過剰歓迎
パラレル日本の港、おそらく横浜港につくと、軍服をきた女性がズラッと並び物々しい雰囲気を漂わせていた。さらにおそらく高価なのだろう和服の妙齢の女性に、外交官なのかスーツの女性もいた。なぜか、男性は1人もいない。
本格的に、早川君の持ってきた噂は信憑性を増してきたようだ。
日本の外交官らしき男性が、和服の女性やスーツの女性と握手をしながら何かを話している。すると、船内アナウンスで順番に降りるように言われた。ここからはネットが繋がらないそうだが、電話とCメールはできるのでということでだ。いざとなった時の連絡先として、日本大使館の電話番号をもらった。ついでに早川くんとも電話番号を交換しておいた。
港には大量のバスがズラリと用意されている。船の下で受付のような場所があり、妙に緊張している軍服の女性に名前を言うと、3番のバスになどと振り分けられた。
バスには女性の運転手と、その周りを警察の車で取り囲まれており、大統領が来日したときのような厳重さだ。たしかに新しく現れた国であり、この世界ではじめて国交樹立してから、世界初の一般国民の客人と考えれば、わからなくもないが、北の将軍様のいる国のように見せられないものがあるのではないかと邪推してしまう。
街並みは少し古い日本のようなイメージだ。具体的に言うと超高層ビルが少なく、軒並みビルの高さが低い。窓の外からは、パラレル日本の国民らしき人たちが遠くで旗ふりをしているのが見えたが、かなり距離が離れているので性別などはわからなかった。そうこうしているうちに迎賓館らしき場所についた。日本にある迎賓館と非常に似ている気がする。今のところは、少し古い日本というようなイメージだ。昭和の日本みたいなものだろうか。
迎賓館の中には立食パーティーのような会場がある。食事は相当に豪華で歓迎されているのがわかる。おそらく何グループかにわけたのだろう。200人ほどの男性がいる。また、現地の女性だろうか、同じぐらいの数女性がいる。驚いたことに男性のほとんどの人は適当な服なのに対して、女性の服装はドレスや和服など正装といえる格好をしており気合いの入りようと相まって私たちが非常に場違いに感じる。
スポットライトが光ると若い女性が映し出される。理想の大和撫子といった女性だ。
「皆様方、我が国大和国へおこしいただきありがとうございます。違う世界から移動してきたということで、ご不安も大きかったことでしょう。しかし、外の世界へと踏み出した皆様方の勇気に最上位の敬意を表します。文化の違い、風習の違いなどありますでしょうが、若い皆様方の力で互いに理解しあえればと思います。簡単ではありますがご挨拶とさせていただきまして、立食パーティーとさせていただきます」
パラレル日本の名前は大和国というらしい。奈良県が旧国名で大和国といったが関係があるのだろうか。しかし、想像に反して格式の高いパーティーであったた。こうした国をあげてお祝いするパーティーになるならそうだと教えて欲しかったものだ。
あたりを見渡してみると他の男性たちも困惑気味である。庶民の気持ちがわからないといった意味では流石日本政府である。今回のホームステイに関して守秘義務契約なども全く結んでいないのだが、大丈夫なんだろうか。もう帰れませんと言われるではないのか、逆に怪しくなってきた。などと思考の海の浜辺で遊んでいると、びくびくとした小さな女の子がこちらに歩いてくる。小学生ぐらいだろうか、身長が140cmほどの女子である。
「えっと、学習院学さんでしょうか?」
「そうだけど君は?」
「ボ、ボクは、長曾我部二凧です。よよろしくお願いします」
しっかりした子だ。黒髪でアカデミックドレスをきている四角の帽子みたいなものをかぶっている。学者の服を着るのが小学校の制服なのだろうか。それにしてもこんな小さな子もパーティーに出ているのはなぜだろうか。少しだけ嫌な予感がする。
「そうか二凧ちゃんだね。保護者と一緒にパーティーに参加しているの?」
