00:トラック運転手、転生する
その後少し偉そうな神様に聞いた話を箇条書きするとこうだ。
・今迄の世界で俺──轟運は死んだ
・死んだ事実がある以上、今迄の世界には戻れない
・だから別の世界に転生する
ここで気になったのは二つ、別の世界にはたしてトラックはあるのかと言う事。
……いや、今迄の世界に置いてきた家族や友人、職場の人間に別れを言えなかった事も惜しいが、死んでしまったものは仕方が無いし。決してトラックバカだからって訳じゃ無い……まぁ全員「トラックで死んだなら本望だろうよ」とか言いそうだけど。
もう一つは俺が轢き殺してしまっただろう女の子の事だ。
生きている、のは難しいだろう。芯の無い人形の様に吹っ飛んだからな、小学生の頃受けた自転車演習の人形みたいに。せめて苦しみなく即死だった事を願う。
そんで俺は過失致死罪とかになってんのかな、そんがいばいしょーだっけ? すまんおかん。でも俺結構貯金あるし、あとちゃんと信号守ってたよ。仕事してくれよドライブレコーダー、壊れてないと良いんだけど。
しかし女の子については神様曰く、世界の定めとかとやらで詳しくは教えて貰えなかった。あの子もただ死にゆく運命じゃなく、転生出来てたら良いな。
「それで神様、別の世界って言うのは……?」
「私の管理下の別の世界の方が魂の馴染みは良いのだろうが、いかんせん支配層が少しばかり違っておってな。貴殿よ、主要民族が◼️◼️◼️や◼️◼️……そうだな、アメーバやミドリムシの様な生き物だと抵抗は、」
「めちゃくちゃありますね、それ合わせて俺もアメーバになっちゃったりします?」
「するな」
「めちゃくちゃ抵抗ありますね」
「はぁ……だろうな、人間は大体そうだな、アレらは穏やかで良い民族なのだが……そこで私の友人の管理下で、貴殿の世界と遜色の無い世界での転生を予定している、主要民族は人間を含む人型だ。しかし管理下が変わる為少々魂が違和感を覚えるかもしれんが、」
「アメーバのほうが違和感ありまくりです」
「解った、わかったから」
そうして俺は、神様の友人(友神?)の世界で転生する事となった。
しかし主要民族は人間を含む人型って……もしやウマむすm、ウマ耳やネコ耳、ウサギ耳の獣人かわい子ちゃんが居たりするんだろうか? はー! これぞ異世界転生! 耳や尻尾だけの獣人も有りだが、もふもふそのまま二足歩行な獣人も好きなんだよ、っはーーー!!! 後は剣と魔法の世界だったり、中世ファンタジーっての? あー中華モノも良いな、でも男は下手したら宦官でナニが取られるんだっけ? よし中世ファンタジー希望です! あでもスマホは欲しい!
とまぁ神様にはもっと訊きたい事が沢山あるのだが、先程から俺の身体はどんどんふわふわと軽くなっており、寒気も増す一方だ。
「貴殿よ、あまり此処に長居はできないぞ。此処は輪廻の場でも無ければ、現世からも遠い。此処は私、神の◼️◼️……言うならリビングだ」
「神のリビング」
「そう。そして此処では輪廻転生も霊魂にもなれぬ。魂の中の真の魂とでも言おうか、現在の貴殿はそれだけの存在だ。外殻の無い魂で、依代の無い今の貴殿は綿毛の様なもの。長居すれば……そうだな、私のオブジェと化す」
「神のリビングのオブジェ」
「そうだ、つまりもう時間がない。説明は最低限した、出生も詫びとして中々に良い所にして貰っておいた。さぁ……行け!」
神様は右腕を振るう、すると白くて冷たいマシュマロ世界に黒い裂け目が出来た。魂の魂だけ、その魂も軽く成った俺ははらわれるがままに勢い良く黒い裂け目に飛んでいく。
「達者でな、と◼️ロキ◼️こビよ。また貴殿が楽しく安泰に暮らしているのを偶に眺めに行く……あぁ勿論トラックも、貴殿の一番欲する物も忘れてはおらんぞ、良い子でな」
