陰ながら見守りたい
「で? なんだって? 僕は何に気をつければいーの?」
笑いを堪えたまま、ルシャが私に問いかける。とりあえず話を聞く気はあるらしい。
「えっと……ルシャの作る物を安く買い叩いて他で高額で売るような輩とか……良いように言って物をねだってくるような輩とか?」
「うんうん、分かった分かった。悪徳商人とかクレクレ亡者みたいなヤツに引っかかるなってことね。大丈夫、僕はヤバい事思ってるヤツは分かるから」
そういうよく分からない自信を持っているようなタイプが一番ひっかりやすいと聞くんだが……とは思ったものの、今私が口を酸っぱくしてそう忠告したところで、きっとルシャの心には届かないだろう。
実力は桁外れでも異国から来たこの子には守ってくれる家族も後ろ盾もない状態のようだ。変な輩に目を付けられるような事がないよう、陰ながら見守っていくしかないか。
密かに決意する私に、ルシャは嬉しそうな笑顔を見せた。
「でも心配してくれてありがと。アンタの方がよっぽどいいヤツだよ」
……可愛い。
笑うと途端に幼く見えるなぁ。小動物的な可愛さって、こういうのを言うんだろうか。そんな事を考えていたら、急にルシャの眉間に力が入る。
「たださ、言っとくけど年下扱いするのはやめてよね。まだ身長が伸びるピークが来てないだけで、僕、あんたと同じ年だから」
「えっ」
「多分アンタが思ってるよりは僕、しっかりしてると思うよ?」
自信ありげにニッと笑って見せるルシャを私は信じられない気持ちで見つめ返した。
待って、私と同じ歳って……16歳? 次の夜会でデビュタントってこと?
「宿には他にも僕が創った物が山ほどあるけど、大丈夫、アンタが心配なら誰にも軽率にプレゼントしたりしないから」
安心して? と微笑む顔はやっぱり少女のように可愛らしい。
「良かった、そうしてくれ。君のように才能ある人が悪いヤツに不当に搾取されるのだけは嫌なんだ」
搾取されそうな予感がプンプンするから余計に、という言葉はもちろん胸にしまっておいた。
「じゃあ僕、そろそろ行くよ。アンタと話すの結構楽しかった。またね!」
「待って! これ……!」
手に中に残るハンドクリームや留め具を差し出せば、ルシャは「気に入ったんでしょ。あげるよ」と笑ってそのまま去って行こうとする。やっぱりちっとも分かっていない。
「ルシャ! 君どこの宿に泊まってるんだ?」
「へ? 月波亭だけど」
「君が作った物をもっと見たいんだ。明日君の宿を訪ねてもいいかな、そうだな……夕六つくらいに」
「えっ、訪ねるって……アンタが来るの? 僕の宿に?」