【ルシャ視点】僕ができる事を、精一杯
ダグラスにそれだけ告げて、僕はその場を後にした。しばらく歩いてから振り返って見たら、ダグラスは真剣な顔で何かを考え込んでるみたいだ。でも僕の考えはしっかり伝えたし、ダグラスがどう動こうがこれで恨みっこナシだ。
あとは僕ができる事を、精一杯やるだけ。
レオニーのために僕ができる事なんてたかが知れてる。面白い錬金をやってみせてワクワクさせる事とか、街でも森でもどこでもいい、一緒にあちこち行って笑い合うだとか、そんな事くらいだ。
今までダグラスと一緒に鍛錬を積んできた時間を飛び越すなんて無理かもしれないけど、それでも『ルシャと居れば楽しい』って思ってもらう事くらいはできる筈。
レオニーを狙ってるヤツがわんさかいるのなんて、ここ数週間レオニーとその周囲を見てれば嫌でも分かる。しかもレオニーは貴族のお嬢様なわけだから、うかうかしてると結婚が決まってしまう可能性もあるってのが地味に困る。
レオニーの結婚相手に名乗りをあげようってヤツらが、あの王子様やレオニーに遠慮して二の足を踏んでる間に、僕を選んで貰えるくらいにレオニーやレオニーの家族にアピールしたい。
僕は足早に家に帰って、さっそく錬金レシピの開発に勤しんだ。
***
その週の終わりの休日、僕はレオニーと共に『タニルの森』の奥深くを探索していた。
レオニーとレオニーのお父さんである騎士団長の尽力もあって通行許可証は割とあっさりと発行されて、僕も今ではすっかり『タニルの森』の住人だ。
でも、平日アカデミーから帰った後の時間はもっぱら管理小屋付近での素材収集か錬金の時間に充てている。だって休日はこんな風に、レオニーと一緒にゆっくりしたいもんね。
僕が「森の奥を探索しようと思ってる」って言えば、レオニーはこんな風にいつだって護衛をかってでてくれる。過保護だなぁとは思うけど、正直なところ僕もそれを期待して言ってる部分もあるから、この頃はこんな風によく二人で休日を過ごす事も多くなった。
「ルシャ」
僕を案内するように、守るように半歩前を歩いていたレオニーが、ふと思いついたように足をとめる。
「なに?」
「もう少し奥に行くと右手に大きな沼があるんだ。もっと先には崖と魔物が大量に出る洞窟があるんだが、どうする?」
「うーん、今日は沼の方にしようかな。管理小屋の傍には泉があるけど、沼の泥の中じゃないと見つからない素材もあると思うんだよね」
「まさか沼に入る気なのか!?」
レオニーが目を丸くした。
「うん、そりゃもちろん入るよ。素材採取のためにきたんだし」