今迄の厳格さは消え、心なしか優しげな、穏やかな声に見送られ、俺は……俺? 私? アタシ? 僕? は黒い隙間を抜けていった。
「今度は黒い結晶だらけだ……でも、なんだか暖かいな。さっきの……誰だ? 誰かの所に居た様な……兎に角さっきまでとはまるで真逆だな」
「貴方ですね」
ふわふわと漂う……自分の前に、蝋燭の灯りの様な人型が舞い降りる。
「さぁお行きなさい、もう貴方の炬燭は今にも燃え尽きようとしている。ほら、ね?」
先程と違いとても柔らかく促されて、自分は何処かに収まった。
ほんのり赤くて暗い暖かな場所にいる。たぷたぷと満ち満ちているのは葡萄のようなジュースだ。口に入る。美味しい。そして凄く落ち着く、生まれて一番居心地が良い場所だ。きっと一番安全で。
あれ? 何故それを知っているんだろう? 自分は一体、
「──ッ、──!!、ッ──!!」
「────ですよ!! さぁ────!!!」
突如世界がぐにゃりと歪んだ。地震!? いや違う、なんだか解らないけれど、ここが、ここ自体が自分を押し出そうとしている。そして狭い場所を無理矢理通らせれると光が目についた。眩しい! 出された!?
「(やめて! もっとあそこに居たいのに! 戻して!)」
そう叫ぶとつんざく、ネコの鳴き声。それから誰かが全力疾走したような息遣いが聞こえる。
それを背に何か大きい影が近寄り、キラリと光る物で何かとても大切な繋がりの様なものを切られ、自分の手と足の指を一つずつ触って、最後に股間をおっ広げられた。なんだ、何が起きてる? 怖い、何をしてるんだ、戻して、触らないでと叫んでも、やはりネコの鳴き声のような音しかしない。これは、自分から発せられているのだろうか。
「奥様、旦那様も、ご覧下さい! 無事産まれましたよ! 予定より遅かったため大きいですが、何の問題も見当たりません、元気なげんきな男の子です!」
「ああ、良かった……一ヶ月も過ぎて一時はどうなる事かと……良くやったよ、良くやった、愛しているよマイスイート。そしてこれから宜しくな、私達の小さくて大きな天使」
「本当に喜ばしい事です。母子共に何事も無く出産を終えられ……奥様、お疲れ様でございます」
「嗚呼、あぁ、あなた、先生、有難う。天使の、私達の天使の顔を、見せて頂戴……」
何を言ってるんだこいつら、ポエマーなの? 海外かぶれ?
兎にも角にも、ゆっさゆっさと次から次へ、三つ程の影に運ばれて、最後は低い位置の低い影の横に収まる。「この子が、私の赤ちゃん……なんて、愛らしい……」あ、でもこの影は落ち着くかも知れない。先程の居心地の良い場所と何処か似ている、ついさっきの筈なのに妙に懐かしい気がした。
「あれ? はは、流石は私達の子だね、ママが誰かもう解っているようだ」
「さっきまであんなに泣いていたのに、ママがそんなに好き? 嬉しいわ」
そうだね、やっぱりママが一番好──……
そこで俺はやっと気が付いた。
「(違う! 俺が好きなのはトラック!!! つか、え、赤ちゃん俺か! そうだ異世界転生!!!)」
その後寝たと思ったら急に喚き出した俺に、両親と医師、助産師達は大変驚き慌てふためいたそうだ。
見た目は手足の指も揃って五体満足で産まれたにも関わらず、ネコのような愛らしい鳴き声からの健やかな眠り、そして突然の全力濁音オギャアである。前世も含め父に成った経験は無いが、俺でも確かにビビり散らかす自信しか無い。
その後、主治医と助産師の賢明な検査によって、なんの障がいも病気もなかった事が解り、今世の俺は「ただただ元気過ぎるでかい赤子」として生を受けたのだった。
ありがち設定ですが、序盤丁寧に書きたい欲