【ルシャ視点】ダグラス、強いじゃん……
「いいよ。結構強い魔獣も多いけど、それでもいいかな」
「もちろん。それも含めて確かめたい」
僕が力強く言うと、ダグラスが右の口角だけを引っ張り上げてニヤリと笑った。
「俺もついて行ってやろうか? その細っこい腕じゃ魔獣と戦うなんて無理だろ」
「残念でしたー。これでも森の民なんでね、魔獣に遅れはとらないんですぅー」
「そっか」
そう言うダグラスの手には、いつの間にか抜き身の剣が握られていた。
「魔獣……!」
「そうだな」
そう言った時にはダグラスの体は大きく跳躍していた。
一瞬で魔獣との間を詰めて、まずは一匹。返す剣でもう一匹。
「ずるいぞ、ルシャの護衛は私なのに」
レオニーが不満そうな声を上げて残る魔獣に躍りかかる。
僕が弓を取り出す間もなく、あっという間に二人が魔獣の群れを屠ってしまった。
「どうだ? 結構役に立つだろ?」
バチン、とウインクするダグラスに、僕は返す言葉も無い。レオニーが信頼しているだけあって、マジで腕は確かだった。
***
そうして僕が最終的に工房兼採取地として選んだのは、結局二つ目に紹介して貰った『タニルの森』だった。
ダグラスも交えて行ったアルコ谷もなかなか面白い素材が多いところだったけど、僕が頻繁に使うような素材の種類自体は少なかったんだよね。
しかも強い魔獣をダグラスがカッコよく倒してくれちゃったりして、レオニーがめっちゃ褒めてたから、何となく僕にとっては面白くない場所になってしまった。主にダグラスのせいだと思う。
今は通行証の発行を待っているところで、発行され次第タニルの森に引っ越すことになっている。通行証についてはレオニーとレオニーのお父さんである騎士団長が頑張って交渉してくれているところだから、大船に乗ったつもりで待ってるんだけどね。
待っている間に僕は僕でやることがたくさんある。
色々な森を案内して貰っている間にたくさんの素材を既に採取出来たから、試してみたいレシピが山ほどあるし、引越しの準備だってしなきゃならない。時間なんていくらあっても足りないくらいだ。
その中でも特に急ぎでやらないといけないのが、通称『飛石』の調合だった。
これは二つで対になるもので、頻繁に行き来したい場所に置いておくと、対の石がある場所同士を行き来できるというめちゃくちゃ便利なアイテムだ。遠距離恋愛の恋人同士で身につけあって、相手の居る場所にひとっ飛び、なんて使い方をするリア充達もいたりするから、使い道はいくらだってある。
僕の場合は通学だ。タニルの森は素材集めには便利だけど、さすがに王都に毎日通うにはキツイ場所だから、こういう時間短縮のためのアイテムは必須なんだよね。
錬金で合成する事でしか得られないアイテムをいくつも使わないと合成できないシロモノだから、僕は今、その元になる素材をアレコレと錬金しているところだ。地味な作業だけど、毎日の手間が省けると思えば頑張れる。
それに。
素材さえ沢山作っておけば、そのうちレオニーに持たせたくなった時にだってすぐに調合できるしね。
その日を想像して、僕はひとりでそっとニヤついた。