こんな所にいたのか
「し、しかし、そんな事はさすがに勝手には決められないと言うか」
「レオニーのお父様は、レオニーがいいならいいって言ったよ」
「へ!? え、いつの間にそんな話」
「エスコートの挨拶に行った時」
「そ、そんな前から?」
驚愕する私の手をぎゅっと握りしめて、ルシャがさらに顔を近づけてくる。顔が近すぎてドギマギする私に微笑みかけるルシャは、なんだかいつもよりもずっと大人びて見えた。
「うん、だからさレオニー……」
「レニー!!!!」
突然、ルシャのささやきを掻き消しそうなくらい大きな声が響いた。
「こんな所にいたのか……!」
声の方を見てみたら、王宮から駆けてくるダグラスが見える。
「会場に戻った方がいい。さっきの振る舞いでお前たちは噂の的なんだ。こんな人気のない所に二人でいたらさらにあらぬ噂になってしまう」
あっという間に私たちの目前まで走り寄ってきたダグラスが、荒い息をつきながらそう忠告してくれる。確かに思っていたよりも長くこんな所に二人でい過ぎたかもしれない。
反省する私とは逆に、ルシャはぷくっと頬を膨らませた。
「せっかくいい感じだったのに、邪魔するなよ、不粋だなぁ」
「なんだと? せっかく心配してやってるっていうのに」
「ありがと。でもホントもう一歩だったんだけどなぁ。ねぇ、レオニー。さっきの話なんだけど」
「う、うん」
ダグラスにおざなりにお礼を言ったルシャは、すぐに私の方を見てにっこり笑う。
うう……どういう顔をしたらいいのか分からない。
だって、「結婚しよう」だなんて……こんな事を言われたのは初めてで本当に混乱してるんだ。ルシャの顔をまっすぐに見ることさえ恥ずかしい。こんな気持ちになることなんてかつてなかった。
「結婚がまだ無理なら婚約でもいいからさ、僕ホントの本気だから、レオニーもちゃんと考えといてね」
「う、うん……」
「はあ!!!????」
私の歯切れの悪い返事なんて吹き飛ばしそうな勢いの、ダグラスの驚愕の叫びが響いた。
「お、おま……お前、まさか」
「プロポーズしたんだよ。レオニーと出会ってからそんなに時間は経ってないけど、僕、絶対にレオニーが運命の人だと思うんだよね。レオニーとずっと一緒にいたい、守りたいって思うし、レオニーも僕の事守ろうって思ってくれてると思うし」
「ル、ルシャ……!」
人前でなんて事を言うんだ。
恥ずかし過ぎて、急激に顔に熱が集まるのを感じる。
「レ、レニー……」
そして、そんな私をダグラスが信じられないものを見たような顔で見下ろしていた。