思いがけない出会い
「うわぁ、呆気ない。騎士たるもの目の前だけに気を取られてちゃいけないんじゃない?」
よろけたダグラスの向こうには、ニヤニヤと悪い笑顔を浮かべているルシャが居た。
背中の中央でもどつかれたのか、嫌そうに後ろ手で背中をさすりつつ振り返ったダグラスは、ルシャの顔を見てあんぐりと口を開ける。
「お前……!」
「やぁ、僕のこと噂してたでしょ」
「!」
「ここじゃ目立つから、いったん別れて半刻後に門の外に集合ね。レオニー、こいつ連れて行ってもいいよね?」
「ああ、森にか? まぁ、私が居れば問題はないが……ダグラスは、鍛錬はいいのか?」
「え、ちょっと待て、何のことだか」
わけが分からないという顔のダグラスに、伸び上がったルシャが何か耳打ちしたかと思ったら、ダグラスは恐ろしい形相でルシャを睨みつけた。
それに返すルシャの笑顔が、花も綻ぶような愛らしさなのが異様だ。
「……行く」
決意に満ちた表情でダグラスが宣言すると、ルシャは「じゃ、後でね」とにっこり笑ってさっさとその場から居なくなってしまった。
いったいルシャは何を囁いたんだろう。
「……」
「?」
ルシャがご機嫌な様子で走っていくのを見送ったダグラスが、何か言いたそうに私を見つめたけれど、結局は何も言わずに去って行った。ちょっと気になるけれど、どうせ半刻後にはまた会うんだ。何か言いたいならその時にでも言って来るだろう。
そう結論づけて私もゆっくりと歩き出す。
商店街を突っ切って最短で待ち合わせの門へと向かう最中だった。
「!」
宝飾店から出てきた人物を遠目に見つけて、私は目を疑った。
この人通りの多い中でも頭一つとびぬけた長身に黒の短髪、どう見ても我が国の王太子であるロベール殿下だ。そして殿下が微笑みを浮かべながらエスコートしているのは、優しい若草色の髪と抜けるような白い肌が特徴的なフルール嬢。
なぜこの二人が、こんなに目立つ場所で……姿を偽る事もなく、手に手を取って出歩いているのか。
供は? いつも殿下を取り巻いている子息たちは? というか、私の代わりに殿下の警護についた筈のジュールは何をやっているんだ。
驚きでいっぱいだが、ここで派手に動いては余計に耳目を集めてしまう。不自然にならないように慎重に近づいていくと、もう少し、というところで殿下がふと此方を見た。
私と目が合った途端、殿下の口角が吊り上がる。
「こんな所で会うとは奇遇だな」
「……供も付けず、なぜお二人で? 申し訳ありません、ジュールに何か不手際があったのでしょうか」
「不手際っていうか、ジュールは今アッサイ達と手合わせでもしてるんじゃないか?」
私は息を呑んだ。
それはまさか、アッサイ殿をはじめとした殿下の取り巻き達が、ジュールをわざと護衛から引き離したという意味なのだろうか。