マッチョ・芥川龍之介
マッチョ・芥川龍之介
ある雨の中、私は森のマラソンコースを必死に走っていた。森の奥にいるかの有名なマッチョさんに【真のマッチョ】とは何かを尋ねるためだッッッ! なぜなら私は筋トレの指針を欲しているからだッッッ!!!!! 日々なんとなくダンベルとプロテインで軽い筋トレをしているが、筋トレの先の未来が見えずにどうも具体的な目標が持てず困っているッッッ。そこでマッチョさんのウワサを聞いたのだッッッ。曰く「肩にジープを乗せている」「背中に富士山を背負っている」などという人間離れしたウワサだが、彼なら筋トレの果てを見せてくれる気がしたのだッッッ。【真のマッチョ】を見せてもらい、筋トレの勇気をもらえれば幸い、ゲホゲホ、ゲホゲホゲホ、ぜえぜえ、あああああ、もうダメ、持久力が、持たないいいいいいいいいいいいいううううううううううううううううごごごごごごごごごごふぉごっごふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉおふぉふぉふぉふぉおふぉふぉおっふぉおふぉふぉおf……
ここでマラソン中断
「た、助けてマッチョさん」
やばい。森の中で一人迷子になって死んでしまう。誰か助けてー
「マーッチョマッチョマッチョマッチョ。助けを呼ぶのはお前かー!」
圧倒的なゴールドマッチョ
眩しい
圧倒的な黄金比
背中に太陽を背負っている
「そおい」
ぐわん
天地がひっくり返った
私はお米様だっこをされて
なにかとてつもない加速度で
ぶん回されて、意識を失った
〜〜〜〜〜〜〜〜
「ようこそゴールドマンジムへ」ᕙ( ˙-˙ )ᕗ
パワー系ボイスで目を覚ます
開眼一面、あの黄金ボディ。
ああ、マッチョさんのウワサは本当だったんだ。
「あなたがマッチョさんですか?」
「私がマッチョさんだ」ᕙ( ˙-˙ )ᕗ
「真のマッチョを見に来ました」
「ふっふっふ。では誘おう、筋トレの最果てへ」ᕙ( ˙-˙ )ᕗ
不意に、マッチョさんは右手を真横へ薙ぎ払う。
風圧!
空気がねじれ、大嵐が発生し、
ジムの壁がひしゃげて飛んで
あの空の彼方へくるくるくる〜✨
「す、すごい。これが真のマッチョ……」
「どうだね。気に入ってくれたかね」ᕙ( ˙-˙ )ᕗ
「素晴らしいです。あたなに会えてよかった」
「はっはっは。そうだろうそうだろう。筋肉とは素晴らしいものマッチョ」ᕙ( ˙-˙ )ᕗ
私がキリストに拝む姿勢をすると
マッチョさんもノリノリで
十字架マッスルを表現してくれた
「グリコ」ᕙ( ˙-˙ )ᕗ
さて一通り、プロテインを飲み干した私は、ふと筋肉の高揚感からこんな質問をした。
「マッチョさん。どのような筋トレをすればあなたみたいになれますか?」
「むむむ? それは難しいな……」ᕙ( ˙-˙ )ᕗ
マッチョさんが考える人のポーズ
あんなに爆笑していたマッチョさんが
真面目なストレートフェイス(真顔)になっている。
「これはハッサンという武道家に教わったことだが、【真のマッチョ】は夢と現実両方で筋トレしなければならない」ᕙ( ˙-˙ )ᕗ
「夢と現実ですか?」
「そうだ。夢と現実だ。そのための専用トレーニングを積んで私はムキムキになったのだ」ᕙ( ˙-˙ )ᕗ
「おおー」
「教えることは簡単だ。だが、キミが耐えられる保証はないぞ」ᕦ(ò_óˇ)ᕤ
「やりますやります。ぜひ教えてください」
「よぉぉぉし、よく言った」ᕦ(ò_óˇ)ᕤ
こうして想像を絶するトレーニングが始まった。
〜〜〜〜〜〜〜〜
10年後、私はシルバーマッチョになっていた。
「卒業おめでとう。今日からキミはマッチョだ」ᕙ( ˙-˙ )ᕗ
「今までお世話になりました!」
私はジムを経営することにした。
自分が経験した筋トレの中で
重要だと思う部分をかいつまんで
広く一般に広告したいと思ったのだ。
たくさんの、子どもたちと若い女性がやってきた。
私は自分のトレーニングを広めた
みんな笑顔で着いてきた。
幸せだった。
ところがある日、事件が起きた。
教え子におそろしいレズビアンが混ざっていた!