「ニ、ニコちゃん!もしかして子どもと間違えられてる。えっと、ボクは子どもではなく、20歳……です」
20歳?どうみても子どもなのだが...子どもではないのか?俗にいう合法ロリというやつだろうか。実際の子どもっぽい大人など見抜けると思っていたが、どうやら私の目は節穴だったらしい。それともパラレル日本では成長の仕方が違うのだろうか。
「それは申し訳ないね。長宗我部さんの方がいいかな?関係ないんだけど長宗我部というと、日本では戦国大名として非常に有名な名字となるんだけど、大和国でもそうなのかい?」
「え!大和国でも長宗我部は戦国大名です。ボクは本家の末裔になります。長宗我部よりもニコの方で呼んでほしいです。あの!ニコちゃんでお願いします」
戦国時代を生き残って今も続く家柄か、日本では長宗我部は秀吉により破れ土佐、今の高知県一国に土地を減らされた後、関ケ原の戦いで西軍に参加して敗れたため改易され滅亡している。日本に似ていると考えれば、長宗我部家は滅んでいてもおかしくないがその辺りの歴史も大きく変わっているのだろうか。
「大和国では今でも大名がいるってわけではないよね?」
「はい、かつての大名は明治維新後に華族と呼ばれる特権階級になり、今でもそうなっています」
日本では、諸侯群雄割拠した戦国の世を制した徳川家が幕府を開き、かつての戦国大名や武将たちは土地を与えられ藩と呼ばれる土地を治めるようになった。こうして江戸時代は、幕藩体制と呼ばれる政治体制に移行していき200年ほど安定した時代を作り出した。
その後、海外からの圧力で江戸時代は終焉を迎えることになるが、明治に変わるころに地方の有力者がいなくなるわけではない、そうした藩を治める地方の主、諸侯たちは明治維新後、華族と呼ばれる特権階級へとなっていったのであった。
「その辺りは同じようで違うんだね。華族は日本が第二次世界大戦に負けて後、市民階級と同じになったけど、第二次世界大戦は起こっていない?」
「そうなんですか!大和国は第二次世界大戦で民主主義陣営よりの中立を保ちました。明治維新後、ずっと立憲君主制の民主主義国家となっています」
なるほど、第二次世界大戦に参戦しなかったのか。たしかにそうであれば華族制度が残っているのもう頷ける。おそらく財閥や豪農も残っていることだろう。
「良い立ち回りをしたんだね。日本は負けてしまってね。まあ今は相当平和だよ。天皇陛下が象徴としていらっしゃる民主主義の議会君主制を取っているよ」
「天皇陛下がいらっしゃるのですね。大和国では天皇陛下は君主として憲法に書かれています。君主といってもすべてをしているわけではなく、法律は華族院と民主院の2つの議会で作りますが、その決まった法律を許可するという形で発布されます」
「どこまで君主の力が制限されているかは、今語るには少し時間がかかりすぎるだろう。また今度にしよう。話を戻すと、日本でも立法府は二院制で衆議院と参議院があるが名前が違うね。私たちの戦前が衆議院と貴族院で貴族院は非公選であったから、戦前の日本立法府は同じような仕組みのようだね」
「そのようですね!また、たくさん話しましょう。日本国の政治体制や歴史がすごく気になります」
長宗我部二凧さんは、子どもっぽい見た目に反して非常に賢い方だ。豊富な知識を持っており、文化的な違いを読み取りながら会話をしてくれる。そして自分から話しかけるタイプにはあまり見えないことや、周りの男たちもそれぞれ女性一人と話していることから、狙って話しかけてきているのだろう。名札が貼られているのでこれを見ていると思われる。
「私もとても気になるよ。もしかしてだけど、ホームステイのお世話になるお家の方だったりする?」
「あっ!申し遅れました。学習院学さんのホームステイ先の長宗我部家の次女、長宗我部二凧です。歴史や文化を知りたいと聞いてます。よろしくお願いします」
思えば、申し込み用紙にどんなことを目的としているかという欄があったから、ライター経験や大学院での経験を活かして、歴史や文化を学び違いをまとめたいと書いたな。
