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貞操逆転パラレル日本の比較文化記  作者: バンビロコン
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出港

 2020年、日本全土で震度4を記録するという不可思議な現象が起きた。それは沖縄から北海道までどこでも震度4程度の揺れが発生した。あまりの怪異に日本そのものがゆれたのではないかと思われるほどであった。幸いなことに世界で有数の地震大国であったため、耐震基準も高く、人的被害はなかったものの、脆い塀が崩れたり、商品が落ちたりと物質的な被害は多数でた。


 しかし、問題はそれではなかった。突如としてインターネットや電話が使えなくなったのである。これには地震大国の日本人も阿鼻叫喚である。昨今インターネットにお株を奪われ、嫌われはじめたオールドメディアであるテレビや、一部の人には人気のラジオは使えたので、オールドメディアも少しだけ見直されることになったとかなかったとか。


 しかし、驚いたのはそのあとである。5時間ほどたつと電話が復旧し始め家族が連絡を取り合えるなど、安堵した声が上がった。しかし政府は緊急記者会見を開き、予想だにしていない驚くべき発表をした。


「我が国は、現在未曾有の災害に見舞われ、政府としても迅速に対応している最中でありますが、非常に珍妙な事件が発生しております。えぇ……このようなことがなぜ起こったのかは専門家と協議している最中でございますが、衛星からの映像がですね。こちらとなります。はい、ふざけているわけではありません。作り物でもございません」


 テレビにはぱっとしない地味な官房長官が緊張気味に写っている。そして彼は衛星写真のように見える大きなパネルを一つ手に持っていた。彼は指をさし意を決したようにこう言った。


「日本列島が2つございます」


 日本中で、は?という声がした。


 そこには、なぜか日本列島の隣に日本列島があるという不可思議な光景があった。出来の悪いコラ画像でもこうはならないだろう。そう思えるほどであった。


 それから数日たって、インターネットは復旧したものの、他の国との連絡が全くとれない状態となった。海外にサーバーがあったものの中には使えなくなったものも多い。それもそのはず、世界の国々がなくなっていたからだ。

 なくなっていたというのは、日本中心の視点すぎる。客観的にとらえるのであれば、世界の国々が別の国となっていた。端的に言えばあれば、日本は国ごと異なる世界に転移したのである。

 


 そして数か月後、私はもう1つの日本行きの船に乗っていた。


 私は、学習院学(がくしゅういんまなぶ)、名前からしてさぞかし勉強ができると思うだろう。たしかにできないわけではないし、勉強は嫌いではない、むしろ新しいことを知ることは好きだ。周りからみると勉強好きといってもいいだろう。実際に知識をいかした仕事に就こうとした結果今の職業は、フリーライターである。


 学者にならないのかとよく言われたが、私はなれなかった。理由は勉強は好きでも、研究が得意ではなかったからである。知ったことをまとめるのは得意だ。まとめてわかりやすく発信する。知識の普及は好きである。もっと積極的な働き方もあったのかもしれないが、如何せん大学院での失敗が尾を引いているのだろう。煩わしい人間関係から離れてのんびりと山籠もりをして日銭を稼いでいた。


 そんなさなかに、日本が移転という有史以来最大の事件である。政府は、国策として平行世界の日本との同盟を目指していた。その第一弾として、全く同じ形をした違う日本へホームステイし、文化の違いを学び取る人員を募集した。


 既に国交は樹立したようで、双方の文化の違いを理解するための勉強といったところだろうか。使節団は別に送ってあるようだが、パラレル日本へ未婚の男性がホームステイすることを日本政府は決定したのである。

 

 曰く、友好関係を結ぶにあたり、文化の些細な違いを感じ取るには一般国民に住んでもらうのが良いとのことだ。旅費は全部持ってくれるらしいし、滞在費もパラレル日本持ちとのことだ。手ぶらでもいいらしいがさすがにまずいので、旅行用品をしっかりまとめてきた。


