骨がありそうだ
「貴女は親の欲目を抜いても文句なしに美人よ。貴女なら可愛らしいドレスだろうが情熱的な真っ赤なドレスだろうが、シックな大人っぽいドレスだろうが着こなせる逸材だと思っているわ。母に任せなさい」
お母様はいつもこんな風になぐさめてくれるけど、似合わないのは残念ながら私が一番良く分かっている。
「ありがとう。けれどさすがにふわふわ可愛いのは似合わないよ……」
「ふふ、貴女が可愛らしいドレスを着ることに抵抗があるのは分かっているから無理強いする気は無いのよ。ルシャ様がシックな装いにしてくださるのであれば、レオニーもタイトなマーメイドラインでもいいと思うわ」
「えっ?」
「王家の習わしとしては初々しさと愛らしさを表す純白のプリンセスラインと相場が決まっているし、殿下の婚約者としてはその一択だけれど、他は皆、自分の魅力を最大限に引き立てるドレスを着るものよ」
「そうなんだ……」
「もちろん、可愛らしいドレスを着ることができるのは今のうちって考えで、愛らしいドレスを着る娘が多いようではあるわね。けれどプリンセスラインのドレスでも、色やデザインで凜とした印象に仕上げることも出来るし、選択肢は無限にあるわ」
お母様が頼もしくそう言ってくれた時、ちょうど扉が開いて、お父様と弟のジュールが部屋へと入ってきた。
「おっ、デビュタントのドレスの話か」
「ええ、レオニーがルシャ様のスーツを見てきたと言うから、レオニーのドレスを本格的に仕立てようと思って」
「姉さん、さすがに夜会は可愛くドレスで着飾ってよね」
ジュールにからかうように言われて、私も苦笑してしまった。
「いくらなんでも夜会くらいはドレスを着るよ。エスコートしてくれるルシャに悪いからな」
「それ! まさか姉さんのエスコートの相手があの『森の民』だとは思わなかったよ。どんなヤツなの?」
「凄腕の錬金術師なんだけど、人がよくて放っておけない感じかな。ルシャは優しいから、私らしければどんな装いでもいいと言ってくれてはいるんだけど、あまり恥はかかせたくないしね」
「へぇ……」
「私は何度か話したが、なかなか面白い青年だぞ。見た目は少女のようだが、錬金の腕は確かだし、あれはなかなか骨がありそうだ」
私は目を丸くした。お父様がルシャのことを『骨がありそうだ』なんて評するとは思っていなかったから。
「ああ、レオニー。これを夜会の時に身につける物に仕込んでおきなさい」
お父様が、何やら赤い色石を渡してくれた。