ご丁寧な挨拶をされるような身分ではない上に、二凧さんは華族の末裔ということもあるのか所作が非常に優雅である。ホームステイをする私としては身分違いを感じるが、パラレル日本を知りたいという欲求は抑えられない。むしろこれだけ賢い人と話せるのは楽しいことだろう。楽しかった大学時代を思い出すようだ。
「聡明な方がいらっしゃるお家でホームステイをさせていただいて光栄ですね。学習院学、26歳です。インターネット上の情報サイトなどに記事を投稿しているフリーライターです。専門は教育社会学ですが、学校内ではなく学校外での教育が専門です。専門と言いましたが、広く知識を得ることが好きなのでよろしくお願いします」
専門は教育社会学、教育という事象を社会学の観点から覗き込む分野だ。
「ここちらこそよろしくお願いします。(すごいこんなに知識のある優しい男性がいるなんて夢みたい)」
「ん?どうしましたか?」
「い、いえなんでもないです。お食事食べられましたか?長旅だったですし、食事の違いもあるかもしれないのでぜひ」
「たしかにそうですね。そうしましょう」
食事は一般庶民にとっては値段が想像できないほど豪華で、綺麗に盛り付けられたオードブルが並んでいる。特段おかしなものがあるような気はしない。一つだけ見たことのないフルーツがある気がするが、日本にもあるものなのだろうか。周りをみると、ほかの男性たちも女性と話しながら食事を始めている。
「大和国の料理は非常においしいね。おっと寿司もある。流石はそっくりな国だね」
「生魚を食べる文化は他国では少なですが、日本では食べると外交筋より聞いて、大和国が誇る最高峰の寿司が用意されたそうですよ」
「なるほど、これは食べたことがないおいしさだ」
こんな国賓のような待遇をどうして一般国民にしているんだ。国交を樹立したばかりで待遇を良くするのは、これから仲良くしましょうということでわからなくはない。仮説としては早川君が言っていた、男女比が歪なことが有力だ。かつてのブラジルへの移民みたいな、ドリームをちらつかせて労働力の確保かと思ったが明らかに違う。すこし、二凧さんに聞いてみるか。
「二凧さん、聞いていいかな。ここに来ている男性は日本では別に高い地位をもっているというわけではない。どちらかといえば低い社会的地位の人が多いと思う。私も修士まででているから学歴的には低くはないけど、仕事がフリーライターで知名度もないから一般国民としか言えないよ。それでも客としての待遇が妙に高い気がするんだけど、外国から招くときは手厚く招く文化があったりするのかい?」
「二凧さんじゃなくて二凧ちゃんで……あっあのなんでもいいのですが、えっと高い地位というのは社会的信用の高い仕事についていることを言っていますよね。それはもう少しで説明があると思います。あっちょうど始まりますね」
二凧さんという言い方はどうやら本人的に嫌なようだ。さんつけに文化的な意味合いがあるのだろうか。
ちょうど二凧さんがそういうと、バックミュージックで流れていた曲が止まり、スポットライトが先ほどの女性を映し出した。
「皆様方、お楽しみいただけていますでしょうか。皆様方の中には、今の状況を不思議に思われている方もいるかもしれませんが、ここでお答えしたいと思います。我が国も含めてこの世界の国での男女比はおよそ1:33です。男性というのは非常に貴重な存在と私たちは認識しております。皆様方のおられる日本においては男女比が半々と聞いておりますのでこの待遇に不思議に思われると思います。しかし我が国では男性不足は深刻であります。精一杯おもてなしをいたしますので、もし大和国に残りたいという方がおりましたら、婚姻を結べば国籍を取得でき残ることもできます。こちらは日本政府としても容認しております。ぜひ我が国をお楽しみください」
「「「おぉ」」」
