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貞操逆転パラレル日本の比較文化記  作者: バンビロコン
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小学校見学

 紺野先生とお話しながら歩いていると、4年生の教室にたどり着く。教室には5人の男の子と25人の女の子がいた。30人学級で1:5の男女比である。大和全体で1:33であることを考えると相当抑えられているといえるだろう。子どもたちは、よく訓練されているのか静かに座っている。知らない人が来ると喜んで後ろを向く人がいるのは普通のことだが、彼らは慣れているのかもしれない。


 教室の後ろが通常よりも広めに空いており、子ども同士の距離も広めにとってある。見学ができるようになっているのだろう。こそこそと、小さな声で校長に話しかける。

 

「男女比を1:5にしているんですね」

「はい、共学の最大の目的は男の子に同学年の女の子を知ってもらい、慣れてもらうことですから。男女比を抑えめにしてあります」


 校長先生がそう答えると紺野教諭が補足をしてくれる。

「僕らの学校では、1学年が3クラスなので、1学年でだいたい男の子は15人ぐらいなんだよね。体育や性教育の授業では男子は学年合同の授業になるんだよ」


 6学年で男の子が約90人ということか、そして性教育が授業に入っているようだ。日本だと保健体育の中にちょこっと入っているだけだが、この世界においては重要度が高いのだろう。

「なるほど、性教育はわかりますが、体育も男女違うものをやるのですか?」

「そうだね。男子体育は体を動かし楽しむことがメインで、スポーツで競い合ったり、鉄棒やとび箱ができるということは目標にされてないんだ。こうした男女の体育の目的と内容が違う上に女子と同じだと肉体的な接触も増えてしまう。子ども同士とはいえ、苦手意識はそうしたところからついていく。だから分けているんだ」


 なるほどと思っていると、チャイムが鳴って授業が始まるようだ。

 休み時間の最中なのに静かにさせて悪かったね。


「本日は後ろに日本から来られたお客さんがいます。が、いつも通り授業をしていきましょう」


 30代ぐらいだろうか。ベテランの風格がある女性の先生だ。もっとも大和国の女性は若く見えるのでたぶん40代だと思われる。子どもたちの中に後ろをみて、男の先生や私がいることに驚いている子もいるが、すぐに前を向く。随分、統率がとられているようだ。

「今日はね。いつも通り班活動で、じゃんこれを触ってもらいます」


 そう言って三角や四角、ケーキが1人分だけ切られた丸などの平面を用意する。算数の角度の授業かな。

 そこから、授業は角度を触っていき先っぽのことを角度という名前だと気づかせる。

 そして、90より大きい角度180より大きい角度と気づかせていくのが狙いだろう。最後に分度器ではかって部屋の色々なものを測ろうと言った具合にながしている。


 授業よりも、男の子が班の中に入って女の子に甲斐甲斐しく世話をされているところがポイントかな。授業そのものより男の子が女の子になれるというのを重視している気もする。また女の子は男の子の世話するというのを刷り込んでいるようにも思える。いわゆる隠れたカリキュラムというやつだろう。


 校長に歩いて見ていいかと聞いたらオッケーがもらえたので、子どもたちのグループに近づいていく。グループ内の動きを見てみると、4人グループで、リーダーらしき子がうまく回しつつ男の子の隣にいる子が介護担当のように付きっきりで男の子に教えて、ラストの子はバランサーとしてどっちもフォローをしている。

 グループ内で役割分担がされており、既に動きが完成されている。小学四年生ってここまでできるようになるのか。


「グループの練度が素晴らしく高いですね。他のクラスもこれぐらいできるのですか?」

「えぇこのぐらいと言いたいところですが、田中先生の腕前です」


 このクラスの担任の先生は田中先生というらしい。わざわざこの授業を見学したということは、この先生は学校的にはできる先生という評価なのだろう。


 あっという間に授業が終わり、子どもたちもそわそわしていたので、「見学ありがとうございます」とにこやかに挨拶をして外に出る。どうぞ校長室の方へということで、校長室の方までやってきた。紺野先生は次に授業があるそうなので分かれている。また、何かあったら連絡しよう。


「学習院さんどうでしたか、見学は」

 

 今回の見学のポイントとしては、教育基本法には書いてなかったが、男子は女子慣れる、女子は男子を保護する方法を身につけるというのが実際の教育目標としてあるとわかったところかな。

「一つ一つの声掛けも的確に感じましたし、男の子が女の子になれている印象も受けましたね」

「そうですそうです。男の子の女性慣れは教育では大きな目標です。ところで、随分と教育にお詳しいですね。日本で教育に携わったことがおありで?」

「そうですね。教員ではないのですけど、日本の教員免許を持っていまして」

「え?」「な?」


 侯爵が口を開けている。そういえば侯爵に言ってなかったか。日本だと教員養成大学に通っているということは教員免許を持っていると同義なので忘れていた。てっきり侯爵はしった上でホームステイをしていると思っていたが、どうやら違ったようだ。

