パーティー前半
本日は、鴻池家主催のパーティに参加予定である。スマホが壊れたのか、なぜか連絡の取れない早川君に会いに行く予定なのだが、未だにCメールすら返ってこない。そういえば彼のスマホ画面が割れていたな。全体的に古そうなスマホではあったね。
パーティといえば面倒なのは明文化されていないルールである。特に服装、あいさつの順番など面倒な要素がいくつも考えられる。
そう思い、二凧に事前に聞いていたが、女性は服装に意味合いがあるらしいが男性の場合、正直に言えば、何を着ても文句は言われないらしい。そもそも、男性に参加してもらうのに金を積むのに衣装など指定できないというところだろうか。
最初のパーティで男性たちが適当な私服だったのに女性たちが突っ込んでなかったのはその辺りが理由なのだろう。
パーティーに似合う服装をお願いすると、いつぞやの告白された料亭できていた和服が似合っていたと二凧に言われたので、和服にすることにした。たしかに、平凡な顔に似合うのが和服のいいところだろう。これは、白黒写真にしたら戦前の昭和の大学生ですと言い張れる顔だ。
「ん……似合ってる……かっこいい……」
まだ、二凧は帰ってきていないので、代わりに紅音が服装の感想を言ってくれる。和服の着方は1ミリも知らないので、男性に服を着せる専門職の方に着せてもらった。普段は仕事がなく、女性の着付けなどをしているらしい。
自分でも普段着より和服の方が似合っているように感じるのは気のせいだろうか。普段着用のカジュアルな作務衣でも来て暮らしていこうか。
「和服はあまり着たことがなかったけど、なかなか良いものだね」
「ん……グッド……」
男性警護官の紅音がついてから、吉田さんたちの動きが変わっているのがわかる。なるべく、紅音を通じてこちらに話しかけるようにしているようだ。男性の会話先を絞ることで、信頼を得ていくのだろう。
そんなことを思いながら、読書をして待っていると二凧が帰ってくる。
「はぅかっこいいです」
「それはどうもありがとう。時間的にもまずいからそろそろいこうか」
二凧は最初にであったときと同様のアカデミックドレスで行くようだ。紅音は忍者の格好が制服らしいので、コスプレ集団のようである。
パーティ会場は都内にある建物のようで、私が来ると受付の女性が驚いたような顔をしていた。男性が来ることを想定した対応ではないように思える。やはり男性は来ない予定だったのだろうか。それともコスプレ集団に驚いた可能性もゼロではない。
パーティ会場は相当に気合が入っており、豪華絢爛という言葉を彷彿とさせる。早川君はどこにいるのかと思い、奥の貴賓席が並んでいるが椅子をみるが、ぱっと見早川君はいない。しかし一ヶ所にだけ女性が群がっているところがある。どうみてもあの場所に早川君がいることだろう。
「ん……おかしい……普通は男性を怖がらせないように1人ずつ行くのが礼儀……」
「はい、こんな形は聞いたことがないです」
紅音と二凧も察したのか、若干困惑した様子だ。
「なるほどね、早川君が何かしら巻き込まれてるのは確定かな」
司会なのだろうか、長身の女性が私たちの来訪を伝えると、女性たちの群れがさっと離れて、早川君の姿があらわになる。ピラニアの群れが犠牲者にまとわりつくような動きだな。
哀れな犠牲者役なのか、女性に囲まれて嬉しいのかわからないが、女性たちがいなくなると、目の下に隈を作った早川君がいる。
「招待どうも早川君、随分と疲れているようだけど何かあったかい?」
そう声をかけると、早川君の隣にいたドレスの女性、鴻池が声を上げる。
「これは学習院様、鴻池主催のパーティによく来てくださいましたわ。さあどうぞこちらにいらしてくださいませ」
そう鴻池が私を誘導しようとすると二凧が前に出る。珍しいことだ。
「お久しぶりです鴻池さん。この度は学習院さんのパートナーとして出席させていただきます。よろしくお願いします」
女性同士の儀礼的な部分はわからないが、表情を見て察するにどうやら、鴻池を牽制してくれたようだ。
