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貞操逆転パラレル日本の比較文化記  作者: バンビロコン
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貴賓席

 バレーボールは大和において、そこまで人気のあるスポーツではない。一番人気があるのがテニスの混合ダブルスらしく、数少ない男女混合のスポーツらしい。なるほど、テニスコートが長宗我部屋敷にもあったし、前に行った鴻池屋敷にもあったのはそのためだろう。女子だけだと、テニスとサッカー、野球が人気スポーツのようだ。


 日本においても、野球やサッカーに比べるとバレーボールは人気が低いと言わざるを得ない。1913年頃に日本に伝わってから約100年ほどしかたっていないことを考えればこれからなのかもしれないが、ぜひとも頑張ってほしいところである。


 さて、今回は世界大会のアジア予選らしく、かなり重要度の高い試合といえるだろう。もっとも、大和国のバレーボールはアジア内でもそこまで強くないらしい。少し残念である。


 本日の大和国の対戦カードは、大和対リムカという国である。元の世界でいうと、インドにバングラデシュとパキスタンを混ぜたような国で、人口が世界で一番多い国だ。経済成長もめまぐるしいが、旧体制的な身分制度が強く残っている国でもある。大和国も華族制度が残っているのでこの世界全体が比較的身分差を残しつつある。人権的な考え方が少し弱いともいえるかもしれない。


 二凧が抑えてくれた席が、男性や華族用の貴賓席であった。コートが一望できる高い位置にあり、前面がマジックミラーみたいなもので外からは中が見えないようになっているらしい。貴賓席などというが、男性が一般席にいると危険という話であるようだ。

 そんな説明を受けながら、中に入ると珍しく先客がいるようだ。しかも男性もいる。


「やだやだ、僕はやりたくない!」

「でも、ゆうちゃん、前やってくれるって言ったじゃない?」

「そんなの言ってない!!別にこんなのも見たくもない!」


 わめいているのはなんと驚いたことに30代すぎの男性である。幼稚園児や小学生のような駄々をこねているようだが、少なくとも見た目は子どもではない。知的に課題がある方なんだろうか。いや、保護され続けていると考えれば、一般的な男性像があれなのかもしれない。

「二凧、あの男性みたいな態度はよくあることなの?」

「?そうですね。一般的な男性だと思います」


 二凧は何かおかしなことでもあるのかという顔でこちらを見ている。噓でしょ。30代にもなって自己表現があれか……

「あっ、学さんとはあまりにも違いすぎますからね。えっと、たぶん今男性と話しているのはお母様なのだと思います。お母様の前だとあのような態度を取ることがあるって聞きますよ」


 母親ね。発達心理学的にいえば思春期という第二次反抗期を経て、親離れが進んで独立した個人になるんだけど、彼は親離れできなかったようだ。彼の場合、暴れたらお母さんがなんとかしてくれるで成長が止まっている。


 しかし、ギャーギャーと五月蠅いことだ。子どもがそのような表現しかできず周囲に迷惑をかけるのは発達段階上許容範囲といえるが、彼は無理である。

 あそこで暴れられたらせっかくのバレーボールが楽しめない。仕方ない、少し聞いてきてあげることにしよう。

「騒がれても困るし、ちょっと話を聞いてくるね」

「ちょっと、学さん待ってください」


 二凧が慌てて後ろからついてきて声をかけているが、たぶん体に触れて止めるということができないのだろう。男性が急に男性に話しかけるのもそこまで良いものではないのだろうが、無理に止められないようだ。

 向こうにいる男性警護官のような人たちも私の進行を止められないようだ。男性を触れて止めるというのにためらっているのかな。

「どうも、そちらの男性さん、なにかお困りかな?」


 そう声をかけると騒いでいた男の声がピタッとやむ。その顔からは誰かに声をかけられるとは思っていなかったらしい。周りの女性たちが慌てているがすっと、母親らしき人物が前にでてくる。

「男性の方がなんざますか?私のゆうちゃんに急に話しかけないでもらえざません?びっくりしてしまうざます」


 やはり母親が出てきたか。それにしても、私のゆうちゃんね。ペットか何かかな。流石に男性が話しかけてきたということで、口調は丁寧だが女性が言っていたら切れていそうだ。

「あなたに話しかけてませんよ。それともそちらの男性は自分で会話もできないんですか?」

「な、なにざます」

「さて、私は学習院学だよ。あなたのお名前は?」


 紺野先生が相当に優秀であったことが今更ながらわかるね。この環境の中で、仕事をして力をつけようと考えるのは並大抵のことではない。

「えっ、あっ、その、野澤勇人のざわゆうとです」

「野澤勇人さんね。何かお困りのようだけどどうしたのかな?大和の試合までにはたしかにまだ時間があるから言うならいまのうちだよ」


 試合中にさっきの騒ぎ方したら、追い出すからね。

「あっ、あっ、あの嫌なことがあって」

「ほう、嫌なことがあったのか。それで?」


 どうして30過ぎた男に、こんな子どもみたいな接し方をしないといけないのか。

「ゆうちゃんは挨拶がしたくなかったざますよね」

「今自分で言おうとしているだろう。お前は黙って見守っていろ」

「な…………」


 絶句というのはこういうことをいうのだろう。すぐ、口をはさむから駄々をこねるしか表現できなくなったというのがわからないようだ。知らない人に自分の意見を口で伝えるということが、彼にとっては未経験であるためまだ難しい。しかし、それができなくては、口ではなく肉体言語で暴れるだけの人間になるのである。