「日本国が大盤振る舞いの人財を出したということがわかった。教えてくれればもっと配慮したんだが……」


 てっきり文部大臣のところにホームステイになったのはそういう配慮だと思っていた。そして、これ以上の配慮いらないからね。

「そういえば、言ってませんでしたね。日本だと、通っている大学で確実に教員免許をとっていると言えるのでわかっているものだと思っていました。小学校の見学を希望したのも、教育関係者でしたので大和国の教育が気になってました」

「それはそれは、ということは教壇にも立たれたことがおありで?」


 校長が何かをしてもらおうと言う顔で近づいてくる。めちゃくちゃなことを言わなければ別に構わないが面倒なら避けるとしよう。

「教育実習にはいっていたので、立ったことはありますが、教員経験はないのでほぼ素人ですね」


 日本の教員の労働条件が良くないので選ばなかっただけだが、知識の伝達という意味では良い仕事だと思う。

「よろしければ、後日、子どもたちより日本人男性に質問する機会などを設けられたら子どもたちの主体的に学習をするという大きなモチベーションになると思いまして、事前に質問表を送りますので、答えてもらうといった特別授業をやっていただいたりとかできませんか?」


 ふむ、悪くはないが、無償でやるのもな。一月で帰るかもしれないわけだし。チラッと侯爵を見ると、難しそうな顔をしている。

「侯爵はどう思います?」

「男性の活動として良いものだとは思うが、無償ではやらせられんな」


 侯爵も有償であればということらしい。しかし相場がわからないな。大抵学校というのは予算を持っているが、外部の講師にはそこまで払えないはずだ。いや国立小学校ならそんなことはないのか?

「そうですね。有償なら良いですけど、相場はどんなものなんですか?」

「男性の授業で女性ありの日本人教員免許持ちだろう。どんなに低くしても最低10万からだな」

 

 なかなかだな。しかし、おそらく教室での授業を想定かな。40分授業で10万か、どう予算を捻出するのかわからないが、一応後から来る日本人男性のためにもう少しあげておくか。

「もう一声あれば考えますね」

「20万でどうでしょう。特別活動の研究授業という名目で申請すればいけますよね文部大臣」

「前代未聞すぎてわからんが、そのぐらいなら軽く降りるだろうな」


 良いんだ……大丈夫かこの国……金というのはあるところにはあるものだろう。逆にあまり高くすると、不正なお金で支払われても困るし、研究費で降ろすといっているなら問題ないだろう。

「20万ならいいですよ。先生の見学も必要だと思いますからおかしくない範囲ならいいですよ」

「授業の録画はどうだろうか」


 まあ1授業20万を考えると法外だな。怪しいコンプラ講座の稼ぎ方みたいになっているが、文句はない。どちらにせよ稼ぎは欲しかったからね。

 もっとも、一般女性から日本のこと教えますよで集めたら集金できそうだけどね。

「論文作成や授業研究のために使うためあればもちろん良いですよ」

「ありがとうございます」


 教育のためというのは良い理由だからね。教育理論的には男性保護が強くなっていて、日本とは食い違っていそうだ。そういう意味では、研究要素もあることだろう。


 そこから、校長と細かい内容を決めつつ、日程まで決めてしまった。2週間後だそうだ。来週には質問表を送るとのこと。さいですか、というより先生への確認はいいのでしょうかね。

 校内放送で呼ばれてきた、田中先生はどんとこいと言った様子だ。何かあったら子どもを誘導しますからとのこと。実に優秀な先生だね。


 日本にはたくさん優秀な先生いるが、なぜか大和での初めての授業を私がやるという。謎のプレッシャーである。しかし、私が日本の敷居を下げておくことによって後から来た日本人男性に花を持たせるということもできるわけだ。

 特に教員とか働き方がどブラックなので……


 紺野教諭の言っていた、グレートなティーチャーの漫画探して見ないとな。


 話しあいは終わり、ちょうど休み時間の子どもたちにも挨拶をしてみたが、元気よく「こんには!」と返ってくる。やはり小学生は良いな。大人と話していると、何か嵌め手で来るのではないかと考えないといけないから疲れる。

 子どもたちは男性に興味津々ではあるが、だからといって近づいてきたりはしない。随分と理性的であると感じる。こうして小学校見学は幕を閉じた。


ーーーー

 しかし、実に面白い1日であった。二凧に夕食時話したら質問返しをすることに驚かれたが、まあ大した問題ではない。教室で行うといっても授業ではなく、質問返しだ。講演会に近い内容だろう。

 ある程度パフォーマンスだけ考えておけば良い。大和国的には男性が前に立って話すことが珍しいというのが1番なんだろうからね。

 

 実際大和国で男性が前に立つことはほぼない。部屋でテレビを見てもごく稀に男性がいるかどうかといったところだ。どうも有名な男性が1人いるっぽいね。大仏様みたいな顔のぽちゃりした温和そうな男性がコメンテーターの隣でニコニコしている。ちなみに声は発しない。完全に癒し枠として置かれているのがわかる。日本のトップユーチューバーに顔が似ているね。それにしても、こういう出演もあるのかと思うと考えさせられるものがあるね。


