随分と責められる日だな……
とりあえずは失礼が無い程度に言い返してみたら、一瞬うっと詰まった後、目をつり上げて反論された。
「フルール嬢はレングラル国からの来賓だ。もてなすのは当然だろう」
「同感です」
いい方向に話が転んだ、と内心ガッツポーズをしながら、私はそっとルシャの方に視線を流した。
つられたように殿下の視線も動く。ルシャの方を見て、私の頭を飾るルシャ色の髪飾りを見て、もう一度ルシャを見た。
「……なるほど、コイ……彼か」
今コイツって言いそうになったな、と思いつつ私は頷く。
「……ふん、まぁいいだろう。彼も来賓だからな。失礼が無いように」
「かしこまりました」
さっと身を翻して去って行く殿下の背中を見送りながら、ルシャが「同じ来賓でも扱いはめちゃくちゃ違うけどね-」と、そう言いたくもなるだろうな、という事を呟いていた。
***
「どういう事だよ!」
課外の鍛錬の休憩時間、ダグラスがいきなり声を荒げて私に抗議してきた。
殿下といいダグラスといい、今日は随分と責められる日だな……と思うが、殿下はともかくダグラスがこんな風に声を荒げる事はとても珍しい。
「どういう事って……何がだい?」
「デビュタントのエスコート、ルシャの申し込みを受けたって噂になってるぞ」
「ああ……事実だ。今日の昼休みの話なのに、耳が早いな」
「耳が早いな、じゃないだろう……!」
ダグラスの目がつり上がった。声も低くなって、なんだか怖いくらいだ。
「何を怒っているんだ」
「怒りたくもなる! お前、俺や他のヤツがエスコートの打診をしたとき、断っただろう。デビュタントだから従兄弟に頼むとお前が言うから引き下がったんだぞ?」
「そのつもりだった。私は殿下やその友人達からの覚えが悪いからな。ダグラス達に頼むわけにはいかないよ。迷惑になるだろう」
「迷惑だったら声なんてそもそもかけない」
憮然とした表情につい苦笑してしまった。
「ダグラスは義に篤いな。だが、君らの家にも迷惑がかかることだから、そう簡単にお願いはできないだろう。しばらくは大人しくしておくよ」
「じゃあなんでルシャの申し込みは受けたんだよ」
「ルシャは異国の地で初めて夜会に出るんだ、不安そうだったから少しでも助けになれればと思って」
「アイツが不安がるタマかよ」
「ひどいな」
ダグラスから見たら、ルシャはそんなに気が強そうに見えるのだろうか。確かに口は少々悪いが、割と素直でお人好しなタイプだと思うんだが。
「それにルシャはこの国の貴族じゃないしなんなら国賓だからな、殿下も認めてくださった」