第103話『呪いの勇者、精霊殺しを撃破せよ』
「効いただろ。翡翠色の魂がこもった剣はよぉ」
「な、何故だぁー!? 私にその剣が、どうして触れられるのだ! この槍は最高傑作なのだぞ!」
知らねぇよ、テメェのガラクタに聞きやがれ。強いて言うなら、これは一人で振るっている諸刃の剣じゃないってことぐらい俺にも分かっているよ。
ヒスイの魂、そのものを乗せて俺に力を貸してくれているに違いない。というか、そうあって欲しいんだ。
何でこんなハゲなんかに、ヒスイを殺されなきゃならねぇんだよ。今にでも泣き出してしまいたいぐらいだ。でも、俺達はまだ泣く訳にはいかねぇからよ。
この弔いは、精霊殺しの首一つで手打ちに出来る程、安くはないがそれでしか、俺はヒスイに顔向けが出来ないんだ。
だからこそ、俺達はまだ泣いちゃならないんだ。
「さっきまでのお遊びが通用すると思うなよ精霊殺し。こっから先は、俺に傷一つ付きやしない。迫りくる死に怯えながら、ヒスイに懺悔でもしていろよ」
「私の研究は完璧だ! あんなまぐれで調子に乗るなよ。デスピアで貴様の心臓を破壊してやる。もう茶番はお終いだぁー!」
【聖槍トリシューラ】
赤黒く輝きを放つその槍は、八つの突きによる衝撃を俺に飛ばして来やがった。あれが、精霊殺しの奥の手って奴なんだろうな。
その突きは俺に迫りくる訳なんだが、一発でも直撃を喰らうと、きっと助かりそうもないな。
即死の聖槍、だが今の俺にそんなもんがまだ通用するなんて思っているのがおこがましいぜ。想いを乗せてんだ、魂を乗せてるんだ。そんなもんで、やられてる暇は俺にはない!
ーーブンッ!!
「貴様、代償はどうした! どうして七つもの突きを切り伏せている!」
「さぁな、こればっかりは俺にも分からねぇよ。どうした、最後の一突きが残ってるぜ? 奥の手なんだろ、さっさと来いよ。一つ足りとも潰してやる!」
「貴様ぁぁ! 我、聖槍デスピアよ。呪いの勇者を殺してみせよ!」
ーーバリバリィッ!!
これを狙ってたんだ。神器は神器で破壊出来る。それを俺はさっき自分で証明したばかりなんだからな。
デスピアだか知らねーけどな、そんな紛いもんが俺の諸刃の剣に負けるかよ。
心臓を狙う一突きに合わせて俺は、諸刃の剣を胸に構えて、その槍を受け止めたんだ。どっちが紛いもんか、これではっきりするんだろう。
その答えは、言うまでもなかったな。
「私のデスピアが砕け散るだと!? 私の研究は成功していた筈なのに何故だぁー!」
「はっきりしたな。お前の研究ってやつは失敗してたんだよ。人の物を奪うだけ奪っておいて、何が研究だ、何が集大成だ。ふざけんな、人の想いを踏みにじってんじゃねぇよ」
ご自慢の聖槍とやらは消え去った。
精霊殺しを護る物なんか、もう何一つとて有りやしない。
亡きヒスイと先輩を貶めた罪、償って貰うぜ。
ありったけの感情と、涙を込めて、俺は諸刃の剣で精霊殺しを一閃してみせよう。謝ることすらもう叶わないけれど、せめてもの想いをその剣に。
「マリエルー! 詠唱開始ぃー!!」
【スロー・ギアクル】
「やめ、やめろぉー!」
ーーブンッ!!