私の気づかないうちに
恐怖のレズビアンさんは
ジムの少女たちを魅了して
百合ハーレムを作りやがったのだ!
「えっちな事はいけないと思うぞ」
「じゃあ私と勝負してください」
「いいだろう。うけて立とう」
負けた。
腹パンで負けた。
「じゃああなたの彼女に手を出しますね」
「やめろぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
彼女を寝取られた。
そしてジムを乗っ取られた。
私は絶望した。
「そこのあなた、いい話があります」
「ドーピングなんてしないったらしない」
粘着質な詐欺師にまとわりつかれた。
明らかにドーピング薬を勧めてくる。
最初は毅然と断ったが
詐欺師は言葉巧みに言いくるめ
「いいですか。ドーピングは最適解なのです。多少のリスクで彼女を取り戻し、理想のジムを取り戻すことができるのです。未来のために今、リスクを負うのです」
「あ……」
この瞬間、私の中で、ドーピングが、正義の手段になった。
私は観念して、薬を口に含んだ。
「う、うおおおおおおお! 力が、力がわいて来るゥゥゥゥゥゥ!!!!!」
筋肉が、肥大化した。
「さあさあもういっぱい」
「うぬ。ムシャッ、ぐうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
ウワハハハハハハ
力こそパワー!
なぜ今まで気づかなかった
力だ。
力こそ筋肉
これだ
これこそが【真のマッチョ】だァ!
「すごい、すごい、ドーピング」
「すごい、すごい、ドーピング」
「すごい、すごい、ドーピング」
「すごい、すごい、ドーピング」
ワハハ
ワハハハ
ワーッハッハッハ
「バカヤロー!」
べシーン 正体不明のビンタ
「ほげえええええええええ!?」
すると、今まで見た夢の内容が、みるみる霧散していく。
詐欺師も、レズビアンさんも、そして私の筋肉も。
目を覚ますと、私はプロテインを飲まされていた。
「ゲホゲホ」
「おはようダブルバイセップス」ᕙ( ˙-˙ )ᕗ
私はひどく赤面した。
自分の未熟で醜悪な部分を嫌でも自覚せざるを得ず、穴を掘りたい気分になった。
〜〜〜〜〜〜〜〜
10分後
「そして、どうだったかね、現実よりおそろしい夢は」ᕙ( ˙-˙ )ᕗ
「【真のマッチョ】は果てしなく遠いと悟りました。私程度の精神力では夢で筋トレすることすらできませんでした」
「そうかそうか。ところでお前の目の前に、ダンベルとプロテインがあるだろう」ᕙ( ˙-˙ )ᕗ
「はい」
「それをお前にタダでやろう。自由に筋トレするがいい」ᕙ( ˙-˙ )ᕗ
「ああ……」
私はダンベルを持ったがその手は弱々しく、すぐにダンベルは手から滑り落ちてしまった。
「だめです。今の私にダンベルを振る資格はありません」
「本当に?」ᕦ(ò_óˇ)ᕤ
「本当です」
「本当に本当に?」ᕦ(ò_óˇ)ᕤ
「本当に本当です」
「そうですか……」(´・ω・`)
マッチョさんは残念そうにダンベルを片付けて、私に鳥のササミ定食をふるまってくれた。
なぜかたまらなくおいしかった。
夢で疲労していた私は現実の食事で回復したようだ。
そしてマッチョさんが延々とフルスクワットをしているので、私はおいとまさせてもらった。
私を見送るマッチョさんはサイドチェストのポーズをしていた。
街に戻った私は迷わずダンベルを売り払った。
───────完───────