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74話

 


 僕の家には地下室がある。多分、昔は物置かなにかで使っていた部屋なんだろうけど、今ではすっかりお父さんのギターを弾く場所になっていた。


 壁と扉に防音対策を施し、外へ音が漏れることは無い。なので僕は最初の頃お父さんが地下室で何をしているのか知らなかった。


 知ったのは、小学生になってすぐくらいで深宙ちゃんと出会う数ヶ月前。たまたま開いていた地下室に入ると、そこでは真夜中の演奏会が開かれていた。


 お母さんが歌い、お父さんが弾く。二人の演奏は上手かったのか下手だったのかはわからない。ただ、感動し心を動かされたことだけは、確かだった。


 中学生になった今、そんなことを思い出しながら僕は地下室の扉を開く。


「やほー、春くん」

「深宙ちゃん、今日掃除当番だったのに......早いね」

「ソッコーで終わらせてきたよ。はっはっは!」


 ギターのチューニングをしながら高笑いをする深宙ちゃん。なんでも要領よくこなす彼女の、その高速で物事を終わらせてしまう癖のようなものは、掃除に限らず勉強や他の事にも及ぶ。


 以前それが原因で、まともに掃除をしていないんじゃないか?手を抜き、最悪サボっている可能性を先生に示唆されたが、抜き打ちのチェックも合格ライン余裕のクリアで返り討ちにしていた。


 まるで宇宙(そら)に落ちる流星の如く、彼女はその影すらも置き去りにし、周囲の目を奪った。


(早いねって、まあ......掃除じゃなくて、告白の事でもあるんだけど。帰りに三年生の男子に呼ばれてたのは......どうなったんだろう)


 聞きたい。けれど、聞けない。もしも、それがそうなら僕はまともにもう深宙とは遊べない。何故かはわからないけど、その光景を想像しただけで、胸が苦しくなる。


 ならそんな想像もせず気にしないで遊べ、と言われても、どうしても気になってしまう。僕はどうかしてしまった。

 毎日、ずっと......深宙が他の人の所へ行かないかを心配している。


「春くん?大丈夫?体調わるいとか......?」

「え、ああ。大丈夫だよ、ごめん。えっと......今日はオカロ曲だったよね」

「うん。シオトPさんの【割れた洗面台】」

「シオトP......最近流行ってるね。あの人のオカロ曲」

「ね!なんかマノPさんと同じ雰囲気のある曲が多いよね」

「ああ、うん。詞なんかすごく似てる。多分リスペクトしてるんだろうね」


 ......ダメだ。気になる。あの先輩って学校イチのイケメンって呼ばれてる人だろ。しかも手当たり次第に女子に手を出してるとかって噂のある。


(いっそ聞いてしまうか。......いや、それで関係性が壊れるならやめた方がいい)


 世の中には知らないことが多い。それは「知ろうとしないから」なんじゃなくて、「知りたくないから」知らないんじゃないかと最近思う。


 そうだ。僕は、知りたくないんだ。


 知れば、最悪が起こるかもしれない。


 星は落ち、見上げていた綺麗なそれが粉々に崩れ去る。僕ごと消えてなくなるならまだ良い。けれど、無様に生き延びたとしてずっと星のない夜を歩くのは......怖い。


 深宙は僕の全てだ。あの日、公園で手に入れた希望。彼女の笑顔が見たくて一緒にいた。恥ずかしくて苦手な歌も練習した。音痴で音程がとれずに苦しんだ。声変わりが早く、高い音がすぐに出なくなったけど......頑張ってだせるように練習した。


 おそらくは褒められた声の出し方ではないんだと思う。ある動画サイトには声帯にダメージが残るやりかただと書いてあった。


 けど僕はそれでも良い。いずれ消えてしまう歌声だとしても、声帯ひとつで彼女が隣にいてくれるのなら。


 星はいずれ燃え尽き闇に溶ける。だから、その時まで。僕は僕のなにかを、例え魂であっても。彼女の側に。


「春くんはさ」


 深宙がギターを適当に鳴らしながら僕に話しかける。


「ん?」

「昔、あたしとみたアニメ覚えてる?」


 昔みたアニメ。たくさん見たけど、どれの事だろう。色々出てきすぎて逆に答えられない。


「たくさんあるな......どれだろ」

「ひんと!いっっっちばん最初にみたやつ!」


「それ、ヒントになるのか?......『孤独のロッカー』かな」

「正解!さっすが春くん!いやあ、わかってるねえ!」

「おだてても何もでないよ」


 僕がポケットからのど飴を出し深宙にあげる。すると彼女はギターを弾きながら、あーん、と口を開けた。僕はいつものように飴を食べさせる。


 深宙の目を閉じた顔が色っぽく見えて、心音があがる。けれどこれは気の所為だ。女子にこういう行為をすればドキドキするのは当たり前のこと。


(......いや、違う。違うはずだ)


 だってこれがそうなら、必然的に別れが決定してしまう。だから、偽物だ。嘘の中の嘘。もしかしたらそれは本物なのかもしれない。けれど、みてみろ。


 照明に煌めく頭髪の緋の色。瞳にある幻想的な碧。触れれば溶けて落ちそうな白い肌。彼女はその持ち前の美貌で先月から読者モデルをやり始めたらしい。


 そんな天上にいる相手をどうすれというんだ。


 もう気持ちだけじゃ変えられない。僕らの世界は変わり、現実が刃を突きつけ強制してくる。分相応に生きることを。


(......けど)


 でも、だからこそ。いつか終わりがくるその時まで。僕は足掻き続けよう。この身が、喉が破れ、何もかも消えてしまうとしても、すべてをかけて。



 彼女のギターの音が、僕の心音を揺らし続ける。









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