なんという逸材
高価な薬を投げて渡したくらいだ、近付いて欲しくないだろうと思ってぐっと腕を伸ばして薬を返す。
男の子は木の影から一瞬で出てきて私の手から薬を乱暴に取り上げると、さらに私の手首を掴みぐっと自分の方へ引き寄せた。
「わっ」
元々その子の方へ腕を伸ばして重心が傾いていた上に油断してたもんだから、私の体は呆気なくその子の方へと引き寄せられる。
意外にも力強く抱きとめられたかと思ったら、その子は乱暴に私の傷口にグリグリと薬を塗り込んだ。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッ!!!!!!!」
声も出ない。
ただでさえ沁みる系の薬をグリグリ塗り込むなんて鬼か!
あまりの痛さに涙目で睨んだら、思いっきり睨み返されてしまった。
「バカじゃないの!? アンタ女だろ! しかもお妃様になるんだろ? せっかく綺麗な顔してるのに、あんなエグい傷残していいわけないじゃん!」
「知ってたのか」
「さすがにそれくらいは知ってる。それにあんた、目立つし」
「そうか……すまない。ありがとう」
「……別に。もう痛くないだろ? 傷、塞がってる」
「えっ」
言われて初めて、確かに痛みが消えたことに気がついた。
傷口があった筈のところを指先で触ってみたら、するんと指が滑って傷も見つけられなければ僅かな痛みすらも感じられない。
「傷が消えてる……?」
「うん、もう痕跡すらなくなった」
「すごいな……!」
感動してしまった。治癒力MAXって本当だったんだ。それに治癒力MAXの傷薬ってこんな超速で効果が発揮されるものなんだな。
「こんなに効き目が強い薬なんて初めてだよ。こんな貴重な薬を分けてくれてありがとう、今は持ち合わせがないけれど、明日にでも改めてお礼をしたい」
「いらないよ。僕がムリヤリ塗ったんだし、そこら辺にある薬草から僕が創り出したヤツだから、たいしたコストかかってないし」
「えっ!?」
我が耳を疑った。
「君が、これを……?」
「うん。僕は錬金と薬学が専門だから、これくらいはわけない」
「素晴らしい……」
なんという逸材。
「君! この素晴らしい薬を創り出したのが君なんだったら、余計にちゃんと金を受け取るべきだ。技術を安売りしちゃいけない」
「そ、そりゃくれるなら嬉しいけど……ひとり立ちしたいし」
「ひとり立ち?」
「今はアンタの国が用意してくれた宿にいるから、本格的な錬金って出来なくて」
「それでこの質のものが作れるのか……! 君、すごいな」
思わず感嘆したら、男の子はさあっと顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。褒められ慣れていないのかも知れないけど、これは全力で賞賛するに値するレベルの能力だ。なんなら今まで知らずにいた自分を殴りたいくらい。
「他にも作れるのか? 例えばこれより効果が薄いものとか」
あまりにも素晴らしい才能を前にワクワクが抑えられなくて、つい前のめりになってしまった。