第111話『呪いの勇者、魔獣トロールを撃破せよ』
「気をつけろ、トロールの咆哮波が来るぞ!」
「嫌じゃー! 妾のオヤツー!」
「そんなこと言ってる場合か! ブレットがオヤツにされるぞ!」
ーーグオォォォォ!!
あまりの巨大から放たれる咆哮は、鼓膜を破りそうな程の衝撃だった。何とか回避は出来たけど、直撃だったらあの森共々俺達も木っ端微塵にされていたんだろうな。
緊張感を持って欲しい場面であるのに、ブレットはふざけやがるからな。指示を出す俺の立場にもなって欲しい。
自由奔放な竜のお嬢様の考えることは分からん。まぁ、分かりたくもないけれど……。
とりあえずは、トロールから距離を取り出方を伺うしか他無いだろう。これまでの敵の事を考えれば、大して強敵って訳でもない。
ただのゴブリンが巨大化したようなものだ。倒すのなんて、どうにでもなってしまう。だからこそ、完全討伐を決めていたのに俺は躊躇してしまったんだ。
エリクシアは、このエルフの里で迫害を受けて俺と一緒に旅を始めた。
やっとなんだ。やっと幸せな毎日を過ごしていけるって時に、かつて共に生きていたエルフの住人に逆恨みされて、誘拐紛いの悪行を見せつけられ、それでいて殺されそうになっている。
誰が許せるかってんだよ。
そんなくだらねぇ理屈が、罷り通るはずある訳ねぇ。
トロールがこんなにもエルフの里を破壊してしまったら、エリクシアの帰る場所、故郷は無くなっちまうんだぞ。
そんなことを脳裏に過らせていく内に俺は、敢えてトロールを放置するって選択をしてしまいそうだった。
最悪、そこまで強い魔獣って訳でもない。誰かがテキトーに討伐してくれんだろ。俺はもう、エリクシア以外のエルフ族を救う気すら起きやしない。
どれだけエリクシアが苦しめば気が済むんだ。どれだけ、俺達が世界に貢献すれば認めてくれる。やるせない気持ちで一杯だよ。
こんな種族、どうとでもなれと思考を巡らせていると、エリクシアは珍しくも俺にお願いする。こんなこと、出会ってから二度目となるお願いだ。
その必死な願いに俺は耳を傾けずにはいられなかったんだ。
「ーーカケル、トロールを倒して。エルフの為では無く、私の為に」
「いいのかエリィ。倒したところでエリィの故郷や帰る場所何てもうないんだぜ?」
「故郷なんていらない。帰る場所ならもう決まってる。私の帰る場所はカケルの側だけなんだよ。勿論、マリエル達もいなきゃ絶対に嫌だ。もう、私は報われてるからいいんだよ。だからお願い、トロールを倒して!」
ーー帰る場所ならもう既にある……か。
確かにそうだよな。
最初の誓いから果たされていることも、出会いと辛い別れを経験したからこそ、エリクシアはこの考えに至ったんだ。
ならば、どうする俺。
その問いに誠心誠意、向き合ってこその俺の美学だろ。
護りたいものは死んでも護る。エリクシアにだって、 この里が護りたい物の一部だったんだろうな。
ったく……。うちの天使様は、なんて慈悲深いんだろうよ。
そう言われちゃ引き下がれねぇよなぁ!
エリクシアの強い意志に引き寄せられて、俺はその思いを確かに引き受けたのです。
「ーーやってやろうじゃねぇか。みんな聞いてたな? これより、トロールを撃破する。報酬はエリクシアの笑顔一つ、文句ある奴はいるかぁー!」
「ある訳ないでしょ。エリクシアの笑顔は、私達にとってとても大事な宝物ですからね」
「笑顔一つじゃ足りませんよカケル様。我々は絶え間ないエリクシア様の幸せと笑顔が欲しいのですから」
「何じゃシスター、素直じゃないのぉ。要は妾があのゴブリンを喰らえばよいのじゃろ? 主人様、喰っても良いかのぉ〜
」
「けっ! ありがたい文句ばっかりじゃねぇかよ! さぁ行くか、トロールの首討ち取るぜぇー!」
皆んなの決意が固まった今、幾らトロールが巨大だろうとも構っちゃいられねぇーのさ。トロールの命を刈り取る為に、俺達は戦場へ翔け続けるだけなんだからよ。
それを俺の側で、特等席で、見ていて欲しいのだ。ちょっと恥ずかしそうだが慣れてくれるよね?
