第62話『呪いの勇者、聖衣と黒衣』
「兄ちゃん、冥界に着いたよ。達者でな、お前はしっかり成仏しろよ……」
レミア達との談笑中の事、魔導列車が急停止したんだけど止まってすぐに、顔の無い駅員らしい人物が俺の肩を背後から叩いてきた。
お化け屋敷じゃねぇんだけどな。急に背後から現れたら、誰だって怖いだろう。いつまで経っても着く事のなかったこの魔導列車も、とうとう冥界に着いたらしい。
レミアの姉さんのことや、綾香のパーティのこともあるし、早く見つけだしてやらないと、厄介な敵が現れてしまうリスクもあるだろうから、俺達は急いで魔導列車から降りることにした。
「薄暗いし、周りには街灯が並んでるだけの変な街だなぁ。本当にここが冥界か？」
「資料によるとそうだよカケル。何も無い一本道だね」
「自由な夜って感じでエモいですね！」
「本当にこんな所に姉さんはいるのかしら……」
「大丈夫さレミア。きっと、姉さんはここにいるよ。いてくれなきゃ困るからな」
何かあった時の為に、アリアドネとブレッドを先頭に俺達は真っ直ぐに歩を進めていく。急な襲撃ならば、アリアドネの聖なる力が作用して、死者共が勝手に怯んでくれるからな。
レミアを護りながらの冥界探索でもあるし、万が一があったら悔やみきれん。しっかりと、周りの警戒を怠らないよう最善の注意を払うことにした。
ーードーンッ！！
「か、カケル！ あれを見て！」
暫く歩き続けていると、遠くの方で漆黒に染まるエネルギーの集合体が、爆発音と共に冥界を染め上げていた。俺が放つ最大級の邪気と同等クラスの負のオーラに、俺達一同は驚愕する。
何も居なけりゃ良いと思ってたんだが、そんな訳無かったよな。こんな事出来るのは、魔王幹部か魔王そのものしか有り得ないだろうよ。
爆発音ってことは、誰かと混戦しているのか、または、この攻撃で何らかの決着が着いてしまった可能性が充分にある。それでいて、冥界に行ったであろう綾香達の姿だって、まだ確認が取れていない。
ーーまさか、魔王、或いはその幹部と戦闘している！？
アイツらなんかの実力じゃ、魔王どころか幹部にすら敵わずに簡単に殺されてしまうだろうよ。勇者パーティの特権は、例え、死んだとしてもパーティが全滅していなければ、簡単に蘇生が可能だ。
呪われた存在で教会の魔法を受け付けない俺だけは例外だが、智治らの実力じゃ簡単に全滅してしまうだろう。この緊急事態に居ても立っても居られない俺達は、爆発音のした方に向かい、誰かいるかもしれない現場に駆け出すことにした。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「くっ……。全く歯が立たないなんて……」
「残るは、ヒーラーの女一人か。どう殺されたい？ 手足を千切ろうか、首を落とそうか、腹ワタを引きずり出してやろうか、指を全て落として生かしてやるのも面白そうだよなぁ〜？ なぁ、どうなんだ小娘ぇ〜！」
「好きなように殺せばいいでしょ。どうせ、助けは来ないんだし。だけど、いつか必ず貴方を殺す者が現れる。私達の死は無駄にはならないわ！」
「そんな奴が果たして居るのかねぇ。勇者である君らが、俺に手も足も出ないんじゃ誰も俺を殺せないだろうなぁ。決めた、お前の首を切り落として、絶望と共に晒してやるよぉ！」
【殺逆の天使】
現場に駆けつけた俺達は、無数の骸骨ズラした天使がカマを持ってヒーラーの綾香を襲おうとしていた。間に合って良かったと言いたいが、智治らは全滅寸前だ。黒いマントと仮面をつけた道化が放っているのは、聖魔法か？ 気にしても仕方ないよな。
俺が攻撃を受けてやらないとどうせ間に合わないだろうし、唯一、聖魔法を受ける事が出来る『臨界状態』の装備、白いマントを綾香を護るように展開した。
ーーバチチンッ！！
「綾香、大丈夫か？」
「え、カケルくん！？ どうして此処に？」
見捨てらんないのもあるが、アクアがうるさいからな。綾香には、死なれると目覚めも悪くなる。ようやく、勇者パーティを見つけることが出来たんだがな。奴は、恐らく只者じゃない。
ーー俺のマントと全く一緒であり、違う所を言えば俺が『純白』であり奴が『漆黒』の道師の様な姿をしていたんだ。
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