「あっ、紅音呼ばないと、今日の分の撫でるの忘れてた」

「ん……呼ばれるの待ってた……」


 びっくりした。紅音の部屋をこの前の話し合いのあと、隣の部屋にしてもらったのである。声を掛けたらすぐに来てくれるとのことであったが、音を聞いて扉のところに現れたようだ。

「隣の部屋から声をかけてくれればよかったのに」

「ん……男性の部屋は防音……声聞こえない……」


 じゃあなんで紅音は聞こえてるのだろうか。

「ふ……鍛え方が違う……」

 まあ良いが、報酬のなでなでは大切だな。しかし紅音は、撫でられ方が上手いのだ。頭をたまに動かしていい位置に移動するのが妙に上手い。


「撫でやすいね。撫でられる練習があったりとか?」

「ん……流石にない……」


 単純にセンスということか。撫でられるセンスとはなんだろうか。

「気になってるんだけど、紅音を部屋に入れているわけだけど、二凧が怒ったりとかしない?」

「ん……男性警護官が信頼を受けて部屋に入れてもらえるのはよくあること……専門職として守るだけでなく男性の気持ちを聞いて伝えたりすることもある……華族は訓練を受けていることが多いけど二凧様受けてないからたぶん間に男性警護官を通したかったんだと思う……」


 いや本当にこういう細かいことは文化の違いが大きいね。なるほど、男性警護官で信任が厚いと、男性警護官を通じて話を通したりするのか。以前言っていた婚姻関係とかも男性警護官に聞いたりするだろうね。


 実際お見合いなんかであうときも2人きりではなく、男性警護官にもついてもらえるわけだし、ある程度信用していれば、「あの人どう思う?」ぐらいは聞くだろうね。二凧は自分で話すと専門的な話はともかくドジっ子になってしまうから今は紅音を通じて会話しようという考えというわけか。たぶん、侯爵の入れ知恵だろう。


「なるほど、私が勘違いしていただけなんだけど、今の話を聞くに男性警護官はかなり男性にとって助かるね。国家公務員の男性警護官と民間の男性警護官は役割が違うと考えた方がいいのかな。実際に住み込みでバランサーとして働くのが民間というわけね」

「ん……華族がプレゼントとして民間男性警護官を使うのは……親密になって間をとりなって欲しいという思いがある……まあこんな早く部屋に入れてもらえるのは普通ない……」


 なるほどこの話を聞くと、男性警護官と華族の利害関係が見えてくる。専門職として男性の信頼を得ることに特化しているわけだ。そして、男性の要望を吸い出したり逆に女性側の要望を柔らかく伝えたりすると。代弁者的な役割や潤滑油としての役割があるわけだ。


 そうすると男性警護官のメリットとしては超希少である男性と婚姻までいけるかもしれないし、華族としても間にうまいことはいってくれて顔繋ぎなんかもしてくれるってわけだ。男性警護官は華族が雇い主であるわけだし、こう思っているとかは伝えるだろう。なお、男性警護官がお金に流されると華族側につきやすい立ち位置だね。


「非常に上手い仕組みだ。たしかに必要な役割だね。それこそ華族に金を握らせれてというのも良くありそうなものだけど」

「ん……そういうのは男性警護官の信頼に関わるからまずもらわない……しかも今回は男性から報酬もらってる……これで金を受け取ったら紅音は終わり……」


 そういう意味では、男性からの報酬制は正しいように思えるね。

「なるほどね。無報酬であなたのためにというのは、日本ではあまり信用できる言葉ではないからね。実際に私としても警戒をしてたし、今もあんまり頭を撫でるというのが報酬になるというのも日本ではないことだから何とも言えないけど……しかし、顔を見てたらこれが報酬になっているということはわかる」

「ん……紅音もらいすぎ……」


 頭に手を置くのが癖になりそうだ。しかし、いけない。欲望のままに動いてはいけない。欲望というのは常にコントロールされた先になくてはならない。


「紅音が味方をしてくれるのであればやれることはいくらでもあるからね。実にありがたい」

「ん……紅音も最高の仕事をしてる……やりがいMAX……」


 やりがい搾取じゃないかと思うが、まあ男女比がイカれている社会だ。私の価値観で決めてはいけないし、本人が幸せなら良いのではなかろうか。

「そういえば、以前男性警護官は婚姻率が高いと言ってたけど、婚姻したい人が集まっていると我慢は難しいんじゃないの?」

「ん……それに関しては恐ろしい訓練で克服される……もう絶対やりたくない……だから男性に尽くす覚悟がある人だけが残る……」


 何かを思い出したのか顔が青ざめている。怖いね。聞きたくもないな。

「相手に信頼されるまで永遠と耐える覚悟があるというわけか」

「ん……婚姻というのは関係の一つ……信頼の結果の一つの形にすぎない……故に忍びたちは自ら告白することはない……」


 たしかに、覚悟決まってしまわれていますね。忍者が相応の訓練を積んでいて、単に婚姻したいから来ましたみたいな人は脱落するので少ないということはわかった。


 少しだけ紅音のことがわかったような気がして、こうして今日もまた夜が更けていく。

大和国でも教員に残業代はつきません。4%の調整額だけです

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