「えっと、なんか、あっあっあいさつ?ってのをしないといけなくて、でもはなせないから」


 挨拶がしたくないにちゃんと理由があるじゃないか、話すのが苦手というか、おそらくどもってしまうのだろう。どもりは精神的なものの場合、本人が一番辛いからね。しっかりと話したいけどうまく出てこない、そんな苦しみがあるのかもしれない。

「よし、よく言ってくれたね。代わりに挨拶にいってあげようか?それとも一緒に行こうか?」

「えっ?」

「すいません。口をはさんでもいいですか?今困っているのは、おそらく男性の会場挨拶を引き受けてしまったのですよね」


 男性の会場挨拶?それはなんだろうか。

「そ、そうざます」

「二凧、会場挨拶とは何?」

「そうですね。スポーツの世界では、男性が応援すると勝てるみたいなジンクスがありまして、試合前に男性に『頑張ってください』の一言を放送で流してもらうことがあるんです。もちろん、全てのスポーツでそんなことができるわけではないですけど、男女混合テニスとかは毎回ありますので人気な理由の一つです」


 女性リポーターが、男性選手に頑張ってくださいと応援したり、チアリーディングが会場を沸かせたりする余興の類か。男性が少ない中で、スポーツも一つの事業と考えれば十分に納得できるものである。

「あぁ、それなら代わりにやろうか。野澤さんが多くの人前で話すのが嫌というのであれば、十分に納得できる理由だろうね」

「ほ、本当?やってくれるの?ひとりでもむりなのに、みんなのまえでなんてとてもじゃないけど無理だよ」

「だ、ダメざます!」


 隣でざます母がヒステリックな声を上げる。

「何か問題があるのか?先に説明が必要なら説明に行くし、これほどやりたくないという主張もの理由も単に我儘というわけではなく、話すのが苦手であり、1対1でも難しいのに多くに聞かれている中だと難しいというのは、納得できるものがあるだろう。男性なら誰でも問題ないということであれば、代わるというのは合理的な判断だ。それとも何か他に問題があるのか?それは野澤勇人さんの意思を無下にするほど大切な理由があるというなら、ぜひ教えてほしいね」


 正直、金でも握らされたか。彼の婚姻相手がスポーツ関係の偉いさんとかそんなところだろう。母親が見栄を張ってしまったということもありうるがね。

「問題……ないざます……」


 男性家族は男性の味方とは限らないか、これはよく覚えておいた方がいいかもしれない。ざますの母は普段は彼のいうことを何でも聞いてあげているし、保護しているのだろうけど、だからこそ、ペットのように扱ってしまう。だから、嫌がっている時にその真意を聞こうとしない。結局、対等な人間だと思っていないのである。普段聞いているから、たまには聞いてと代償行為のように考えてしまうのだ。


「じゃあ、二凧行こうか。各所に説明が必要ででしょ?」

「はい!ボク説明してきますので、学さんは紅音さんと待っていてください」


 私が説明した方が早そうだが、まあ女性がたくさんいるところだからと配慮してくれたのだろう。

「わかったよ。ここで待っているから、決まったら戻ってきてくれ」

「はい!行ってきます」


 なぜか元気いっぱいな二凧が颯爽とかけていった。アカデミックドレスは動きにくいと思うんだけどね。


 野澤ファミリーは帰るということで消えていった。年齢を聞いたら37歳だった。あれで37歳はちょっときつすぎる。

「紅音、さっきの彼、どう思う?」

「ん……主とは似ても似つかないけど先ほどの男性が普通……」


 そりゃ鴻池事件が大きな事件になるか。男性があれだと思われているんだもんね。嫌がる男性を金で売り買いして、性的暴行をしたというストーリーに思われているわけだ。


 となると、男性のお見合いパーティーが相当異端なのがわかる。今日のテレビ局での不審者も、男性イメージの違いから来ているものかもしれない。テレビ局や政府が無理矢理男性に言わせていると思ったのかもしれない。そういう男性の保護を訴えた個人ないし、集団の暴走とも考えられる。

 

「どおりで侯爵から絶賛されるわけだね。本当にああいう男性を育てていっているのが今の教育目標に合っているのかという疑問はあるけど」

「ん……守りやすさでいえば先ほどの男性の方が楽……でもやりがいはない……」


 まあ、先ほどの彼は家から出ないだろうしな。それもそれで幸せな人生なのかもしれない。私は受け入れられないけどね。であれば、ちょっと明後日の小学校の件は少し過激にしてもいいかもしれないね。

 