各所で驚きの声があがった。一部のものはやっぱりそうかという顔をしている。早川君のもってきた情報は正しかったようだ。
驚きも冷めないうちに、スポットライトが消えまた音楽が流れ始め、男性側が先ほどよりも積極的に話し合いが始まる。パラレルワールドというが、想像以上に異文化・異世界であった。男女比の歪さがどれほど社会に影響を及ぼしているのかは想像に難くない。
それでも積極的に話しかけるここにる男性たちは、比較的コミュニケーション能力があるのだろう。そうでなければいきなり他国に行こうとしないからなのか、この話題に対して食いつきが良さそうだ。
しかし、なるほど納得いくところがある。集められた男性はおそらく日本においては結婚をしない男性たちもしくは、自由業を好むような積極的な労働者ではない男性たちなのだろう。正規雇用よりは非正規雇用にあたる男性たちだろう。
言い方は悪いが、日本政府からするとそこまで貴重ではないといえる。それを男女比の歪さから貴重に扱ってくれるだろうパラレル日本。おそらく国交樹立にあたってパラレル日本が、相当いい条件を出したに違いないが、餌は男性だろう。
もちろん日本側も人権問題があるので売ることはできず、あくまで自由意志に基づくことが前提だ。そして大和国で自由恋愛をしてとどまる、こうして事実上、日本人男性が、他国に行くという設定と想像できる。
「なるほど、まさか男女比がそんな異常な数値になっているとは、これは未婚の男性で日本に未練がなさそう者が集められた理由がわかる」
「は、はいなのでなるべく本人の要望にあった内容が叶えられるようなお家になるようホームステイ先が決まっています」
「ということは、二凧ちゃんは歴史に相当詳しかったりする?」
「(二凧ちゃんって言ってくれた)あっはい、いえ、あの私の母が文部大臣なので……」
なるほど学歴を見て、私が教育学だから文化を教育などの文化と取ったのかな。それで色々知りたいというのを最大限してくれたわけか。しかし、大和国の情報が日本に蔓延したら日本の男性一気に流入することになるが、日本政府はどのように考えているのだろうか。
「これは日本政府も思い切ったことをしたね。情報が伝わったら国内大荒れだね」
「そうなんですか?どのあたりがまずいんでしょう……」
なにかまずいことがあったかという顔をしている。その表情が真剣なところから、もしかすると男性の顔色を気にする文化があるのか、それとも日本がなぜ荒れるのか想像もつかないからであろうか。
「いや、大和国の対応がというより、日本の問題だね、男女比が歪なら男性がちやほやされるだろうと思って、日本の男性人口が一気に他国に流れるだろう。そうすると日本の労働人口が激減して、国内産業が滅ぶことになるだろう。それだけでなく、技術大国の日本だからね。技術的な差がどれぐらいあるかはわからないけど、もし日本の方が進んでいた場合、取り合いになりながら拡散していくことになる。世界情勢にもかかわっていくことだろうね」
「なるほど、日本では男性が働くと聞いたのですが、本当なのですか?」
ここでは積極的には働かない男性ばかりが集まってるので説得力はないが、男性が労働力の主体となっている。特に年功序列や子育て支援の弱さ、女性の出世意欲のなさも相まって男性が主力の社会と言ってしまっていいだろう。
「今でこそ、男女平等で両方働くことが良いようになってきたが、少し前までは女性は家で専業主婦、男性は外で働いて金を稼ぐという形が一般的だったよ。こっちの世界ではどうなってるのかい?」
「ほ、本当なんですね。小説の中のような設定すぎて実感がわきません!えっと、大和では、基本的に男性がいる家庭において、同居婚の女性と通い婚の女性たちが合同で家を守ります。仕事も家事も基本的に女性がします。大抵は家政婦が雇われていることが多いです」
聞きなれない言葉が出てきたね。同居婚と通い婚か、たしかに男女比が歪だと重婚をしなければ成り立たないわけだから、同居している女性と通っている女性がいるわけか。
