いいこと考えた
殿下の出した答えに、私もホッと息をつく。相変わらず私以外の人の話は聞く耳があるらしい。
これでジュールも少しはやりやすくなるといいんだけれど。
ああ、なるほど。それも視野に入れて、お父様はあえて殿下に厳しいお話をされたのかも知れない。
お父様の頼もしい背中を見上げて、私は心の中で「ありがとう」と礼を言った。
***
「へー!!! そんな事があったんだ」
ルシャが面白そうにケラケラと笑う。
お父様の尽力でルシャの通行証を手に入れた私は、ルシャの引っ越しを手伝いに来ていた。通行証を手に入れたいきさつを話す中で殿下とのやりとりを話した途端、ルシャが上機嫌に笑い出したんだ。
「あいつレオニーとの身長差にコンプレックスあったんだ。へー、笑える」
相手が殿下でも一切気にせず、歯に絹着せぬ発言だ。私は苦笑しつつ答えた。
「むしろ殿下は同年の中では背が高い方なんだけどね、なんせ私が育ちすぎたから。確かに並ぶと見栄えが悪いな」
「ふーん」
すっごくニヤニヤしてる。なにか悪いことでも考えていそうだ。
と思ったら、案の定わたしに顔をぐっと近づけて囁くようにこう言った。
「いいこと考えた」
「……なんだい?」
絶対に悪いことを考えてると思う。
ルシャは天使のような見た目だし基本的にはとても素直で可愛らしいが、こと気に入らない、と敵認定した相手に関してはなかなかに辛辣な物言いでこき下ろすところがある。
そんな所も面白いが、今度は何を思いついたのやら。
「レオニーがイヤじゃなかったら、なんだけど」
「うん」
「そのデビュタントの夜会さ、僕と一緒に出ない?」
「えっ」
「フルールだけ呼ぶわけにはいかなかったんでしょ、僕も夜会に呼ばれてるんだ。ダンスのレッスンもマナーも習ったし、恥はかかせないからさ……僕にエスコートさせて?」
なんと。
さすがにそれは想像してなかった。
「今は僕、レオニーよりまだだいぶちっちゃいから嫌かも知れないけど」
いつもの気の強そうな顔が、急に不安そうな色を見せる。
ルシャもやっぱり身長差を気にしているんだろうか。そういえばルシャも、最初に会った時に「背だって別に、これから伸びるし」とか突然言っていたような気がする。
それでも私を誘ってくるとは、ルシャも異国の地でひとりで夜会に出るなんて、少し不安なのかも知れない。
「私は別に構わない……というか、ルシャと共に夜会に出ることができるなら嬉しいが」
そう伝えてみたら、ルシャはパアッと顔を輝かせた。
「ホント!?」
「ああ。だが、私と一緒にいるとルシャが嫌な思いをするかも知れないからな……」