庭園の二人
「そりゃそうだよね」
お父様の言葉に同意するように、ぽそっとルシャが呟いた。私もまったく同意だ。
「レオニーの事が心配だったが、ルシャ君に任せておけば安心だろう。私は陛下の警護に戻る。うちの子を頼んだよ」
「はい! 任せてください」
言うだけ言ってルシャの元気なお返事を貰ったお父様は、満足げな顔で颯爽と去って行ってしまった。
残ったのは、イケメンに成長してしまったルシャだけだ。ちょっと垂れ目の優しげな顔に機嫌良くニコニコと見下ろされて、なんだか照れ臭いし、ちょっと緊張してしまう。中身はルシャなのだから、緊張する必要なんてないと分かっているのに不思議なものだ。
「ねぇレオニー、さすがにちょっと緊張して疲れちゃった。ちょっとだけ庭園に出てもいい?」
いつもと変わらぬ気軽な調子でそう言うルシャに、私は頷くしかなかった。
***
「うわー! すごく綺麗な庭園だね」
「王宮の庭園だからな。国でも最高峰の庭師が手入れしているんだろう」
「そうか、そうだよね。特にこのバラ、形も色も香りもホント最高! 二、三本貰えないかなぁ」
「あとで聞いておくよ」
見た目はすっかり落ち着いたのに、珍しい素材を見つけると目をキラキラと輝かせるところは変わらない。そんな当たり前の事が嬉しくて、頬が緩む。
「あ!」
小さく叫び声を上げたルシャが、私の方を振り返って言った。
「レオニー、ベンチがあるよ。ちょっと休んで行こ」
「そうだな」
私が頷くと、ルシャはどこからともなくハンカチを出して、ベンチに広げてくれる。
「どうぞ、お嬢さん」
したり顔でそんな事を言うから、笑ってしまった。
「ありがとう。こんな風にエスコートして貰えるのは、なんだか新鮮だな」
「へー、さっきもひどい態度だったし、あの王子様ってマナー教育受けてないのかな。僕ですら夜会に出るって決まったら結構厳しく指導されたのに」
「ははは、そりゃあ勿論誰よりもしっかり教育は受けていると思うよ。ただお互いに、私は婚約者と言うよりは護衛だと思っていたからじゃないかな。だからきっと殿下だって、フルール嬢や他の女性にはちゃんとマナーに即した振る舞いをしてると思う。……概ね、ね」
「どうだか」
なんだか不満げな顔で呟いたルシャは、少し考えたあと、急にまたにっこりと笑う。
「ま、いっか! お陰でレオニーは今、僕の隣にいてくれるんだもんね。うん、良かった良かった」
冗談なんだか真面目なんだか。
ついクスクスと笑っていたら、ルシャが私の手にそっと手を添えてきた。