「男性は何をするのかな?」
「好きなことをしています。刺繡やお花、楽器などの家でできる趣味をする方が多いそうです」
男は日本的にいうとニートといことになる。ちなみにニートというのは、15歳から34歳の働いていない人達で、学校にも行ってなく家事を手伝っているわけでもなく、仕事に就くために就職活動もしていない人たちのことだ。
大和国だと種の保存のための種馬という仕事なのかもしれないね。そう考えると、日本から選ばれたメンバーは仕事をしなくても楽しく生きていける適正の高い人を選んだということかもしれない。たしかにお金の獲得ではなく夢の実現を目指す、夢追人っぽい者が多い印象だ。
「なるほど、道理でここにきた人たちは大和国の方が住みやすいと思う人が多いかもしれないし。それで、二凧ちゃんたちは大和国を気に入ってもらえるように接待するように言われてるの?」
「はい、でも正直驚いています。大和国の男性は女性から話しかけられるのを嫌がるので、どの方も普通に話されているのが驚きです」
なるほど、女性の方が圧倒的に多い中の男性か、マイノリティの辛さと言うやつだろうか。男子校に女子が一人だけいるということを考えればその怖さが想像できる。
「そうだね。自分から女性に話しかけるほど意欲的な男性は少ないが、話しかけられて嫌な男性は少ないだろうね」
「そうなんですね、えっと、学習院さんも嫌ではありませんか?無理してたりとかしてませんか?」
恐る恐ると言った様子で聞いてくる二凧ちゃん。上目遣いで見てくる様子は小動物のような愛くるしさがある。
「二凧ちゃんのような可愛い子に話しかけられて嫌なわけはないよ」
「か、かわいい!ボクがですか」
二凧ちゃんが慌ててしまっている。【かわいい】という言葉はよく使われる言葉だが文化的な意味の違いがあったかもしれない。あまり成人済みの女性に可愛いというのは良くなかったか。
女性が男性を保護するものと考えれば、かっこいいと言われたいのかもしれないし、綺麗と言われたいかもしれないからね。その辺りの文化的な違いとしてどうなんだろうか。もしかすると、可愛いが可哀想とかそう言う意味になっていたりするんだろうか。たしか日本でも古語では可哀想という意味があったはずだ。
「日本では小さくて愛らしい子に可愛いというんだが、大和国では違うのかな?もし違ったら愛らしいと言う意味で言ったと思って気を悪くしないでほしいんだけども」
「あああ愛らしい!いえ、あああの可愛いの意味はほとんど一緒だと思うんですけど、男性は女性を可愛いとか言わないですし、男性はその背の高い女性と言いますか頼り甲斐がある女性を選ばれるので……女性が男の子に使う言葉というか……」
背の高い女性が好まれるのか。納得である。日本でも女性の結婚相手として3K(高収入、高学歴、高身長)という言葉が使われたように、大和国では男性は保護されることを前提として、強い女性を好む傾向にあるのだろう。
これは、文化的なものなのか、それとも古くからその男女比で生物的に好みが進化していったのだろうか。非常に気になるところだ。
「これも文化的な違いだな。しかし、男性でも子どもには使ったりしないの?」
「わからないですけどたぶん小さな、その小学校に上がる前ぐらいの子には使うと思いますがボクのような年齢の子には絶対に使いません。そのきょ、興味があると勘違いされちゃうので」
興味がある、男女比が歪な世界だと興味があるという意味がどれぐらい思いのかはよくわからない。男性の性的な欲求がそこまで強くないのであれば、仲良くなりたいと思われるってことかな。
「そ、そうかそれは悪かったね。悪気があったわけではなく、良い意味で親しみやすいと言いたかったんだ」
私の性対象は小さい女の子であった。大人が嫌いだったからなのかそれとも生まれつきなのかはよくわからないが、性に興味が強くなる思春期の頃には既にそうであった。
