ずるいぞ、お前
「殿下が……?」
「しぶしぶだったけどねー」
怪訝な顔をするダグラスの言葉にかぶせるように新たな声が加わった。
「ルシャ」
急に現れたのはルシャだ。今まで私に怒っていたダグラスは、今度はにっこにこのルシャにかみつき始める。
「ずるいぞ、お前……!」
ガルルルル……とうなり声が聞こえてきそうな顔でルシャに詰め寄っているが、体格差が凄すぎてルシャが可哀相になってしまうからやめてあげて欲しい。
なのにルシャときたらむしろ楽しそうな……というか、明らかにからかい混じりの悪い顔でダグラスに囁いた。
「ダグラスの方が付き合い長いのに、残念だったね。レオニーのことイマイチ理解ってないんじゃないの?」
「なんだと!?」
「だってさーちょっと考えたら分かるじゃん。レオニーは誰かに迷惑かけそうな事は絶対に嫌いだし、誰かの助けになれそうな事は自分がちょっと苦労してでもやろうとするお人好しなんだよ? 誘い方ってモンがあるって事だよね」
「ぐっ……お前……レオニーの親切心につけ込んだのか」
「つけ込んだりなんてしてないよ。ホントに不安なんだもん」
「お前がそんな殊勝なタマか!」
さすがに驚いた。ダグラスがこんなにポンポンと相手に喧嘩腰に物を言うことなんて本当に珍しいから。いつもはむしろケンカの仲裁に入る大人なタイプだ。
言い始めたら引っ込みがつかなくなっているのかも知れない。ここは私が仲裁に入るしかないだろう。
「まぁまぁダグラス、そう熱くなるなよ。たいした事じゃないだろう」
「エスコートの相手をたいした事じゃないと思っているのは、この国でお前くらいだ」
逆に呆れた顔をされてしまった。
「失礼な……私だってエスコートの相手が重要視されている事くらいわかっている。だから不用意に周囲を巻き込まないように気をつけているんじゃないか」
「……そういう事じゃなくてだな……」
なんだかもう、呆れを通り越して疲れたような顔をされる。なんでだ。盛大に溜息をついたダグラスは、ジッと私を見てから諦めたように呟いた。
「まぁいいか。『そういう意味』で選んだパートナーじゃないって事は分かったしな」
「そういうって、どういう意味……」
「そこで諦めるからダメなんだよ!!」
聞き返そうとした私の声がかき消されるくらいの勢いで、なぜかルシャがダメ出しする。言われた方のダグラスは、雨に濡れた犬のようにしょんぼりしてしまった。
可哀想で慰めてやりたくなるが、むしろ今は慰めても怒られそうだ。