詐欺にあった気分だ
「さっき宿を出たい、お金が貰えるなら嬉しいって言ってただろう? 私だって気に入った物にはちゃんと対価を支払いたい。……ていうか、君は作った物はどうしてるんだ?」
「どうって……使ってるけど」
「売ったりはしないのか? こんなに出来がいいのにポンポン人にあげちゃ勿体ないよ。……品質も素晴らしいから貰った人は間違いなく喜ぶとは思うけど」
「そんな事言われても売るったってどうしたらいいか分かんないし。それにこの国じゃ人にやるのはアンタが初めてだよ。誰にでもポンポンやってるわけじゃない」
心外だと言わんばかりの表情で、ルシャが反論してくる。そうか、誰かに搾取されているわけじゃないなら、まずは良かった。
「アンタ、本気で褒めてくれてるみたいだし……こっちの人とこんなに喋ったの初めてで、ちょっと嬉しかったし……元手タダ同然の物、あげて何が悪いのさ。喜んで欲しいだけなのに」
拗ねたように、でも不安そうに私を見上げた顔が可愛い過ぎて、胸がキュンと高鳴った。
か、可愛い……!!!
いやだって、話しかけてきた時はめちゃめちゃ顰めっ面で警戒心もあらわだったんだよ? 話してる時もちょっと照れたりはしてたけど、終始怒ったり呆れたりだったんだよ?
なのに何? この急な可愛さ!!!
ちょっと俯きがちなのに、若草色のふわふわショートヘアからのぞく上目遣い。なっがい睫毛越しに見える薄桃色のでっかい瞳が、不安げに揺れるのがこれまた愛らしい。
この可愛さ、国宝に推したいくらいなんだけど! ホント羨ましい、部屋の中でずっと眺めていたいレベル!!!
心の中で全力で賞賛して、高まるパッションをなんとか抑え込む。
いやぁ、なんかもう今日はいい日だなぁ。
じゃない!!!
褒められてたくさんお喋りしたくらいでこんなにポンポンとレアアイテムをくれてやるようじゃ、この先カモられる未来しか見えない。いい子いい子と頭を撫でてあげたい欲求を心にしまい込んで、私は厳しめに忠告する事にした。
私は眉をキリリと引き上げて、真顔でルシャを見下ろした。
「ルシャ、君が良いヤツなのは分かったけど、そんなんじゃすぐに騙されるぞ。君はもっと他人を警戒すべきだ」
「ふはっ、あはははは!」
なぜか急にルシャが笑い出す。意味がわからず首を傾げる私に「アンタ、面白れぇなー!」と言い放ち、涙まで拭っている。面白い事を言った覚えはもちろん無い。
そしてついさっきまでの儚げで繊細そうな雰囲気など一瞬で霧散してしまった。まるで詐欺にあったような気分だ。