凄い……凄いな
「そんなの簡単……ていうか僕は錬金術師だから、材料さえあれば薬でもなんでも創り出せる」
男の子はそっぽを向いたまま、小さな声でとんでもない事を言う。なんでも作り出せるなんて、誇張であったとしても興味深いに決まってる。それにさっきの薬が彼の自作なら、本当に物凄い腕前を持っているのかもしれないもの。
森の民って本当になんて凄いんだろう。
尊敬の眼差しで見つめていたら、男の子は赤い顔のままチラリとこちらを見て、ポソリと呟いた。
「ルシャ」
「え?」
「ルシャだよ。僕の名前」
「あ……ああ、ルシャ……ルシャか。ありがとう、ルシャ。今日は君とこうして話せて本当に嬉しいよ」
「……」
「私の名はレオニー。友人達は皆適当に呼んでるから、レオでもレニーでも好きに呼んでくれていい」
「はぁ?」
バッと顔を上げて訝しげに私を見上げたかと思ったら、次の瞬間には何か思い当たったようにため息をついた。
「そういやアンタ、確かに男からも女からも気軽に呼ばれてたね」
なんで呆れられてるのか分からない。でも、ルシャは意外と私の状況をそこそこ把握しているらしい。やっぱり私がロベール様の婚約者だったからだろうか。専攻も違うのにしっかり情報を仕入れているあたり、偉いなぁと感心してしまった。
「よく知ってるなぁ。まぁ私の本分は騎士だからな。戦いの最中にまどろっこしい呼び方をされても困るだろ」
「未来の王妃がそれでいいのか……」
「あー……まぁ、それはもういいんだ」
そこはツッコまれたくないところだ。曖昧に微笑んで、私はさっさと話題を変える事にした。
「さっきなんでも作り出せるって言ったけど、例えばどんな物を作るんだい?」
「え? なんでも? この服もそうだし、この留め具も……あとコレ、ハンドクリーム」
ポイッと留め具とハンドクリームを投げて寄越すから、受け止めてじっくり見てみたけれど留め具は細工も美しくて、熟練の職人が作ったかのような出来栄えだ。まさかこれが錬金術で作られた物だなんて、誰が想像出来るだろう。
「細工も緻密で繊細だな。錬金とは布や金属も扱えるのか」
「わけないね。液体とか気体とかも使うし。ちなみに今夜はこれから夕飯にシチューを作る予定だよ」
「錬金で?」
「うん。料理するより簡単だしね。ほら、そのハンドクリームも使ってみなよ。肌も綺麗になるし、剣で硬くなった皮膚も柔らかくなると思うよ」
塗り込んでみて、はぁー……と、思わず感嘆の声が出てしまった。
「塗った部分だけ、明らかに肌理が細かくなってしっとりしてきた。凄い……凄いな、ルシャ」
「自信作なんだ」
「これ、いくら?」
「売った事ないから分かんないよ。気に入ったならあげるけど」
「ありがとう! ……じゃなくて」
危ない、あまりに気持ちいい塗り心地で素直に貰ってしまうところだった。