大人になった君へ
私のてのひらに、ちょこんとのる靴。
小さな君が最初に履いたものだ。
それはすぐに履けなくなって、靴はどんどん大きくなっていき。
あるひ突然、私の靴のサイズを追い越した。
一人では、何もできなかった、君。
危なっかしくていつも目が離せなかった。
私のそばで君はたくさん失敗して、泣いて、わめいて。
けれども少しずつ、できることが増えて。
いつの間にか、私のできないことまで、できるようになった。
嬉しくて、それと同時に、なぜか寂しくて。
この手を離れて、君は大空へ飛び立ってゆく。
あのとき、ああしていれば。
あのとき、ああ言っていたら。
振り返ればたくさんの後悔が、胸に残っている。
思い通りにやれなくて、いらいらして、怒って。
いつも笑顔でいたかったけれど、ぜんぜんうまく笑えなくて。
落ち込んでばかりいた。
……私は君のいいお母さんでいられたかな?
完璧なお母さんにはほど遠い、私だけど。
こんなお母さんでも、君は大好きと、ほっぺをすりよせてくれた。
熱が出たとき、だいじょうぶ? と心配そうに顔をのぞきこんでくれた。
私の作ったごはんを、毎日おいしいと喜んでくれた。
一緒に出かけるのが恥ずかしいと言いながら、家ではひざの上にのってきてくれた。
うるさいなぁと文句を言いながら、母の日にきれいなカーネーションを贈ってくれた。
私は君のお母さんになれて、幸せでした。私のところに生まれてきてくれて、本当にありがとう。
元気でね。ここを巣立つ君。
ずっと変わらず、見守っているよ。
身体には気をつけて、がんばってね。
つらいときは、いつでも電話してね。ここに帰ってきてね。
ぜんぜん心配じゃないっていったら、嘘になるけど。
たくさんの苦労、悲しみ、挫折。
その壁を、一人でいくつも乗り越えてきた君だから。
絶対に、大丈夫だよ。絶対に、なんとかなる。
もっと、自分に自信を持っていいよ。
私はいつだって、君の力を、信じてる。