 政府はジャパンドリームなどといって先は明るいことをアピールし始めている。長年低迷していた日本経済であるが、この異世界転移をチャンスと捉えている人もいるのだろう。


 結構人が殺到するかと思ったら、思っていたよりも来なかったようだ。一般的な会社員であれば仕事を1か月も休むのは普通無理であるからな。ということで自由業(ニートも含む)ばかりが1000人ほど船に乗船している。


 気分はブラジルに移民していった戦前の日本人である。夢を追いに行って奴隷のような扱いをされていたらしいブラジルへの移民たちであるが、今回私たちも同じである。もしかしたらもう帰れないかもしれないし、同じ日本であるから名をあげることができるかもしれない、まさにチャレンジャーである。私は、人間関係の煩わしさから逃げ出した身ではあるが、ワクワクが止まらない。まだ何かにかけようという気持ちが残っていたのか、それとも自暴自棄になってしまったのか、はたまたその両方だろう。

 

 それにしても、実際に応募条件や相手国の対応を考えると、募集に適合したのが、自由人(ニートを含む)の男ばかり、しかも未婚のものというのも非常に気になるところだ。政府が意図的にしたのであろう。年代こそ20代から40代ぐらいまでいるが、どれも金はないが自由が好きみたいな顔をしている。船の中で空気を読まずギター弾いている輩もいる。他に荷物らしい荷物をもっていないことから、ギターだけを持ってきたのかもしれない……


「こんにちは、お兄さんどこから来られたんですか?」


 声をかけられたので前をみると、長身のせわしなさそうな顔をしている男がいた。まだ大学生ぐらいだろうか。

「愛知からだね。君は?」

「あっ自分も愛知からです!よろしくお願いします!早川颯人(はやかわはやと)といいます」

「はやかわはやとか、早そうな名前だね。私は、学習院学だよ」

「いやあ自分よくそう言われるんですよ。学習院さんも勉強がすごくできそうな名前ですね」


 非常によく言われる第一印象だ。名字と似合う名前ですねや、漢字はどう書かれるんですかも非常に多い。そういう意味では、早川君も似た名前の付け方をされたのだろう。シンパシーを感じる。

「よく言われるよ。それで早川さんはなんでパラレル日本に?」

「いや、自分なんか色々学生団体とかやってきたんですけど、卒業したらこうなんかうまく社会で自分の力を活かせなくて……心機一転新しいところで何かできないかなって、学習院さんはどうしてパラレル日本に行くんですか?」

 

 勢いと熱意が高いタイプの人だな。いわゆる意識高い系というやつだろうか。長らく続く不況から世代間の感覚の差は大きい。とりあえずよい大学に行って、良い仕事に就きなさい。という親世代の価値観というのは通用しなくなっている。というのも、終身雇用制や年功序列の崩壊ないし緩和、さらには結婚観がするべきものから、選択肢の一つへと格下げされたことが大きいのだろう。


 こうした、世代間の常識ギャップから子ども世代は未来に不安になるものの、ではどうしたら良いのかという答えは出てくるわけではないし、出てきたとしたら詐欺のようなものだろう。彼もそうしたことに悩んだ人生を送っているのだろう。何を目標にして生きるのかを自分で決めないといけない時代だともいえる。


「いやあ偉いね。まあwebライターだったんだけど人生が暇になってね。まあ新しい世界になったといっても過言でないわけだから、それはどんなところか知りたいよね」

「学習院さんすごいですね。やっぱり頭いいんですね」

 

 頭いいんですねという質問って返答が難しいよね。まあその質問をする人よりは良いとは思うけど、悪いよとも良いよとも答えにくい。

「まあ、学歴やIQや知識量は平均よりは上だとは思うけど、知識っていうのはどう使うかにあるし、私が知らないことを早川君が知っていることもあるから、頭が良いというのは一概に答えにくい話だね」

「わー回答が頭良い回答ですね。そうだ知っていますか?パラレル日本って女性の割合が多いとかなんとか」

 

