第105話『勇者の証を失いし男、その結末は』
【勇者side】
「マギア・ドールはいずれ、人々を殺戮の限りを尽くすでしょう。勇者トモハル、私と協力してその人形の破壊を手伝って頂きたい」
偏屈なジジイに目をつけられてしまった。まぁ、俺様だって勇者だ。人々を苦しめる存在を放っておくなんて、出来はしないのである。
俺様はカケルと違って無能じゃないんだ。この国の平和の為にその人形の破壊を手伝ってやるとしよう。
そのジジイの言う通り、人形の捜索をしていると、何ともあっさり発見することが出来たんだ。ただ一つ、その側に居た奴のことも俺様は勿論、確認済みなんだけどね。
マギア・ドールを引き連れていた男。
そう、あの無能勇者カケルだったんだ。
「闇堕ちでもしたのか、カケル。厄災をもたらす人形何ぞ連れまわしやがって……」
そうなれば、話しは早い。俺様は、マギア・ドールを破壊して、その元凶たるカケルを始末するしかなさそうだ。
カケルよ、お前がいるからこの世界がおかしくなっていくんだ。きっと、俺様達を逆恨みしてこんな暴挙に出た筈だ。
俺様が必ずカケルの息の根を止めてやるよ!
その誓いを胸に、俺様はカケルを抹殺する計画を仲間に打ち明けることとなる。理解はされないだろうが、仕方がない。
どうせ反対するのは、偽善者の綾香一人なんだ。テキトーに丸め込んでさっさと始末してやろう。これ以上、この国の民を傷つける訳にはいかないからな。
「ダメだよ、訳も聞いていないのに、一方的なやり方じゃカケルくんが可哀想だよ……」
「うるさい綾香! 人が死ぬんだぞ? それでも可哀想だって言えるのか? もう無理なんだよカケルはな。アマツ・カケルは闇に堕ちた。勇者である俺達が殺す、その選択肢しかない」
やはり、綾香が駄々をこね始めたな。本当に鬱陶しい女だよな。ヒーラーの癖して前衛に来たがるし、回復力もそこまである訳じゃない。
はっきり言って、今のお荷物は綾香なんだ。いっそ、カケルと一緒に始末してしまおうか……。
いけないことを考えてしまったよ。これ以上、仲間を減らしては魔王討伐なんか夢のまた夢である。
この黒い衝動を抑えなきゃな。俺様の悪い癖に最近ではなりつつあったのだ。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「どうして、何度も立ち上がるんだカケル! お前はもう戦えない筈だろぉー!」
決闘を取り繕い、俺が優勢であり勝利濃厚だった。そうだった筈なんだ。カケルは、どんだけ血を吐こうが決して折れやしない。
それどころか、何度だって立ち上がり俺に牙を剥く。
一瞬を突いた華麗な投げ技が決まってしまい、俺様は形勢逆転され気絶したんだ。たった、その一瞬で俺様はカケルに敗北を期してしまった。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「これを飲めば強くなれる。もう仲間など要らないだろう? 全てを殺してしまいなさい」
「ちょ、!? じいさん、勝手なことを!?」
この時、俺は思ったんだよ。
カケルにも信念があったこと、本当はカケルが正義で俺様が悪であるってことにな。
結局のところ、俺様はジジイに良いように嵌められてたって訳さ。本当の目的は、勇者同士で殺し合わせること、自分の研究を成し遂げること、その二つしか奴には見えていなかったんだ。
「相打ち覚悟で死ね。勇者、トモハル」
得体の知れないポーションを飲まされた俺様は、身体が煮えたぎる程の興奮を始める。こんなもの、尋常じゃない。理性まで飛んでしまいそうだった。
湧き上がる怒りを爆発させながら、俺様は何故かヒーラーの綾香に手を掛けてトドメを刺そうとしている。
俺様の心理を、忠実に再現してしまっているのかも知れないな。どうせ、邪魔だったんだ。
仲間なんていらない。俺様は一人ででもカケルを殺してやるだけさ!
ーーガキンッ!!
「人の話し聞いてんのかよクソ野郎が! 綾香に何をしたって聞いてんだよ!」
またしてもカケルだ。
どうして、お前は俺様の前に立ち塞がる。
どうして、お前が全てを持っているんだよ!
やるせないよな。ジジイに騙されたってのも分かってる。仲間を殺そうとしたのも勿論、俺様の意思なんだ。
全てを失おうか、構いやしない。
俺様は、カケルに勝ちた勝っただけ。
こんな状態じゃ、どうせ無理なんだろうな。
俺も全力を出したけど、あの諸刃の剣には敵いやしない。
勇者の象徴である剣を砕かれ、カケルの剣に俺様は潰されていく。俺様はどこで間違えてしまったのだろう。いや、分かってる。
カケルを見下した、その瞬間にその過ちに気づくべきだったんだ。今更遅いんだけどね。
痛いだとか、苦しくだとか、そんなこと言ってらんないぐらいの激痛を俺様は味わう。体がどんどんと砕けていく最中で、俺様は死ぬんだなって分かっていた。
もう覚悟は、出来ているよカケル。
ーーブンッ!!
トドメを刺してくれてありがとう。
♦︎♦︎♦︎♦︎
辺りの静寂さが逆に煩わしくて、俺様は意思を覚醒させ飛び起きてしまった。
「確か俺様は死んだはず……」
それだけは、間違いなく覚えているんだ。何故、生きているのか訳が分からないって感じだけどな。
勇者の象徴でもある剣を失って、俺様は勇者だって言えるのか。それどころか、俺が死んでいない理由ってのも分からない。
全てを失ったんだ。死んだ方がマシだったのによ。
この体の変化は、俺様が一番分かっている。
ーー俺様は、薬の副作用により不死の魔人へと豹変していたんだから。
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