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18話

 


 ――コトッ、と座る深宙の前に出されたお茶。


「粗茶ですが」

「あ、これはどうも」


 刹那がお茶を淹れてくれた。粗茶ですがって、絶対そのやりとりやりたかっただけだよね、この子。優しい深宙はそのノリにのってあげている。


 陶器の湯呑だが、入っているのは冷たい緑茶。気温も高いし雰囲気そのままに冷たいものにしたのだろう。


「刹那ちゃん、お茶美味しいよ」

「いえ、まだまだっすよ。へへっ。てやんでい」


 いやだからキャラを定めろと。まあいいや。


「ふふっ。刹那ちゃんはさ、最近なにして遊んでるの?」


 ......!すげえ、ナチュラルに話題を振ってる。これが陽キャ。彼女は余裕の雰囲気でお茶をまた口にする。


「えっとね、今はお兄ちゃんのストーキング!」


 ぶっふぉ!!と噴き出しそうになる深宙は、奇跡的にぎりぎり堪え、顔を俯かせている。あぶねえ、なんだこの妹......。

 そんな彼女に僕は注意する。


「あの、刹那さん」

「はいっ、お兄ちゃん。なんでしょう」

「ストーキングはダメだよ。それはね、ダメ」

「あ、そっか。倫理的に......ダメかぁ」


 僕の部屋に忍び込むのも倫理的にダメだよ?と付け加えようとしたが、まあそれは今は良い。ここは気を取り直して。


「刹那は学校とかでは何して遊んでるの?」

「学校、かあ」


 僕は刹那と話しながらティッシュの箱を深宙に手渡した。もしかしたら必要かもしれないと思って。


「学校ではね、遊びっていうか、WouTuberとかVouTuberの話で持ちきりだね」

「やっぱり流行ってんだな、WouTube関連の」

「いろいろ、見られるしね。刹那ちゃんは何が好きなのかな」


 何とか戦線へ復帰を果たした深宙さん。あんた、すげえよ。


「私はブカロを聴いたりしてるよ。お兄ちゃんがよく部屋で流すから、私も聴くようになったんだ」

「ブカロか。へえ、お兄ちゃんの影響なんだね」


 あ、僕は深宙さんの影響ですが。歌うのに聴いてただけなんだよね。


「ブカロ曲はね、あたしは『くろのクロワッサン』と『美々耳ミミ』が最近好きだよ。刹那ちゃんは?何が好き?」

「んーと、『ギトギトアブラヨゴレ』とか『しろいカミサマ』『ノータイム』かなあ」


 二人の話を聞いてて思うけど、てか目にする度思うんだが、曲名すごいよね。『ギトギトアブラヨゴレ』なんてギトギトアブラヨゴレでしかないし。『くろのクロワッサン』美味しそうだし。


「ねえ、春くん。今刹那ちゃんが言った曲、全部歌えるよね?」

「ん?まあ、そりゃ深宙とやった奴ばかりだからな」


 僕は一度覚えた詞は忘れない。


「ええっ、まさかあ!?」と刹那が目をキラキラさせている。って、ええっ、まさかあ!?


「どうかな、春くん。ギターあたしが使わせてもらって、春くん歌えない?」

「いやあ、どうかな。深宙のギターは聴きたいだろうけど、僕の歌なんて腐るほど聴いてるだろうし.......」


 あと恥ずかしいよね。流石に家族に聴かれるの。


「え、え、なんで?私、お兄ちゃんの歌聴いたことないよ?」

「ん、え?そうだっけ?」

「だって、地下室お兄ちゃん鍵かけて入れなくするし。お父さんがお金かけた防音室だから、音も全然漏れてこないんだもん」


 あー、まあ確かに。歌うのは地下でしかしてない。部屋や風呂では音程合わせの鼻歌がせいぜい。そっか、刹那聴いたこと無かったんだ。それは知らなかった。


「んー、そうか」


 キラキラと眼差しを向けてくる。


「......わかった。じゃあ、一曲だけな。時間も無くなってきたし」

「わああいっ!!やったあ!!」


 刹那が大喜びする。そんなに期待されると困るけど。


「ギター、取ってくる」

「はーいっ」


「あ、あたしも行こうかな」

「?」


 茶の間の戸を引いて締めると、深宙が小声で僕の名を呼んだ。


「......あの、ごめんね。嫌だったかな。勝手に決めちゃって」


 申し訳なさそうにする深宙。僕はポンと深宙の頭に手を乗せた。


「大丈夫。刹那も喜んでるし」

「......そっか、ありがとう」


 不安そうな彼女の手を握り、僕はギターの置いてある部屋へ向かった。


 そして後にバンド練習から帰ってきて言われたのだが、「女性は頭をナデナデされるのは、嬉しいには嬉しいんだけど髪型が崩れて困るから止めたほうが良いよ?」と盗み見ていた刹那ちゃんから注意された。


 いや!!見てんじゃないよっ!!



 ◇◆◇◆◇◆



 ――それから一曲に留まらず三曲全てを歌い、弾いた我々二人。御満足していただいた刹那を家へ残し、二人は深宙の家へと向かっていた。


「いやあしかし刹那ちゃん、おっきくなったねえ」

「深宙は小さな時しか見てないもんね」

「うん。すっごく可愛くなっててびっくりだよ。自慢の妹ちゃんだね?」

「まあ、うん。でもあいつ僕の部屋に無断で侵入してくるんだよ?普通、男兄弟とか嫌がるんじゃないのかな......困っちゃうよ、ホント」

「あははっ、寂しいんだね」


 寂しいからと言って許される訳じゃない。冬場とかいつの間にかベッド潜り込んできて人間湯たんぽになってくれるのは有り難いけど。


「けど、驚いてたね。お兄ちゃん歌が上手いこと知らなかったんだね、刹那ちゃん」

「......まあ、聴かせたことなかったからね」


 でもビックリした。三曲目でまさかあの妹が涙を流すとは。


「感動したって言われたね。嬉しいね?」

「まあ。驚いたけどね。刹那があんなに感受性豊かなの知らなかった......」


 きょとんとする深宙。あれ、変なこと言った?やがて彼女はニコッと笑いこう言った。


「あれは春くんだからだよ。詞に感情込めるのと、それを表現するの上手だし。てか、ウチのバンドの一番の武器は春くんのそういうところかもね」


「......」


 お世辞ともわからない事を言われ、思わず無言になる僕。

 僕はウチのバンドの武器は四人の努力から生まれる技術だと思っている。


「頼りにしてるから。春くん」


 その一言は嬉しかった。





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