エリクシアの体を抱えて、俺は諸刃の剣をトロールに突きつける。
「ちょっ……// なんでお姫様抱っこなのカケル!? 恥ずかしいよ!」
「見届けて欲しいからだよ。俺の側でエリィが求めた幸せを叶えてやれる瞬間をな!」
「もう……。馬鹿なんだから……。でもありがとう、一緒に護ってね。世界最強の勇者様」
「当たり前だぁー! マリエル、詠唱頼むぜぇー!」
「カケルさん、ぶちかませぇー!」
【スロー・ギアクル】
ーーブンッ!!
諸刃の剣の一振りは、首に一太刀入れたけど致命傷にすらなっていない。やはり、バカデカいだけある。だったら、最高火力でブッ飛ばしてやろう。
幸いにも、力自慢は俺以外にも二名残っているからな。
その二名の力が有れば、あんな硬い皮膚なんぞ貫通してしまうだろうよ。
「アリアぁー、砲撃を始めろ! ブレットはアリアに続けぇー!」
「ーー聖母マリアに捧げる。死者を天に帰す力を今、解放します。頑張って下さい、コキュートス!」
「合わせてやろうぞシスター。主人様の為だしな、盛大に魔力解放してやるわ!」
【セイクリッド・プレアデス】&【黒竜撃・奈落】
ーープチュンッ!! ーーバチバチッ!!
普段のアリアドネが放つ砲撃とは、似ても似つかない闇に包まれた砲撃だ。轟音を奏でるその銃弾は、トロールの頭部へと接近し見事なまでに直撃しやがった。
ーーぐっ……。 グオォォォォ……。
直撃した筈なんだけどな。やはり、こんなにもデカい変異種のゴブリンじゃ致命症に届かないか。けど、大丈夫だ。ここまでやってくれたんなら、俺とエリクシアでどうとでもなるぜ。
さぁ、ラストだ。派手に逝かせやるぜ、我慢強いゴブリンさんよ。トドメをくれてやる、チェックメイトだ!
「な、妾とシスターの全力でも倒しきれなかったのか!?」
「大丈夫ですよ、ブレットさん。後は、カケル様がやって下さいますからね。私達の頑張りはここまでです」
「あぁ、そうだぜ! 全部まとめて俺が背負ってやるよ! マリエル、最後の詠唱頼むぜ!」
「カケルさん、私達の全力を繋いで下さい!」
【ダウン・ギアクル】
デバフは貰った。後は諸刃の剣を振り下ろすだけだ。だけど、その前に俺はすることがある。
一度、諸刃の剣を振っているからな。呪いの代償によりダメージを受けている。だが俺は、そのダメージを回復をする為だけの事をする訳では勿論ない。
俺は本当に、エリクシアを愛おしく思っているんだ。今回は柄にもなく、俺からエリクシアの小さい唇に熱いキスを交わした。
「っん……。ちょ……// いつも私からなのにどうして!?」
「そんな気分だったんだよ! さぁ、回復したしちゃんと見といてくれよ。俺のカッコいい所よぉー!」
ーーブンッ!!
ーーグシャリ……。
超撃のバフの効果により、魔獣トロールの首は体から離れ、頭部は綺麗さっぱり吹き飛んだ。
宝剣とやらがどうなったのかまでは分からないけど、討伐は出来たんだしこれで良いんじゃないからと俺は思っている。
やり切った後、エルフの里はというと、崩壊とは言わないまでも半壊状態であるには間違いない。生き残りが数名は確認出来たので、多少なりとも一安心出来るな。
「やった……。ありがとう、エルフの人達、救えたよ!」
報酬は、本当に笑顔一つだった。
ただ一切の曇りも無い、純粋無垢な笑みが見れただけでも俺達は良しとしておこうかな。
ーーこれにて、魔獣トロールの撃破に成功した。この事で俺達は、更なる絆を繋ぐ事が出来たんじゃないかと、俺は思うのです。
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