どの森が好きなの?
「でもこの国に来てからは門番が外に出してくれなかったからさ、狩りにも半年以上行けてない。結構鈍ってるかもね」
「外に出してくれなかった……?」
「うん、僕は通行証持ってないからね。王宮に掛け合ってみたけど渋い顔されるだけでさ。困ってたんだ」
私は首を捻った。身元はこれ以上ないほどはっきりしているだろうに、なぜ発行されないんだろう。他国から預かっている人材だから、王都外で行動して危険な目に遭うことを危惧されているのだろうか。
いずれにしても今後は王都の外の森からアカデミーに通うことになるわけだから、早急に通行証を発行して貰わないと話にならない。帰ったら父上に相談してみよう。
「通行証の件は私がなんとかしよう。しばらく待っていてくれ」
「ホント!? なんとかなるの!?」
「やってみる。どちらにしてもそれがないとアカデミーにも通えないだろう?」
「あ……ああ、そうか。うん、そうだよね。えっとさ、それで他の森は?」
ちょっと微妙な顔で同意して、すぐに次の森の情報をねだる。
促されるまま私が知っている他二つの森の特徴をできる限り詳しく教えると、ルシャはいちいち感心して、何が採れそうだ、何に使えそうだと想像を膨らませていて、至極楽しそうだ。
くるくる変わる表情は、とても微笑ましくて……魅力的だった。
不思議と胸があったかくなって幸せな気分になる自分の心持ちに驚いてよくよく考えてみたら、こんなに真剣に、楽しそうに話を聞いて貰ったことなんて、そう言えばここのところなかったなぁと思い当たる。
ロベール様の後ろで控えている時はもちろんほぼ無言で、フルール嬢を中心とした楽しげな会話に混ざる事など無かったし、鍛錬場では剣で会話することの方が多い。
話しかけてくれる人達は総じて会話が好きな人達だから、私は彼ら彼女らの話を聞くことの方が主で、こんなにじっくりと話を聞いて貰うことなんて少なかったんだと初めて意識した。
「ちなみにさ、レオニーはどの森が一番好きなの?」
「えっ」
急な質問に、即答できずに首を傾げる。
どの森が好きか、なんて考えた事もなかったなぁ。
せっかくだから、自分が知っている4つの森を頭に思い描いてちょっと真剣に考えてみた。鍛錬にちょうどいい森、近くて行きやすい森、色々あるけれど……。
「……そうだなぁ、氷花の森、かな」
「さっき、氷穴があるって言ってたとこ?」
「うん、そう」
なんとうちの邸からしか行けない、隠れた穴場という場所だ。正式な名前もなくて、代々わがシュヴァル家だけに伝わる愛称で『氷花の森』と呼ばれている。