31話
――熱い、暑く、炎刃の様に鋭く。音の刃が観客へと突き刺さり燃え上がる。
「――♫、♪♫」
この声が、歌が皆の体と心に突き刺さり、全てを焦がす。
「「キャーッ」」「サトー!!カッコいいぞー!!」「ベースちゃん神業ありがとー!!」「うわあーマジですげえ、すげえって!!」「サトーくん!!」「地味男覚醒したなおい!!」「かっこよすぎるわ、お前」
「サトーくん好き!!」「「キャーッ!!こっち見た!!」」
遠くで七島先生が笑顔でこちらを見てる。心なしか涙を浮かべているようにも。
手前には姫前が居た。とろんとした目でこちらをみているような気がするが、気のせいだろう。いや、気のせいであれ。
あそこには僕と撮影した女性が楽しそうに体を揺らしている......もしかして、僕のバンドの事に気がついていたのか?
――ふと、不思議な感覚がする。
何年も前、なんども歌ったアニメの曲。二人で奏でた沢山の曲、そして四人で歩んできた、この音の先。
夏希。
冬花。
そして、深宙。
この四人で、これから先も新たな世界を。先に進んでいる、ワクワクとする感覚。
――見に行くんだ。
ふと赤名の姿が、頭を過る。
――だから、そこをどけ。
ワアッとラストのサビが観客の声援と共に弾ける。
――新しい世界が開く音がする。
『......ありがとうございました!』
三曲全てが終了し、会場が湧く。拍手の嵐が巻き起こり僕ら四人は顔を見合わせ笑う。
「サトー!すごかった!見直した!」「カッコいい!なんでそんなに歌上手いの!?」「プロレベルだろ、マジで!」
クラスメイトが驚き称賛する。僕は笑いありがとうと答えた。そして四人で頭をさげ、舞台袖へと戻っていく。しかし会場のざわめきは納まることがなく、「まだ心臓ばくばくしてる!」「あたしも!」「え、夢じゃないよね?あれホンモノだったよね!?」「ホンモノじゃなかったら逆に凄いんだけど!」「すげー!」
いつまでも喜んでくれていた。
「春ちゃん、楽しかったね」
冬花がにこりと微笑む。僕はぽんぽんと頭を撫でてやる。
「だな。カッコ良かったぞ、冬花」
「......いひひ」
「ははっ、こりゃ圧勝だな。わりいな、赤名くん」
同じく舞台裏にいた赤名。彼の姿を見つけた夏希があおりだした。あらやだ、喧嘩っ早すぎません?夏希さん。でもそんなところもカッコいいっす。
「......どうかな。俺は、俺は......まだ、やれる。俺のこの美声で、ギターでやってやる」
「えっ」
そうして舞台上にギター一本を担ぎ歩いていく赤名。......あれ?ってか一人?バンドメンバーは?そんな疑問が浮上する中、一人の女子生徒が僕の方へ駆け寄ってきた。
それは赤名の彼女でありバンドメンバーの八種鳴子先輩。
「あ、あの、佐藤くん」
「え、あ、はい」
眼鏡仲間だな。黒髪ボブ。文学少女を絵にしたような。しかし大人しい容姿ではあるが美しい女子生徒である。てか上目遣いでしきりにこちらを見てくるんだけど......なんですか?
「とてもカッコ良かった。えっと、それだけ......またね」
ニコッと笑い彼女は走り去っていく。いや、待てよ!ライブするの赤名一人かよ!?と聞きたかったがもう彼女の姿は無かった。そして三人の圧が強力にかかるのを感じる。僕、悪くないよね。大丈夫だよね?殺されないよね?
ふと着替えを覗いてしまった件が脳裏を過り、そもそも死ぬ予定があることを僕は彼女らの下着姿と共に思い出した。
その時、深宙が右手を握ってきた。その表情はムッとしており手に入る力も強め。いや、でも......そんな嫉妬されても僕は浮気しないから大丈夫ですけど。
と、左手の方にとことこと冬花が来た。そしていつものごとく袖を摘む。
「......あ、いえ、これはいつものです。秋ちゃんの嫉妬とは違いますから......」
「は、はあ!?あたしも嫉妬じゃないし!フツーに手繋ぎたかっただけだし!」
取り乱す深宙。珍しい姿。そして深宙以外の僕ら三人が思った。(((ああ、やっぱり嫉妬か)))と。
『ひゅー!ひゃっはー!!皆、元気ー!?盛り上がってるー!?』
赤名の声。トークを始めた彼は依然一人のままで、誰かしらバンドメンバーが集まる気配もない。もしかして、一人で演奏する......のか?
他のメンバーはなんで居ないんだ?
『いやあ、アチィね!ノリノリの熱い曲だったなー!まさか地味男サトーがそこそこ歌えるなんてな?驚きだよな、皆?』
そこそこで悪かったな、おい。
――ぷふっ、くく......。と、誰かの笑いが客席から聞こえた。
「いやいや赤名のがまあまあだろ、くく」「なんでそんな上からなんだアイツ、ウケるわ」
『あ、えっと、はは......』
「赤名くん知らないのかな」「さっきのバンド」「いやいやいや!有名バンドだから知ってるだろ、さすがに......名前はねえけど」「何いってんだあいつ、格が違うだろ。わかれよ」「自分の力わかってねえってこえー」
『ま、まあ、ここらで一曲!静かなのを演るからよ!ゆっくり聴いてくれ!』
赤名が一人ギターを鳴らす。バラードの落ち着いた曲が始まる。瞬間、体育館から出ていく人達が複数人いた。
「もう終わりっしょ?」「いやーカラオケいきたくなっちまったな」「さっきのバンドおわりだよね?」「もう時間的にいまの寒い奴で終了じゃんね?」
夏希が冷静に言う。
「あーらら。あいつ下手だなぁ......最初聴いた春のギターより遥かに下手くそだぞ、あれ。リズム感もねえし」
「......む、聞き捨てなりませんね。春ちゃんは確かにギターは上手くありません。が、決して下手ではないです......」
「く、殺せ」
僕が膝から崩れ落ちると、深宙が「あはは」と笑う。
「僕のギター、下手?」
「んー、普通より少し上、かな」
にこにこと笑う深宙。ホント可愛い顔して。
「でも春くんには歌があるでしょ」
「......まあ、ね」
――僕は、最高傑作だからな。
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