【ルシャ視点】挨拶に行きたい
「ん? ああ、聞いてみよう。用件はなんだい?」
「もう夜会が近くなってきたじゃない? レオニーのデビュタント、エスコートさせて貰うからさ。ちゃんとお父様にご挨拶するべきだと思うんだよね」
「あ……そ、そうか。そうだな。だが、その……一応父には、ルシャがエスコートしてくれる事になったという話は、してあるんだ」
「へえ、ありがとう。お父様、なんて言ってた?」
「これは驚いた、自分で見つけてきたのかって、面白そうに笑ってたよ」
「良かったぁ、嫌がられてはいないんだね」
「嫌がられるわけがない。だから、その……父には話は通ってるから」
わざわざ挨拶に来なくても大丈夫だっていいたいんだろう。でも、そういうわけにはいかない。
「うん。でも、僕からも直接言いたいんだよ。お嬢さんは僕が責任もってエスコートしますってね」
ちょっとだけ、レオニーの頬が赤くなった。可愛い。
レオニーはこんな風に、女の子扱いされるとひっそりと照れる。多分あのダメ王子に女の子扱いされた事がないからってのが一番大きいと思う。それもあってレオニー自体も男っぽくふるまってるうちに、周囲から女の子扱いされることが少なくなっちゃったんだろう。
慣れてないから居心地が悪そうで、照れくさそうなんだよね。
でも嫌ってわけでもなさそうだから、レオニーが困らない程度にちょっとずつ慣れて行ってもらおうと思ってる。ってわけで、僕はさっさと話題を変えた。
「それに、騎士団に納入する薬の試作品をいくつか作ったから、打ち合わせしたいってのもあるし」
「ああ! なるほど」
「結構さ、自信作ができてるんだよね」
「それは楽しみだ。父もきっと喜ぶだろう」
うん、これでひと安心。レオニーは約束はきっちり守ってくれるし、もし無理になったら必ずちゃんと報告してくれる。そういうとこ、ほんと誠実だよね。
それからはふたりでほのぼのと談笑しつつ、ご飯を食べたり、体の周りにまあるいシャボン玉みたいな空気の球を纏って沼の中に突撃して貴重な素材を採取したり、それはそれは楽しい休日を過ごしたのだった。
***
そして翌週の休日、僕はまたあの重厚すぎるレオニーのお邸にお邪魔していた。レオニーが約束通りに騎士団長であるお父様との約束を取り付けてくれたからだ。応接室に通されて、今はレオニーと二人、おいでになるのをおとなしく待っているところだ。
前回ほどじゃないけど、やっぱり緊張する。
「大丈夫かい?」
レオニーが聞いてくれる。
「うん、大丈夫。今日は僕、しっかりしないと」