 そんなことを思いながら、会場をみるとちょうど、別の試合が終わったところであった。見損ねたが、途中からみてもよくわからないので仕方ないだろう。


 先ほどの試合は中国にあたる華国と、朝鮮半島の統一国である朝鮮の試合だったようだ。この世界だと朝鮮は2つに分かれていないという。この世界において大和は大陸の土地を狙いに行っていないので、朝鮮には攻撃していない。秀吉の朝鮮出兵もなかったようだ。


 歴史的に考えれば、南下政策をとるロシアや、巨大な隣国である清国に支配されてもおかしくなさそうな気がするがうまいこと生き延びたらしい。


 その結果、大和と朝鮮の関係は悪くはない。昔、大和の海賊が朝鮮半島から男性をさらっていったのが多発したことが揉め事ぐらいなようだ。日本でいうと倭寇みたいなものだろう。

 

「学さん、話をつけてきました!あと、バレーボール協会の会長が挨拶に来たいと言っていますが通して大丈夫ですか?」

 男性というだけで、会長の方から挨拶に来るのか。全く感覚が狂うな。というか儀礼的なものはないのだろうか。

 

「もちろん通していいよ。何か儀礼的な注意点とかはあるかな?」

「えっと、特にないですね。協会の会長といいますが、華族というわけでもないので、名誉顧問とかには爵位持ちの方が名前を貸していることが多いですが、会長は現役上がりの方が多いですので」


 なるほどね。会長も含めてこうした、名誉職には華族が占めているイメージだったけど違うようだ。

 二凧が了承した旨を相手方に伝えると、身長190cmはある大柄な女性がやってくる。足の長さとかもう別物だね。元選手なのだろうか。


「学習院様、私は大和バレーボール協会会長の白居と申します。このような場に来ていただき誠に感謝申し上げます」

「白居さん、座席から失礼しますね。せっかく来ていただいたので男性挨拶についてお聞きしたいのですが、よろしいですか?」

「はい、もちろんでございます。なかなか頼み込んでも男性の方に来ていただく、ましてや挨拶をしていただくということは難しいものでして、学習院様に来ていただきまして大変な幸運を感じております」


 そもそも男性が来てくれないのは、スポーツに興味がないからだと思うけどね。やはり自分がしたことがあるものに興味がでるのは当たり前だから、教育段階からもう少し主体性を重視してあげないと先ほどの彼のように何もできず、何にも興味を示さない哀れなペットが生まれてしまうよ。

 

「バレーボールが一番好きなスポーツですからね。来たくて来ていますので、挨拶について具体的にどのタイミングですれば良いかを教えていただいてもよろしいですか?」

「そういっていただけて望外の喜びであります。挨拶についてはですね。選手が入場してウォームアップのタイミングがあります。その時に放送席の方にお越しいただき、台本もございますので、お言葉を頂けたらと思います。テレビで拝見させていただきましたが、台本とかはご自分でご用意されていたのでしょうか?あっ本日はテレビの方で本当に大和女性が大変なご迷惑をおかけしまして……」


 次々と話そうとする会長の話を切っていかないと話が続かない。バレーボールを見たいだけなのである。

「テレビ局では台本を打ち合わせである程度考えておいて、局の方にカンペを出してもらっていましたので、わからなくなったら見るようにしていましたね。本日の放送事故については、あの不審者の問題ですので、会長が謝る必要はありませんよ。では、先に放送席の方を見させてもらってもよろしいでしょうか?ウォームアップまであと30分ほどだと思いますし」

「あっ、はいすぐに伝えて参ります。お連れ様と少ししてから出発していただければと思います」


 放送室に突然いったらそんなにびっくりするのだろうか。いや機材の問題かもしれないね。音が入ってしまったりするとまずいだろうしね。

「今、別のものに行かせました。すいません報酬の方なのですが」


 あぁやはり報酬があったのか。あの母親も金に釣られたかな。

「高名な学習院様にこのような金額で申し訳ないのですが、野澤様と同じ200万円でお願いできないでしょうか。もし、ダメでしたらすぐにということは難しく、私的に後からお出しすることになるのですが……」

 一回の挨拶で200万円。いかれてるね。相場がわからないのでなんともいえない。


「二凧、日本にはない風習なんだけど、金額的には妥当なのかな?」

「そうですね。場合によるとしか言えないです。ですが、学さんは日本人男性でかつ知名度を考慮すると、宣伝効果を考えればもう少しもらってもおかしくはないですね」


 なるほど、多すぎるかと思っていたから調整が必要かと思っていたが、あまり減らすと後からくる日本人男性が困るだろう。ここはもらっておくか。

「その金額で構いませんよ。バレーボールの振興費、宣伝費を含めた金額ということであればぜひご協力させていただきます」

「ありがとうございます」


 まあ男性を使うということはそれだけ、金が動くことなのだろう。関係はないが、この前ついに通帳を手にいれたので、やっと金額交渉が自分でできる。しかし、金額が妥当なのかどうかについては二凧か紅音と相談が必要だね。


 思い出したが、そう考えると小学校での授業料が低かったね。紅音に聞いて確認するか、持ち帰りにして二凧に確認をとるべきだったか。

 後の祭りというやつである。

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