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第94話『呪いの勇者、決闘の終わり』


 「ど、どうしてだ! どうしてカケルは、何度も何度も立ち上がって来やがる! お前のその行動理念は何なんだ!」


 「そんなの、決まってんだろ。もう一度、ヒスイのおっぱいを触りてぇからさ。それだけありゃ、充分だ。バカヤローが!」


 全身は血まみれ。


 視界だって朧げだ。


 立ち上がってるのが、奇跡って感じもする。


 ヒスイを悲しませる訳には、いかねぇからよ。こっからは、引かねぇし、折れねぇし、曲げらんねぇ。エリクシア達だって、黙って俺を信用してくれてるんだ。


 意地を通しやがれ。ここで倒れでもしたら、俺が築き上げて来た物全て、無駄になっちまうんだからよ。俺は、俺が護りたい者を死んでも護る。


 ーーこの世界に来て、仲間と出会いそう誓ったじゃないか。


 「ふざけたことを抜かすなぁぁー!!」


 勇者の剣を突き出して、全力で走ってくる智治だったけど、笑えるよな。目は血走っているし、周りなんかもう見えちゃいない。ただ、怒りだけを糧に俺へ刃を向けているんだから。


 剛を制するは、柔なり。


 剛を制する為の剛は、決してあり得ない。


 それでは、誰も救えないよ。


 警官時代、女性でありながら俺に厳しく指導してくれた、今は亡き、茅森先輩が常日頃言っていた言葉である。先輩の言っていた意味が、今やっと分かりましたよ。


 攻撃が通らず、劣勢的状況だけど、逆転の一手は、すぐそこまで来ていたんだ。狂人を受け流す術なら、もう教えられているんだからな。


 「死ね! カケルぅー!!」


 ーーブンッ!!


 「な、!?」


 智治の腕を掴み、俺の右ワキに入る瞬間を狙った。一緒に身体を回転させて、智治を俺の背中に乗せるようにして、投げの態勢に入る。


  投げる瞬間、引き手の肘を一緒に外へ肘打ちするような感じで引き、曲げた膝を伸ばしながら、反動を使い智治の身体を浮かせ投げ飛ばす。


 「うるあぁぁー!!」


 「背負い投げ……だと!?」


 ーードンッ!!


 背負い投げを華麗に決め込み、智治の脳天を地面に叩きつける。その一撃が、この決戦の最後となった。殺したい程憎いが、きっとそうじゃない。


 バチっと決めて、ざまぁする。


 これだけやれば、プライドの高い智治だって相当堪える筈だ。魔法で負けた訳でも、勇者としての才能で負けた訳でもねぇ。人間として、智治は俺に負けたのだから。


 「魔法だの、才能だの、そればっかだったな智治はよ。いらねぇんだよ、そんなもの。お前の力は、誰一人、救えやしねぇ! 俺の仲間が、劣勢種だって? ふざけんな! もういっぺん言ったら、次はブッ飛ばすだけじゃ済まさねぇぞ!」


 言いたいことは、全て言ったつもりだ。出せるだけの全力を出し、俺は地面に倒れそうになるけど、支えてくれる人物が俺の側には六人もいる。


 こりゃ、ダサいところ見られちまったよ。きっと、マリエル辺りにドヤされるだろうな。不安だけど、少し嬉しい気もする。こういう日常を俺は、本気で欲していたんだから。


 「……いつまで膝枕をしておられるのですかヒスイさん」


 「アマツ・カケル、勝手な約束しないで下さい。おっぱいを触らせる契約などしていませんよ?」


 「いやいや! 冗談だから! 比喩だから! 俺も本気だったんだ。頑張っただろ!?」


 「分かっていますよ、そんなことぐらい。心配したのですからね。前マスターの言う通りでした。誰かの為、そんなに血を流してでも戦えるなんて最早、人の所業ではありませんね」


 「お人好しも、度が過ぎるとこうなるらしい。心配ありがとよ。俺はヒスイの笑顔が見れただけで、ヨシとしておくさ」


 ドールに感情など無い。屋敷で出会ったマギア・ドールのヒスイは、俺やエリクシア達にそう冷たく言い放った。だけど、どうだろう。


 俺を心配してくれたり、仲間を想い声を振り絞って俺をまた立ち上がらせてくれたんだ。そんなドールに感情が無いってのが、絶対におかしいんだって分かる程だったよ。


 前マスターは、それすら掌握していて、自分の大切なマギア・ドールを俺に託したんだなって推測出来てしまう。いまだに、俺に何をさせたいのかは不明のままだがな。

 

 もっと、ヒスイのことを知りたい。これから時間をかけて、前マスターの真意とやらに近付いていければよいと、俺は思うのです。

 

 「あんなハレンチなことをこの公衆の面前で、恥ずかしげも無く喋るなんて、カケルさんはサイテーです! この変態!」


 「マリエルさん、人の話し聞いてた!? 本気で言ってた訳じゃないんだって!」


 「それはそれでサイテーです。乙女心が、これっぽっちも分かっていません。この変態!」


 変態からは是非とも離れて頂きたい。せっかく、カッコよく締めれたって言うのに台無しだろうが。まぁ、いいけどな。それが俺達っぽいし、これからもそうなんだろう。


 とりあえず、マリエルの地雷は踏まないようにしていたのだけれど、皆様から特に、いや今回は、アクアが酷かった。


 能面のようなツラで、ただただビンタをかましてきていたのです。ここ最近では、一番の恐怖体験だったに違いない。それをヒスイは、笑って見ているのだけどね。食えない奴だ。


 「もう一度言わせて下さいアマツ・カケル。私を貴方のマスターにさせては頂けませんか?」



 何度言われたって、変わらねぇさ。


 ーーヒスイを泣かす奴がいるってんなら、俺はマスターにでも何にでもなってやるよ。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] いい決着でした! [気になる点] この後クソ勇者が逆ギレして襲いかかったり、魔王に寝返ったりしそうですね。展開的にそうなってほしいと自分は思います。
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