておいてほしいものだ。慌てすぎである。
大和国での二日目の午前はあっという間に過ぎていった。
公爵 侯爵 伯爵 子爵 男爵の5爵位制度です。公爵は皇族だとおもってもらえれば大きくて問題ないと思います。