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12話

 

「いや、そいつタマ潰そーぜ」


 バンド練習の休憩時間。下校時の一件を夏希と有栖さんに言うと、夏希がとんでもないことを提案してきた。


「ちょ、なん......え?」


 僕は戸惑いながら、聞き間違えかなと思い聞き返す。


「いや、だって聞く限りじゃ見境ねえじゃんその赤名ってやつ。もう去勢コースだろ、それ。春を叩いた罪もあるし、麻酔無しの去勢やろうぜ」


 こわっ!何その発想!と戦慄する僕をよそに有栖さんが「そーそー」と頷く。ええっ。


「お兄様の頭をぺしぺし叩いただなんて不敬極まれりです。去勢のち手足を引き千切り達磨にして、あと八つ裂きにしましょう......!」


 怖すぎる!なんなのこの二人?と、その時。思い出したのか急に声を荒げる深宙。


「あああもう、最悪っ!!ほんっと、あんなに気持ち悪い人初めてみたっ!!」


 普段は嫌なことがあっても表に出さないよう努める深宙。だが、今回の件はその許容を超えてしまっていたようで、彼女はかなり荒れていた。

 けど、それは僕も同じだったりする。唯一の救いは赤名に深宙を触らせずに済んだこと。


(......あいつ、まだ諦めてないよな。どうしたものか......てか、いじりが酷くなりそうな予感が)


 あれだけの騒ぎだったんだ。おそらく校内で一番名が通った生徒になってしまったまである。そんな僕をいじって遊ばない手はないよな。

 だからといって学校に行かないという選択肢はない。ああ、明日が憂鬱すぎる。


「......でも、秋ちゃんはお兄様に助けて貰ったんですよね?」

「え、あ......うん」

「どうでしたか!どんな感じに助けてもらったんですかっ!?」


 何故かきらきらした目で深宙を注視する有栖さん。深宙は「えっと......」と、宙を見つめたまま次第に赤くなりそのまま固まった。怒りの限界を超えて発熱しちゃったのか?


「......照れてる場合じゃねーんですよ!共有してくださいよ!ほら、秋ちゃん!起動せよ秋......!」


 に、にやり。といった感じで深宙が半笑いしまた固まる。おいおい、初めて見たぞこんな深宙。これ結構やばいんじゃ。つーか起動せよとか、アンドロイド?


「ぷっ、あっははは!!こんな深宙初めてみたぜ!よっぽどカッコ良かったんだな、春!」

「へ?いや、普通だったけど......?」

「ほら、お兄様は普通なんですって!だからはよ!教えてよ......!!」


 必死に懇願する有栖さん。


「つーか、深宙。今日はWouTube用の曲とるんだろ?んな悠長なことしてていいんか?」

「はっ!だ、だめ!早く撮らなきゃ!!」「えーっ!!そんなぁ」


 夏希が黒のマスクをつけ、ドラムにスタンバイする。


「あれ、夏希......風邪引いたの?」

「え?いや、だって動画撮るから」


 ふと有栖さんの方を見ると、赤いマフラーを巻いていた。暑そうだな。


「......あちぃ......」


 ボソリと呟いた。やっぱ暑いよね。


「春くん、はい」

「パーカー......」

「選んでみたの。嫌かな?」


 白のネックウォーマーを付けた深宙が僕に黒のパーカーを手渡してきた。


「それ深くかぶる感じで」

「ありがとう。助かるよ」

「いえいえ、どーいたしまして!」


 そして皆が持ち場につき、演奏&録画が開始された。これで顔バレ防げているのか怪しい所ではあるが、せっかく用意してくれたので有り難くもらっとこう。


(うつむいとけば、まあ何とかなるか)


「それじゃ、予定通り『アウトサイダー』から『怪物』、『神風』の順でいこう!」


 まずはメジャーな曲をカバー。そうすることで登録者を増やし、人を集める。それを導線にし僕らのオリジナル曲を聴いてもらう作戦だ。


 昨日、夏希の家で作戦会議を行った際に決まった事で、どれだけ技術があろうが、まずは観てくれる人を増やさないことには始まらない。だから僕らのバンド自体に興味を持ってもらう事から始めようとの事。


