一緒に行こう
「あー、あのバカ王子が絡んでくるって?」
「夜会でそんなこと言っちゃダメだよ? まぁでも、殿下が直接絡んでこずとも、その周辺がな」
「あーあの役に立たなそうなとりまき連中ね。ありそう」
本当に率直な物言いだな。苦笑しながらも私はこのところですっかり言い慣れてしまった言葉を口にした。
「そもそもデビュタントは親類にエスコートしてもらう事も多い。今回は殿下たちのこともあるし従兄弟に頼もうと思っているんだ」
「それってまだ断れるの?」
「ああ、もちろん。というか、まだ頼んでいない」
「じゃあいいじゃん、僕と行こうよ。絡まれてもいいように、ちゃーんと対策を考えとくからさ」
ねっ! と可愛らしくウインクしてくるルシャは、本当に何の不安も感じてはいないようだった。いや、むしろその状況を楽しんでやろうじゃないかという気概すら感じられる。
それならば、いいんじゃないか。
むしろ、私が彼をエスコートするくらいの気持ちで傍にいればいい。そう思えた。
「分かった。では、お誘いを受けさせて貰うよ。一緒に行こう」
「うん! ……あ」
満面の笑顔で大きく首を縦に振ったかと思うと、今度は何を思いついたのか目をまんまるにして私を見上げる。
可愛くて悶絶しそうだ。ぎゅうと抱きしめて頬擦りしたいくらい愛らしい。
「エスコートの申し込みって何かマナーがあるの? それは習わなかったんだけど」
「あるにはあるが……別にこだわらなくてもいいんじゃないか? もう返事はしたんだし」
そう言う私に、ルシャは「いーや!」と唇を尖らせる。
「マナー講師の人に、一番カッコいいの聞いてちゃんとやり直すから、レオニー、絶対に断らないでよね」
「ははは、もちろんだ。当たり前だろう」
やっぱり森の民はロマンチストなんだな。でもわざわざ我が国の慣わしにのっとって申し込もうとしてくれるのは嬉しい。
「楽しみにしているよ」
「……うん!」
まるで採取地に入った時のような輝くような笑顔だ。
「じゃあさ、じゃあさ、レオニー! 夜会の日はめいっぱいおめかししてきてよね! 可愛い感じでも、かっこいい感じでもどっちでもいいよ。レオニーが最大限魅力的に見えるようにしてきてね」
パートナーの可愛いおねだりに、私はもうどんな願いだって叶えてあげたくなってしまう。殿下もフルール嬢を前にすると、こんな気持ちになるのだろうか。
「ああ、君の隣に立つに相応しいように努力するよ」
「僕もとっておきのレシピで衣装を作ってくるからね」
「衣装まで錬金で作るのか」
なんともルシャらしい。楽しみが増えた私だった。