これが、小さい女の子も好きであったらたいした問題ではない。ただ、対象が広いというだけのことである。しかし、対象があまりにも狭いのはどうしようもないことを悟った。
そこで色々と考察した結果、所詮、性的な欲求も人間のエネルギーにすぎないのだから、方向性をずらすことは可能だと判断した。膨大に膨らむエネルギーの先っぽを子どもに関係する知識を得たいという欲に変えることは造作もないことであった。
既に安定してエネルギーをコントロール出来ている私にとって、如何に対象になりうるだろう、二凧ちゃんという合法ロリがいても欲に流されることはない。
「親しみやすい……えっと日本だと成人女性にも使われる言葉ということなんですよね」
「そうだね。特に女性同士でかわいいーって言い合ったりしているのをよく聞くよ。男性も女性を褒める言葉に使うことがあるはずだ。まあ私は女性の知り合いが少ないからよく知らないがね」
当然だが、欲に負ける人間というのは相手の良いようにされるのが基本である。食品メーカーの誘惑に過度に負け続け。高カロリーな生活をしたものは、生活習慣病になるのが目に見えているだろう。
ギャンブルのような刺激への欲求に負け続けてたものは自らを破産させるのである。人間というのは欲と付き合って、欲そのものを認めつつ代替をしながらコントロールする生き物なのである。
私たちは理性的な人間。例え、性の対象となりえたとしても、欲望のまま行動するのではなく、まずは互いの文化をよく知ることから入るべきだ。
「ボクをその褒めて…くれたってことですか?」
「そうだね。なるほど、男性は女性を褒めたりしないの?」
「はい、男性が女性を褒めるのは滅多にないって聞きます。少なくともボクはないです」
いわゆる社交辞令がないのだろう。褒めるということはダイレクトであなたのことをいいと思っていますという表現となり、告白に近いイメージになるのかもしれない。
想像するのであれば、日本だと女性が男性にカッコイイねって褒める感じだろう。日本的な感覚では社交辞令なのだが、感覚の違いという所だろう。かわいいと思っているのは事実ではあるが……
「なるほどね、その辺りの文化の違いはトラブルになりそうだね。しばらくはおかしなことを言ったら教えて欲しい」
「いえ、ボクは初めて褒められて役得……ドンドン褒めてください!」
一度褒められただけで、少し顔が赤い。よほど男性経験がないとみえる。男女比が1:33というのは、100人に3人しか男性がいないということだ。滅多に見られるものではないのだろう。当然、話しあうこともないと思われる。
「二凧ちゃんは男性は見たことあるんだよね?」
「はい!共学の高校に通っていましたので、ですが話すことなく終わってしまいました。お父様とは小さい頃に会ったことがあるようですが、覚えていません……次女なことに加えて背が小さいので華族のパーティにも出席していませんでしたから、今回はお母様がねじ込んでくれました」
男性が少なく保護されていることを考えると、子育ても男性はしないのだろう。そもそも種馬なのだから子どもの数が多いとみえる。人口維持を考えるのであれば、最低でも男性の子どもは34人は必要である。
物理的に考えて、多産だと子ども一人当たりへの愛情は当然下がるわけだから、男性が子どもを愛して育てるということもレアケースなのかもしれない。
これで、男性のお相手としての女性がホームステイ先にされているのは明白である。子どもっぽい子をホームステイ先にするとは思わなかったが、どこかで私の趣味を把握しているのだろうか。
「なるほどホームステイ先にも条件があって、若い未婚の女性がいる家ってところか」
「はい、加えて華族や民衆院の政治家の家、財閥系といった家柄がしっかりしているところが選ばれていると思います」
おそらく熾烈な権力争いがあったのだろう。ドロドロの権力争いを垣間見たようであった。権力構造として都市部に力をもつ政党の議員、地方政治に力をもつ華族、経済界に力をもつ財閥の上層部があるのだろう。