早川君を見ると目にヘルプと書いてある。鴻池は流石に顔に慌てている様子は出てないが、まあ何かあったのは明白だろう。
「鴻池さんだったかな。少し早川君と2人で話したいんだが、いいかな?彼も疲れているようだ。男の同郷同士の語り合いの時間も必要だろう。なあ早川君?」
「はい!自分めっちゃその時間欲しいです!」
なるほど面倒ごとに巻き込まれてしまったのは確定だね。さあ、ここからは本腰を入れなくてはならない。
「なっ!おほん、パーティの主賓がおりませんと……」
少し慌てたような様子の鴻池。さて、日本男性なんてわきの甘い男性を利用しない方が珍しいのはよくわかっているよ。でも、それが大きな問題にならないとは限らないよね。
「おやおや、鴻池さんは男性の気持ちがわからないと見られるね。男性保護法に全て女性は男性の気持ちを慮る努力義務が書かれてあったと思うが、記憶違いだったかね」
大和国の法律には全ての男性という風に外国籍でも関係なく男性と書いてあるのが特徴だ。ちなみに、たいていどの国でもそうらしい。男性の移民自体が歓迎されるからだろうね。
「はい、男性保護法には確かにそう書いてあります。条文の成立過程として、数の少ない男性が自らの気持ちを発することは難しく、女性側が推し量ることでより完璧な保護を目指そうというものです。有名な条文ですね」
二凧がサラッと援護してくれる。本当に幅広い知識をお持ちだ。知識なら雑多に吸収していくその姿勢尊敬できる。
「おほん、こ、これは大変失礼いたしましたわ。どうぞ控え室をお使いくださいませ」
「学さん、ボクが場を繋いでおくので、ゆっくり話していてください」
妙に頼もしい二凧が鴻池を押し留める。事前に二凧と打ち合わせした時には、鴻池の相手をしてくれると言っていたので安心だ。普段、私の前だけか知らないが、どうにも初心なイメージが強く心配であったが、これが二凧の本来の姿なのだろう。自信がある表情をしている。
鴻池の渋い顔が印象的であるが、どこからか係のものがきて、早川君と一緒に控室に通された。紅音には護衛として、ついてきてもらうようにして、二凧にはボイスレコーダーを渡しておいた。ライターの時の仕事用具のものなので音質も十分だろう。録音自体は大和国にもあるので、最悪の場合、裁判での証拠能力があるだろう。裁判判例も読んでおきたいところだな。
「学習院さーん!きてくれてありがとうございました!もう死ぬかと思いましたよ!」
部屋に入ると、一気に元気になった早川君が歓喜余って手をぶんぶんと握ってくる。暑苦しいやつだね。
「それで、何があったんだい?時間はそんなにないよ」
「あっすいません。学習院さんは冷静ですね。えっと、なんかたくさん結婚させられちゃって、毎日そのセ、セックスをしてて、最初は良かったんですけど3日でだんだん疲れてきて、でもやめてくれなくて困ってたんです」
予想の範疇だろう。案の定、種馬となっている。まあ女性が好きで性欲があればこうなるのが自然か。この世界の男性が草食化していくのがわかる。早川君の悩みに今必要な知識はこれだ。
「まず、婚姻、結婚のことだね。日本で婚姻は男性側から簡単に破棄できるよ。そもそも、ホームステイ中は法的な婚姻ができないから、日本で言うと付き合うに近い感覚なんだよ。婚姻に同意すると男性側は新戸籍ができ、そこに婚姻者の女性名が連なっていく仕組みだね。でもホームステイ中は婚姻ができないから、婚約となって新戸籍ができない、つまりまだあくまで口約束だし、実際の民法上の婚姻も男性側からの一方的破棄ができる」
「え?えっと、ということはまだ結婚してないってことですか??もしかしてなんですけど騙されてますかね?」
早川君は騙されやすそうな顔をしている人懐こそうな青年だ。
「まあ、騙されているというか常識の違いを話さなかったんだろうね。たぶん婚姻と聞いたから早川君は日本の結婚と同じだと思ってけど、実は違ったというところかな」