 ――そして、収録が始まった。


「――♪」


 皆の音が重なり、ぐんぐんと彩を濃くしていく。


 互いが互いの音を、力をより高い次元へと誘っていってるのがわかる。



 ――ああ、この世界は心地良い。



 そして数曲が終わった頃、僕は思い出した。


(......いや、有栖さん......すごいな)


 有栖さんのベース、完璧だ。昨日の選曲では「......最近の曲はねえ、あんまし知らないんですよねえ......」とボヤいていたはず。なのにこのクオリティ......。



「――っと、こんなところかな。皆、お疲れ様!」


 カバーとオリジナルを三曲ずつ撮り終え、深宙が終了を宣言する。直後、シュバッという擬音が視覚できるかというスピードで有栖さんがマフラーを投げ捨てこう言った。


「......夏にマフラーは死ぬ.......」

「あははは!!あたりめえだろーが!!」


 爆笑する夏希。


「けど、有栖さん凄いな。昨日、最近の曲知らないみたいな話してなかった?今日の演奏完璧で驚いたよ」


 僕が有栖さんにそういうと、彼女はとことことこちらに歩み寄り、僕の袖を摘む。


「......がんばった」


 上目遣い。照明ライトに輝く美しい銀髪が、地上に降りた天使を想わせる。僕は思わず息を呑み固まる。


「う、うん、ホントにすごいよ......たくさん練習したんだな」

「ご褒美」

「え?」

「......がんばった人は報われるべき。ご褒美があってもバチは当たらない......でしょ?」


 こてん、と首を傾けこちらをじーっと見つめている。


 この破壊力。この子は自分の強み魅せ方を知っている。そういう動きだ。しかし残念ながら僕は日々、あざと可愛い妹で訓練されている。


「......何をご所望で?」


 だからと言って対処できる訳もなく、とりあえず望みを聞いてみたりする。


「......深宙、夏希、有栖さん......」

「う、うん」


「......なぜ私は有栖さんなのでしょう」


 謎かけ!?何故って、有栖さんは有栖さん以外の何者でも無い......どゆこと?


「くっ、難易度が高いな」


「!?」


 目をまんまるにして驚く有栖さん。いつもは眠そうなジト目なのでこれには僕もビックリだ。そんなにショックだったのか......仕方ない、少しだけ考えてみよう。わからないだろうけど。


「ちょっと、ごめん、時間かかる......かも」


「......くっ」


 こんどはガクリと膝をついてしまった。もしかしてこれ簡単な謎かけ?ちらりと夏希を見てみると、今にも吹き出しそうな満面の笑みに無理やり口を両手で抑えていた。


 次に深宙を見ると、少し困り顔で笑いかけてきた。


「あのね、春くん......冬花ちゃんは」


 と、深宙が何かを言いかけたその時。バッと立ち上がった有栖さんが「いいです!」と言った。


「難易度が高いのなら、下げるまで!です......!」

「お、おおう」


 何やら燃えている有栖さん。それを眺めていた夏希がもう限界と大声で笑い出した。


「ぷっ、あははは!!ダメだこいつら!!面白すぎるだろ!!」

「昔から、春くん鈍感なところあるんだ......」


 申し訳無さそうな深宙。そんな彼女の姿に僕も何がなんだかがわからないけど申し訳なくなる。


(......つーか、難易度下げるって、ヒントは?)





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― 新着の感想 ―
[一言] めっちゃ楽しそうこの関係;; 僕も女オンリーバンド組んだ時こんくらい楽しかったのになぁ…… ベースの人が鬱になって解散してしまったんよなぁ。ドラムとボーカルとなんはまだ飲み合う仲だけどあの頃…
[一言] 早めに有名になって覆面デビューでもいいので事務所に所属した後に暴力沙汰になれば一般人とは比べ物にならないぐらいの慰謝料が発生するのでざまぁも楽しくなりそう。 それとは別にファンが増えれば増え…
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