第89話『呪いの勇者の攻略法』
「で? その前マスターって誰なんだよ」
「それは、前マスターから話してはならないとの約束をしています。禁則事項ですよ、マスター?」
「一体、お前は何なら話せるんだよ……」
何が禁則事項だ。馬鹿にしやがって。なんか、ちょっと可愛いくてドキッてしただろ。
大体、誰の差しがねかも分からん人形にマスターだと任命されたところで、どうして欲しいのかも分からないままだ。目的についてもこの人形は、素直に語ってくれるんだろうか。
面倒事なのは、見え見えだがアクアに監視というか脅迫なんだけど、もう無視は出来ない状況だ。さっさと解決して楽になりたい。
「俺に頼って来た理由があるんだろ? 自己紹介も含めて話してくれよ」
「私は、前マスターに作られたマギア・ドール最終号機です。名などありません。言いつけによると、私は精霊殺しの標的にされています」
「精霊殺し……ねぇ。それと俺に何の関係が?」
「前マスターは、アマツ・カケルを余程気に入っておられましたよ。この危機をどうにか出来るのは、彼しかいないとね」
ますます分からん前マスターよ。俺の知人なのか?
魔王こと冴島みたいに異世界転生して来た人物なら、まぁ分からんくもないが、素性を隠す必要がなんであるのかがサッパリだ。
当然、この世界でだって俺は大分悪目立ちしているし、正体を隠される様な間柄の人物なんて検討もつかない。余計、分からなくなっちまったよ。
「買いかぶり、ご苦労様だな。俺にその精霊殺しをどうにかして欲しいって依頼で問題無かったのか? 知らないぜ、もしかしたら、俺達じゃどうにも出来ないかもよ?」
「前マスターの言うことは絶対です。アマツ・カケルが救世主になると断言していたのですから。本当にどうにもならないのですか?」
上目遣いで手を握りながら俺はマギア・ドールに懇願されています。やめろぉー! やめてくれぇー! そんなことされたら俺の大切な何かを失ってしまいそうだろうが!
今回ばかりは、流石に無理がある。前マスターとやらの願いなんか知ったことか。どうせ、誰かも分からないだし、少しでも気を許した俺が馬鹿だった。
後でアクアには説教されるだろう。少しの辛抱だ。それさえどうにかすれば、この悪夢から解放されると信じよう。俺は、依頼内容が難しいと理由をつけ、ひっそりとフェードアウトする作戦に考えを切り替えることにした。
「僕ら、駆け出し冒険者なんです。精霊殺しなんてとんでもない。直ぐにやらてしまうだろうなー。怖いなー、怖いなー」
「そうですか。引き受ける気がないと言うのですね。ならば、前マスターから教え込まれたアマツ・カケルを攻略する為に教えて込まれた技を見せてやりましょう」
攻略と、言ったのでしょうか。聞き間違いだと思うのだが、そうでもないらしい。マギア・ドールの彼女は、魔術の詠唱を始めていて戦闘態勢になっている。
とんでもない攻撃が来るのかも知れないと察知した俺は、アクアとマリエルを護る為に防御の構えをしていたんだけど、そんなことしたってまるで無駄だった。
マリエルの詠唱も追いついていないに、尋常じゃない速さでマギア・ドールの彼女は、俺の両腕を掴み取る。組み伏せられるのかと錯覚したが、全くそんなこと無かったようでして……。
ーーモキュ…… モキュモキュ……。
柔らかい何かを、俺の手のひらは包み込んで離さない。
|(何だこれ、何だこれ、何だこれ、何だこれ!!)
何とは言うまい。言ってしまえばそれは不粋だろう。
このまま、時が止まってしまえばいいとさえ考えていたんだ。相手は、人形だ。本物では決してないのに俺の理性が飛びかけていたんだけど、時が過ぎ去るのは早いですね。
ーーここから先は、地獄絵図だった。
「主人様、ただいま帰ったぞ! さっき妙な女がストーキングしてたから説教してやった……!?」
「何してんのよカケル……」
「まぁ、大胆ですわ」
「皆様、邪魔しないで下さい。アマツ・カケルの攻略に必須なのです。前マスターは、アマツ・カケルが言うことを聞かなければ胸を揉ませて黙らせろと仰っていたのです」
全メンバーに恥ずかしい場面を羞恥させられた挙句、余計なことを機械的に淡々と話すマギア・ドールのせいで皆からの視線がとてつもなく痛い。
誤解もクソも無いんだが、言い訳をしなければと焦るけど時は既に遅いよな。事実をしっかりと伝えてなければいけないと俺は心から誓いました。信じて……。くれるかな?
「違うんだ! 腕を掴まれて勝手にドールが押し付けて来やがったんだよ!」
「「手を離してから言ったらどうですか?」」
冷徹な言葉の後で、メンバー全員からビンタをされまくりました。普段にも増して強烈だった筈なのに、自然と痛くなかったんだ。
そんなことよりも、俺は……。
前マスター!! 俺はお前をゼッテェー許さねぇ!!
俺のことをよく知る人物であるのは、間違いないらしいな。
知り過ぎてるって言ってもいいだろう。ストーカーか何かだろうか。今はただ、一瞬の快楽に溺れた自分を悔いながら、エリクシア達に謝罪を繰り返す人形に、俺はなっていた。
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