心強い味方
ダグラスが破顔する横で、ルシャは盛大に顔を顰めた。ダグラスは正義感に篤く腕っ節も強い。良かった、ルシャに心強い味方ができた。
ちょっとホッとして、私はつい微笑んだ。
この口は悪いけれど欲のない、精霊のような錬金術師は、どんなに秘匿したとしてもきっとそう遠くない将来名が知れてしまうだろう。そうして危険な目に遭うようになった時、頼れる先はひとつでも多い方がいい。
ダグラスならばきっとルシャの力になってくれるに違いない。
「良かった。ダグラスが味方になってくれるならばこんなに心強い事はない」
「味方って。敵でもいるのか」
つい漏らした本音に、ダグラスは怪訝な顔をする。
「今は特に。けれどあんなに強力な回復薬を生み出すような腕だ。そのうちどんなヤツに目をつけられるか分からないだろう? なんせあんな一生ものになるだろう傷を癒しておいて、礼も要らぬと言うんだ。危なっかしくて放っておけない」
「なるほど。そういうことか」
すごく納得したような顔でダグラスが頷く。
「所領の中なら守りやすいもんなぁ。親父さんもそれだけ心配してるって事だろ?」
「ああ、多分な」
「あのねぇ、何度も言うけど僕はアンタ達が思ってるほどお人好しでも世間知らずでもないんだからね? 素材と住まいが手に入るのは嬉しいから別に文句はないけどさ、今だってちゃんとアンタ達の好意を利用してるし」
「ふふ、存分に利用してくれ。君のその才覚が、素晴らしい何かを生み出す未来を想像すると胸が躍るよ。私の自由がきくうちは、こうして支援させてくれ」
「自由がきくうちって……やっと自由になったんじゃないの? あの王子様からは解放されたんじゃなかったっけ? 好きに生きればいいじゃない」
キョトンとした顔でルシャが言う。森の民らしい率直な意見だ。好きに生きる。魅惑的な言葉だがそういうわけにもいかないのが現実だろう。
「このまま騎士になって生涯過ごせれば幸せだがな。そうすればトラブルがあっても物理的にルシャを守れるだろうし、自分の稼ぎでルシャを支援できる」
「僕の事は心配しなくていいんだよ。レオニーの幸せのことを言ってんの」
「……まぁ私はこれでもシュヴァル侯爵家の娘だからな。いずれは父上が決めた男の元へ嫁ぐのかも知れないから、自身の希望など持っても無駄だろう」
「うわ、超貴族的。夢とかないの?」
「今はルシャが大賢者と呼ばれるほどの錬金術師になってくれるんじゃないかと夢見ている」
「自分のことだよ!」
なぜか憤慨しているルシャを前に、私は小首を傾げる羽目になった。