夜会への誘い
「ん、そろそろ良さそうかな」
終始機嫌がいいルシャが小さく呟いて、笑みを深める。
「ではレオニー嬢、改めて」
「はい」
何が何だか分からないが、ようやくやる気になったらしい。
ポケットから小さな丸い玉を取り出すと、私の目の前で指先できゅっと押しつぶしてみせる。
途端。
ぽんっ! と軽い音がして、可愛らしいリボンかかけられた小箱が現れた。
「うわっ」
「ふふっ」
思わず驚いてしまったが、こんな時に可愛らしい声もでない自分に内心ちょっとがっかりした。笑ってるルシャの方がよっぽど可憐だ。
いや、そんな事を考えている場合じゃ無かった。
我が国のエスコートの申し込みは少し変わっていて、こんな風に女性に贈り物を持参するのが普通だ。そして女性はその贈り物を見定めて、気に入らなければ断るか新たに要望を伝え、気に入れば相手の手ずから身につけて貰うことで申し込みを了承するのだ。
そんなわけで、予算の都合もある男性陣の動きとしてはいきなり申し込むチャレンジャーは少なくて、正式に申し込む前にそれとなく打診して、相手好みの贈り物を準備するのが大半だ。今回ルシャからは特に好みなどは聞かれていないけれど、いったい何を用意してくれたんだろうか。
楽しみだ。
「……開けても?」
「もちろん!」
跪いたまま、両手で箱を捧げ持ってくれているルシャの手の上でリボンをほどき箱を開けると。
「うわぁ……可愛い」
箱の中にはレースを幾重にも重ねたような不思議な花びらを持つ大輪の花を束ねたような、華やかな髪飾りがあった。ルシャの髪色のような淡い若草色の花は瑞々しく、間に挟み込まれているチュールレースはふわりと薄いピンクで、全体的に優しく可愛らしい色合いだ。
私に似合うだろうか……と一瞬心配になったけれど、憧れる可憐さではある。
「もしかして、ルシャが作ったのか?」
小さな声で聞いてみたら、ルシャが嬉しそうに笑う。
「うん、もちろん。僕らの森に咲くファルハという花をあしらったんだよ。申し込む時には、自分の色を入れたアクセサリーをプレゼントするものだって聞いたから、これでもかってくらい入れてみたんだけど、どう? これでもかってくらい僕の色でしょ」
囁くようにそう言われて、笑ってしまった。確かにこれでもかと言うくらいにルシャ色だ。
「レオニー嬢!」
私の頬が緩んだのを満足そうに見て、ルシャが声のボリュームを大きくする。
「どうかこの贈り物を手に取って、僕の色を身につけて共に夜会に出て欲しい。そして、君の美しい髪色を身につける許しを貰えないだろうか」