逃すつもりないからね
「呼びに来てくれてありがとう、ダグラス。レオニーはちゃんと僕が会場までエスコートするから安心して」
「はいはい、邪魔して悪かったよ」
きびすを返して会場へと向かったダグラスが、ふと立ちどまって振り返り、私を見た。
「レニー、話を聞いてくれてありがとう。また、今度ゆっくり話をさせてくれ」
うわぁ。
照れたように笑うダグラスの顔は、これまた見たことも無いような顔だった。
恥ずかしい。
「う、うん」
「じゃあな!」
爽やかに言って、ダグラスが会場の方へと駆けていく。なんだか分からないけどその背中が小さくなって見えなくなると、ホウ……と息が漏れた。
「びっくりした?」
「うん」
ルシャに聞かれて、素直にそう答える。
そう、本当にびっくりした。ルシャの事も、ダグラスの事も。
「驚いたとは思うけど、僕もダグラスもレオニーをからかう気なんてさらさらないから、本気だって信じてね。レオニーにははっきり言わないと信じて貰えないと思ったから、めっちゃストレートに言っただけ」
「そ、そうか……」
そう言われて考えてみると、確かにこんなそう簡単には信じなかったかも知れないと思い当たる。
だって、花のように可愛らしいルシャが、優秀な騎士候補として女性人気も高いダグラスが……私の理想に限りなく近いこの二人が、私を好きになってくれるだなんて誰が信じられるだろうか。
「ダグラスまで出てきたのは想定外だったけどさ。ま、でも頑張った甲斐あって、信じてくれたみたいで良かったよ」
「ごめん」
私がちゃんと信じられるようにと、色々考えてくれたんだなと思うと嬉しいやら申し訳ないやら、だ。
ルシャの気持ちを無駄にしないよう、ちゃんと考えて返事をしたい。
こんな私を気に入って、プロポーズまでしてくれたのだから。
私の手を取って楽しそうに歩くルシャの可愛い頭頂部を見つめていたら、パッとルシャが顔を上げて私を見上げてきた。
「ちなみにレオニー、言ってなかったんだけどさ」
「うん、なんだい?」
「僕ね、人の感情がふんわりだけど読めるんだよね」
「えっ?」
とんでもない事を聞いたような気がして、私は思わず聞き返す。
「心が読めるって……もしかしてルシャ、私の気持ちが読めるのか?」
「うん、僕の特殊能力」
「森の民がそれぞれ持つという、あの『特殊能力』? ……ルシャは錬金なんだと思ってた」
「面倒だからそういう事にしてるけど、錬金と薬学は僕が頑張って覚えたんだよ」
錬金と薬学だけでも天才的だと思う才能の持ち主なのに、その上読心までできるというのか。
「すごいな」
素直に感心してそう言ったら、なぜかルシャから苦笑されてしまった。
「なんかレオニーって反応が想定と違うんだよなぁ」
「そ、そうか、ごめん」
「要は僕が言いたいのはね、僕は気持ちが読めるから、レオニーがまんざらでもないって分かってるんだよね」
「……っ」
「だから、逃すつもりないからねってこと」
バチン!!! とウインクするルシャに、私はもう、真っ赤になったまま羞恥に震えるしか無かった。
花のように愛らしく、才能に溢れたこの人を守りたいと思ってきた私だけれど、もはや手の上でころころと転がされている未来しか見えない。
ルシャとダグラスの顔がちらついて足が鈍る。
恥ずかしくてルシャの顔をろくに見ることも出来なくなった私を見上げ満足そうなルシャを見て、私は完全敗北を悟ったのだった。
これにて完結です!
珍しく、レオニーのこれからに余白がある完結です。
「えっここで終わり!?」というご意見も多いかな、とは思いつつ…色んな制約から自由になったレオニーだから、未来の選択肢が沢山ある状態で終わるのもありかな、と思ってここで完結と致しました。
面白く読めた方は方はぜひ★★★★★評価していってくださいませ。
ご愛読ありがとうございました!
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