 パラレル日本の男女比率は1:33.4であるというネタがネットに流れていたが、当然数字的に噓だろうとされたいた。おそらくパラレル日本の使節団が全て女性の外交官であったことからのネタだろうと思われる。女性の権力が強いということは間違いないようで、女尊男卑のような国なのではないかという推測をしている者もいるようだ。最も現状、国内でしかインターネットが使えないこともあり、それ以上の情報はまだ出回ってない。

「ネットの誤情報じゃないのかな?」

「自分もそうだと思ってたんですけど、なんか他の人と話したら、外交官がそんなことを漏らしてたって」


 たしかこの船にも日本の外交官が乗っていたはずだ。たしかに外交官であれば相手国の実情も当然知っているはずなため、誰かと話しているところを聞いたのであれば信憑性も高いと考えられる。

「なるほど、早川君はあれだね。人と話すのが得意なんだね。みんなと話しているのかな?」

「いや、この船にのっている人面白そうな人が多いですし、やっぱ夢がある人って夢がありますよね」

「二重の言い回しなってるけど」


 真面目な顔をしているのでボケているのか、真剣なのかが分かりづらい。しかし、悪い人間ではないと感じさせる何かがあるタイプだろう。騙されやすそうでもある。

「あっ本当だ。いやあ自分日本語苦手なんですね」

「別言語が得意なのかな?」

「いや日本語しか話せないんですけど」


 日本語が外国語なのかと思ったらそうではないようだ。ということは、素で言っているわけであり随分と愉快な人であるとわかる。全く、どんな人が乗っているのかと思ったら、変人を集めて乗せたのだろうか。外国語という意味では、今の日本に外国籍のものはいない。日本国籍の人物以外、あの地震後消失してしまっている。逆に海外旅行をしていた日本人は気づいたら日本にいたらしい。もちろん原因は不明だ。ネットの考察では、これに関して日本という土地ではなく、概念が転移してきたと言っている考察もあり、非常に納得した覚えがある。

「君、面白いね。この先何があるかわからない連絡先交換しておこうか」

「あっじゃあカインでお願いします。何かあったら連絡しますね。助け合いましょう!」


 連絡を交換すると彼は、ほかの人物にも話しかけに行っていた。連絡先を用意したかったのだろう。

 たしかに、突然単身で異国に行くとなると、不安になるのも当たり前である。あたりを見渡してみるとバックパッカー風の男性や登山にでも行くのかと思われるような男性もいる。


 海外に行くことに慣れているものが多いのだろう。中には不安げな表情のものもいるが、少なくとも海を見るために甲板に出ているような人物には乗り気な人が多いようだ。日本政府が言うように異文化を知って発信したいという意味では、良いチョイスなのかもしれない。


 最も、文化や伝統、常識の違いから大きなトラブルになる可能性も高く、私たちの命にも危険はあるだろうが、不思議なことに、政府の募集要項とその後の説明会で一切そうした説明がなかったのが気にかかるところである。パラレル日本で犯罪を犯してしまった場合はという質問に対しても、「治外法権が認められていますので、日本で対処されます。ただし、我が国で違法であっても相手国で合法であった場合はその限りではありません」とのこと。


 随分と含みをもった言い回しであったので、おそらく、日本で違法だがパラレル日本では合法の法律があるのだろう。しかし、それらを言わないというのも不思議なところだ。


 思うに、パラレル日本は何かしらの要求を日本政府に出したのだろう。日本政府としても安全保障を同盟国であるアメリカを前提として考えていたため、安全保障上のパートナーをすぐさま見つける必要がある。


 パラレルといっても言語を同じとする民族であることはわかっているのだから、パラレル日本を通じてこの世界でイニシアティブを握っていこうとするのは外交戦略として当然となる。そのため、パラレル日本の要求は断れなかったのだろう。女性の方が数が多いというのも本当かもしれない。そうであれば、男性のホームステイというものに価値がある。となると、かなり大きな文化の差がありそうだ。


 世界一大きい海を眺めながら、思考の海を漂っていると目的地まではあっという間であった。


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