人を集めたい?
「……まぁいいや。この前さ、ちゃんとこの国のやり方でエスコートの申し込みをやるって言ったよね?」
「ああ」
「ちゃんと教えて貰って練習してきたから」
「そうか……ありがとう」
律儀にも練習までしてきたというルシャが微笑ましくて、思わず口角が上がる。
つまり、これからそれを披露してくれるつもりなのだろう。
「てんで女性らしい服装でも無いがいいのかな」
入学してからずっと男子の制服を着てきた上に今は騎士科に属しているものだから、私は殿下の婚約者ではなくなった今でも男装のままだ。とてもエスコートの申し込みを受けるにふさわしいとは言えない。
それでもルシャは、楽しそうに笑ってくれた。
「なんら問題ないよ。それはそれでレオニーらしいじゃん。では、レオニー嬢」
「はい」
ルシャが改まった様子で胸に手を片膝をついて跪いてくれた。背筋をぴんと伸ばしまっすぐに私を見上げる姿勢は、練習したと言うだけあってお手本のように美しい。
一瞬見蕩れてしまったけれど、ルシャのこの行動に中庭の空気が変わった事を感じてハッとした。
アカデミーの中庭で始まった、誰の目から見てもはっきりと申し込みだと分かるこの姿勢に、周囲がざわざわとざわめき始めている。私は少し心配になってきた。
この時期割と見る光景だったからあまり気にしていなかったけれど、この国の王子の婚約者だった私にエスコートを申し込んでいるのが物珍しいのか、それともルシャと私の取り合わせが奇妙なのか、周囲の興味を引いてしまったようだ。
「ルシャ、早くしたほうがいいかも知れない。人が集まってきそうだ。ちょっと人が多すぎたかも知れない」
すると、ルシャが華やかな笑顔を見せた。
「なんならもうちょっと集めたいくらいだね。レオニー、実は色んな人にエスコートの打診されてたんでしょ?」
上目遣いでいたずらっぽくルシャが言う。ルシャがそんな事まで知っていたことに私は驚いてしまった。
「知ってたのか。まぁ、彼らは私が殿下に婚約破棄されたのを知って、心配してくれてたんだよ。だが、私に同情したせいで彼らが殿下からの覚えが悪くなるのは可哀相だろう。今後の出世に関わる」
「その点僕ならこの国での出世なんて関係ないもんね。僕、別の国の人で良かった」
可愛らしく笑うルシャは、本当に人を集めでもしたいのか、なかなか口上を述べない。あまりきょろきょろするのもよろしくないから周囲を見まわす事もできないが、こんな短時間で周囲のざわざわは多くなってきていて、ちょっと居心地が悪い。