日本が男性が多いと分かった時から、各陣営は華族系の財閥や財閥系の政党議員など、入り乱れているのが手に取るようにわかる。
「なかなか政治的駆け引きがされているようだね。興味深い」
「興味深いですか…本当に知識欲がある方なんですね」
発言から察するに、男性で知識を好む人は少ないのだろう。そもそも、この世界で社会を動かすのは女性であり、男性はおよびでない。知恵というのは力であり、男性に余計な力をつけさせないために知識を積極的につけさせたりしないことだろう。
「知識欲に関してはそこらへんの人を遥かに上回る自信があるよ。でも二凧ちゃんも似たタイプじゃないかな?さっきの話の食いつきをみてると、嫌々というようには見えない」
「さすがですね。ボクもたくさん知りたくて、珍しくお母様に日本の男性をホームステイ先にしてもらうよう頼んでしまいました」
日本のことを知りたかったんだね。なるほど随分と話が合いそうだ。
「それは奇遇だね。私も大和国に詳しい人と話したかったんだ。昔はよく夜通し議論し続けて次の日寝不足で仮眠を取ることがあったぐらいだ」
「ボクも良くやってしまって、講義に遅刻したことあります」
「あるあるだね」
彼女は大学生ということで、大学あるあるトークを長いことしていた。どうやら、男性が全くいないことを除けば大学の仕組みは同じのようだ。
話を聞いていると、どこの世界でも勉強をしたいもの、学歴がほしいもの、親の言いなりのもの、研究がしたい変わり者などはいるらしい。男性の場合は教育や医療など、どうしても男性が必要な職業だけ大学に来る人がいるらしい。
そうした人は、性被害を受けた男性の心理カウンセラーや泌尿器科など女性がすると問題のある高度専門職の仕事をしているようだ。
延々と話していると気がついたらパーティが終わっていたらしく、順次送迎のものが来るとアナウンスが入る。女性に連れられてゆっくりと人が外に出ていくようであった。男も女も大抵は顔が晴れやかである。男性はされたことがないぐらいチヤホヤされて、女性は優しく男性に接してもらったといったところか。今後を考えずここだけ見れば世界平和である。一時的な平和にすぎないのは明白だが。
「あっ学習院さん、早川です。いやぁすごかったですね。自分ここに住みたいです」
船であった早川君が隣に女性を連れて歩いていた。なぜか手を引かれていたので、連れられていたという方が正しいだろう。女性は、長身のモデル体型の女性である。私の苦手な顔をしている。
「早川君か、さっきぶりだね。それにしても男女比が歪だというのがまさか本当だとはね。まあ男性にとっては天国みたいに今のところ見えるね」
「早川さんお知り合いですの?」
私たちの会話に早川君と一緒の女性が割って入ってくる。押しが強そうだ。
「あぁ、船で知り合った学習院さんという方ですごい賢い人なんだ」
「あらそれはそれは私、鴻池薫子と申しますの。学習院さんもよろしければいつでも我が家にいらしてくださいな。そちらのような魅力の薄い女性しか大和国にいないと思われたら大変ですもの」
鴻池か、日本的に言うと江戸時代の豪商からくる財閥系といったところかな。それとも華族になっているのだろうか。見た目の印象からは自信家であり策略家な雰囲気がある。関わり合いは避けたいものだな。
「鴻池というと、日本では江戸時代から続く財閥系だが、大和国でもそうなの?」
「あら、日本でも鴻池家は江戸の時から栄えていらっしゃるのね。鴻池家は江戸の豪商で明治になると華族の仲間入りをしましたわ。豪商としての地位は維持して今も財閥としての力も持っておりますの」
「それは素晴らしいことだね。大変勉強になったよ。ただ残念なことに、日本には背の小さい女性に魅力がないとは言わないんだ。ねえ早川君。こちらの方は長宗我部二凧さんで成人してるんだがどう思う?」
自信家というのは先手が大切だと大学院時代によく学ばせてもらったよ。大抵一度刺しておけば次はない。