「なんか、うわあやられたな。初日に薫子、あっ鴻池さんに誘われてホイホイヤッちゃいまして、そしたら婚姻しましょうと言われて、そりゃあやることやって結婚しようと言われたらしなきゃと思うじゃないですか。それで、次の日は家に別の女性たちが来て、めっちゃ好感度高くて告白されたんでオッケーしてハーレムだーって思って全員とヤッちゃったんです。そしたら何人とでもできるなんてすごいって言われて……」
あぁ早川君は顔も良いが、さらに手が早いタイプだったのか。男女比の歪さをあまり考えず、モテモテなことに喜んで手を出し続けてしまったということだろう。慎重に行動してほしいところだね。
「やらかしたね」
「はい、まだあるんですけど、ほら複数人とするとか夢じゃないですか、それに大和って美人ばっかりなんですよね。あれを断わる方が難しいと思うんですけど、それに鴻池さんから大和の未来のために多くの女性を幸せにしてくださいって言われて、これはやってやらないと思ったんですけど、やっぱり体力が無理で……学習院さんは知ってるかわからないんですけど、ハーレム物っていう物語があるんですけど、あれって男性が絶倫なんですね。絶倫じゃないと楽しむのは無理ということがわかりました。助けてください!」
あまりにも欲望に忠実で愚かである。とはいえ種の存続という意味では彼のやり方は間違ってはいない。実際早川君のような人間がこの世界において必要であるのは間違いない。要するに人数が多すぎて無理だっただけであって、男性側が主導権を取れば良いだけのことだ。
「知ってるかはわからないけど、男性との性行為は値段が高いらしいよ。高額な値段にして主導権とってしまえばどう?」
「あーでもなんかお金もらってヤルのってなんか売春みたいな感じでいやじゃないですか」
そこは愛を求めるのか。まあこの男女比ならビジネス的な性行為も悪くはないと思うんだけどね。
「なら、一旦、婚姻関係を白紙にして、性行為を断ろうか。男性側が強く言ったら向こうは弱いからね。実際的な立場が弱い分、法的な立場は強くなっているからね。あと電話はどうしたの?最悪日本大使館に電話をすれば助けてもらえると思うんだけど」
「うげやっぱりそれしかないのか、一緒に行ってもらえませんか、学習院さん。電話なんですけどちょうど壊れちゃって、元々物をすぐ落とすんですけど、つい落としてお亡くなりになりました」
あとは鴻池家が金で早川君を売ってなければいいけどね。大和だと男性の同意なしの金銭的なやり取りのある性行為はかなり重い罪になる。
「わかった、それでいこうか。家に普通の電話があるでしょ。電話番号渡しておくからこれで何かあったら電話して」
「うぅぅ学習院さんありがとうございます」
「ほらいこうか。さっさといってこのパーティを終わりにしよう。もうすぐ手を出さないようにするんだよ」
「はい……流石に懲りました。もうしばらくは良いです」
同じ日本男性のよしみなので同じ轍を踏まないのであれば、そのぐらいは許容範囲である。
「そういえばパーティの招待状はどうやってだしたの?」
「あぁあれは知ってる男性でホームステイ先があの戦国大名の長宗我部家って覚えてたんでパーティをするって言った時に、絶対に読んでと頼みました。そうしたらやけにあっさりオッケーされたんですけどなんだったんですかね」
たしかに、二凧の身長を侮ったから、苗字の知名度の差を利用した気がするね。鴻池としては、ギリギリなので来ないだろうと踏んだわけか。それにしても、詰めが甘いと言わざるを得ない。
「たぶん届いたのがギリギリだったからかな。普通ギリギリに送られた招待状には来ないらしいよ」
「うげえ、よかったきてくれて、学習院さんは恩人だよ」
「はいはい、さっさと終わらせようか」
案の定、こうしたことは起こったわけであるし、私の警戒も間違いではなかったわけだ。早めに守りに入る必要があるね。男性側が力をつけないと、心配である。
大和での鴻池は江戸時代から続く大きめの財閥です。大阪商人ですね。