こんな最悪の結末になるだなんて思いもしなかった。必ず護ると誓ったのによ、結局のところ護られていたのは俺なんだ。
先輩やヒスイのこと、失いたくなかったんだ。こんな老いぼれた爺さん殺して、なんになるって言うんだよ。
精霊殺しを斬り伏せた俺は、暫く膝から崩れ落ちて、雨で涙を誤魔化すように咽び泣く。エリクシア達も泣いているんだろうな。
雨の轟音が、その悲しみ全てを消し去ってくれていた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「おっちゃん、頼みがあるんだよ」
雨がすっかりと止みだして、顔を腫らしながら、俺達はエルムーアの鍛冶屋に来ていた。
最後ぐらい、壊れた部分を治してから、お別れがしたかったってのもあるが、何処で治せるのかもサッパリだ。こういう時は、鍛冶屋のおっちゃんが適任だと思い、訪れた訳なんです。
「人形の補修? ウチは鍛冶屋だぞ、出来る訳ねぇーだろうが!」
「そうか、おっちゃん。頼もしいな、是非お願いするよ」
「人の話し聞いてねぇーだろ! ウチ、鍛冶屋! 武器造る所! 人形は造ってねぇ!」
「そうか! そんなに自信あるんだな。流石、おっちゃんだ。腹部の所をどうにかして欲しいんだよ。安らかに眠らせてやりてぇからよ……」
「……なんだ、訳有りなのか?」
おっちゃんが、急に否定的だったのから食いぎみになって、話しを聞いてきた。乗り気なのなら言うしかねぇ。ことの転末を洗いざらい吐き出すことにした。
一部始終を全て俺は語り終わることには、おっちゃんがヒスイの体をよく調べあげて観察していたんだが、表情一つ変わりやしない。
このおっちゃん感情ないのかよと、呆れていると俺の予想とはかけ離れた態度をしてみせて来やがったんだ。
「アハハハハ! どうせ、人形が破壊されたって一晩中泣いてたんだろ。お人よしが過ぎるぜ、エルムーアの英雄はよぉ!」
「大事な仲間が殺されたんだぞ! 俺はどんな顔してしてヒスイに詫びればいいか……」
「なら本人に謝ればいいじゃねぇか。生きてるんだからよぉ」
「ーーは!? おっちゃん、今なんだって!?」
「部品が欠損して止まっただけだ。ヒュンレイの集大成とやらは全てが失敗だったって訳だよ」
つまりは、鍛冶屋のおっちゃんと精霊殺しヒュンレイは、元は共に武器に対する研究をしていた同士だったらしい。
ヒュンレイが闇に落ちたことで、その研究はおじゃんとなり、今に至るという。そのせいもあってか、鍛冶屋のおっちゃんは、ある程度なら精霊に対する知識があったらしい。
付け焼き刃だけど、丁寧にヒスイを補修してくれて無事に修理が出来そうだ。まさか、精霊にも詳しいだなんて思いもしなかったよ。
鍛冶屋のおっちゃんに必死の頼み込む。何も異常が出ていなければいいけどな……。
不安を抱えつつも、ヒスイにまた会えると喜びながら、その日を俺やエリクシア達は待ち侘びることにした。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「来たぜ、おっちゃん」
「おぉ、来たか。今からお披露目してやるから、ちょっと待ってろ」
えらく準備に手こずってやがる。こっちはヒスイに早く会いたいってのに焦らしやがってよ。いや、ヒスイに焦らされるならこれもご褒美か。
変なことを考えるもんじゃねーよな。また、マリエル睨まれるとせっかくの再会が台無しだからよ。その準備とやらをしかと待つことにした。
「おじ様、これは恥ずかしいという奴では……」
「いいんだよ、この国の英雄はこういう服が好きなんだからよ」
「では、失礼します。マスター、似合ってますか?」
ーー可愛らしい、メイドの姿がそこにはあった。
どうしてメイド、とは言わない。何故、鍛冶屋のおっちゃんが俺の好みを知っているのかも、勿論言わない。
人形の様な可愛さとは褒める表現であるけれど、彼女は本当にそのものだったのだから。
「ヒスイ! 勿論だ、似合ってるぜ」
「また、会えましたねマスター。生きていて私も嬉しく思います。私をこれからもマスターの側に居させてくれますか?」
「当たり前だろ……。心配かけさせやがって……」
「駄目ですよ。マスターに涙は似合わない。マスターの笑顔を私は愛しておりますから」
失ってなどいなかったのだ。まぐれでそうなったのか、ヒスイの想いの力だったのか。はたまた、諸刃の剣が起こした奇跡だったのか。
ーー悲劇と喜劇を繰り返し、手を伸ばした先には俺が欲しかった未来が側にいた。奇跡だって構いやしない。ヒスイのぎこちない笑顔が、今はとても眩しく見えたんだ。
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