「え?成人してるの?長宗我部さんは可愛いと思うよ。魅力がないとは思わないかな。てか長宗我部ってあの長宗我部?」
「あの戦国武将の長宗我部だそうだよ。子孫なんだって」
「すげえ!本物だ!」
鴻池に比べて、長宗我部の方が知名度は抜群に高いからね。鴻池さんはバツが悪そうな顔をしている。欲をかくからこうなるといういい典型例だ。おそらく小さい女の子というのは相当人気がないのだろう。それが常識となれば、奪ってしまおうという考えが生まれるのも納得である。強欲は異文化コミュニケーションにおいて危険以外なにものでもない。
「そ、そうなんですの。おほほほほ、異文化の交流で齟齬がございましたわ」
「いやいや、初めての異文化交流なんだ。互いに寛容の心で行きたいものだね。私たちからしてももしかしたら不快に思うことがあるかもしれないが、是非今後のためを思って指摘してほしい」
二度とするなという意思を込めて威圧しておく。人を食い物にする人間は嫌いだ。
「学習院さん流石ですね。自分、全然知らない事ばかりで……」
「早川君のコミュニケーション能力と積極性もなかなかにすごいものだよ。それじゃあそろそろ時間かな」
「そうですわ。迎えが来ておりますの。早川様行きますわよ」
「そうだね。じゃあ学習院さんまた連絡するから」
「そうだね。元気でね」
早川君は元気に移動していく。しかし、あの強欲さ、あれは鴻池家に囲われていくだろうな。鴻池さんよりパーティ出て欲しいと言われ、了承してしまうと気づけば良い女ばかりに口説かれて、良くされたものだから断れなくてハーレムを作らされ、血縁紹介により鴻池の株が上がっていくところまでみえる。
「男性が権力者によって欲されているのがよくわかる光景だったね」
「…………」
二凧ちゃんの反応がない。顔を見てると何やら赤い顔をして止まってしまっている。小さな肩を触って呼びかけてみるが反応はない。大和国でいきなりセクハラ通報されないかと思うが、ここは異文化、慎重に越したことはない。
「二凧ちゃん大丈夫?」
「……はっ!大丈夫です。ボクはあの男性に庇ってもらって嬉しいとか、可愛いって他の男性も思ってもらえたのが嬉しくて固まってしまったとかじゃなくてそんな、あのえっとありがとうございました!」
勢いで誤魔化したみたいだが、嬉しくて固まっていたようだ。初心だね、昔は私もこうだったのかもしれない。しかし、流石は20歳、経験を大きく表現できるのはいい事だ。感じるというのは歳をとってくると弱ってくるみたいだからね。私はまだ26歳だけど……山籠りしてたら感性が年老いたよね。
「落ち着いて、とりあえずそろそろいこうか」
「は、はい……(やばい絶対変な女だと思われた……)」
6も下の好みの子が何しようとそんなひいたりするわけがないのだが、男性が少ない世界だと向こうの気持ちで考えるとわからなくもない。男性との話した経験がなく、しかも国家プロジェクトとして男性を引き止めなくてはならない。それは小さなことを気にしてしまうようになるだろう。
辺りを見渡すと手をつなぐ男女が多くみられる。先ほどの早川君もだが、エスコートは手をつないで行くという文化でもあるのだろうか。少なくとも一月はお世話になるのだ。手を引いていくのがいいのだろう。相手国の文化を尊重するのは、異文化交流において非常に重要なことである。
もちろん手をつなぐことに嫌な気持ちはないが、ただこの国の常識がわからないままでは危険である。さらに言えば、出口の場所がわからない。
「二凧ちゃん、どっちに行けばいい?」
「あれえっとえ?手を繋いで?」
「手を繋ぐのは普通じゃなかったかな?」
「普通じゃない、いや手を繋いでいて欲しいです。はい!こっちです!」
順番があったのだろうか。なにやら混乱しているが、元気を取り戻したようだ。
アカデミックドレスの小さな子と手を繋ぎながら歩くパーティ会場というのは異世界感が非常に増して、やはりここはファンタジーなのだと思った。
ストックが尽きるまで、一日一話投稿予定です。