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テーマなし詩集

のに

作者: 歌川 詩季

 なくなっちゃえば、いいんですけどね。

 好きじゃなくなっちゃえばいいのに


 おなじ電車に乗りあわせる あのひとなら

 もう15分 早起きすればいい


 いっぽん遅らせるとチコクしちゃうから

 いっぽんまえのに 乗るしかないじゃんか


 約束なんかないくせに

 おきまりの時間 おきまりの場所

 まちあわせごっこは 楽しかったなぁ


 すっぽかされた気になって

 ホームにすべりこんでくる四両編成に

 あたしのたいせつな きょうのぶんの20分かそこらを

 3番線 4番乗車位置に おきざりのまま

 のりこもうとしたら

 かるく息をきらせて 駆けてくるあなたが


 まにあったって よかったな って

 ほっとした あなたの笑顔に

 まにあって よかったね って

 あなたからは見えない角度の あたしの笑顔は

 あなたと あたしの どっちにむけたものだったんだか



 いっそのこと

 好きじゃなくなっちゃえばいいのに


 とちゅうにある あのお店のあのひとなら

 (かよ)う道をかえればいい


 お茶か炭酸水を買うんだってば

 なんていいわけにした日は

 あらあら まだきのうの飲みかけの紅茶が

 ペットボトルのあたまを バッグから

 のぞかせてるの 忘れちゃったのかしら


 ぽつり ぽつり の雨に

 ちゃんと傘ならもっているんでしょ

 なのに 雨やどりをいいわけにした日は

 グミをえらんでるふりをしてるうちに

 雨足(あまあし)がアスファルトを踏み鳴らす音が

 ぱららっ ぱららっ

 ポップコーンの散弾銃みたいに きこえてきちゃったし



 やっぱり

 好きじゃなくなっちゃえばいいのに


 おなじ教室ではなれた席の あのひとなら

 ()み分けのうまくいかなかった四足動物みたい

 ちっぽけな草原(そうげん)

 ちがう名前の草をかじりながら

 おなじ川の水の上流と下流を ごくごくってする


 バッグのペットボトルがからっぽになったら

 授業がぜんぶ おわってから

 かわりに ここの水を()んで帰って

 じぶんの部屋の かどっこに座りこむのよ

 対角線の天井(てんじょう)の かどっこを

 にらみつけながら ひとくちずつ

 

 あの草原(そうげん)より

 もっとちっぽけな ひとりぼっちの部屋でも

 いちばん遠くをにらみつけられるように

 かどっこに座りこんで

 対角線の天井(てんじょう)の かどっこを

 にらみつけてたんだけど


 いつまでもはむりだってば

 視線をはずしたり 目線をおとしたり

 そんで また ひとくちずつ


 ()み分けのうまくいかなかった

 四足動物たちのひしめく

 あのちっぽけな草原(そうげん)が恋しい

 もっとちっぽけな あたしの部屋は

 こんなきもちを飼い殺す(おり)だから

 このなかでだけなら 気のすむまで

 駆けまわればいい 跳ねまわればいい


 疲れちゃったら また ひとくちずつ

 


 あーあ

 好きじゃなくなっちゃえばいいのに



 ていうか


 なんなの? のに って


 好きじゃなくしてください って

 お願いをするでもなく

 好きじゃなくなっちゃおう なんて

 強がるわけでもない


 だけど


 願ってもいないお願いを

 強がる気のない強がりを


 くちにするのも それはそれでさ

 ばかみたいだし 疲れちゃう



 だったら いまはとりあえず


 好きじゃなくなっちゃえばいいのに って


 のに がきっと あたしのきもちなんだとおもうんだ

 こんなきもちが、たいせつなのが悔しい(笑)

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― 新着の感想 ―
[一言] 「のに」、って後続く「でも」、が省略されているんですよね。「のに」「でもそんなことはできない」 結局、好きじゃなくなりたい、とは思っていない。 いつかその想い自体がなくなるまで、「のに」と…
[良い点] > ていうか > なんなの? のに って これ以降の感情の描き方が これまでを総括しながら 切なく揺れ動く気持ちの様を表していて 好きです [一言] 好きじゃなくなっちゃえばいいのに っ…
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