ルシャの実力
そんな呑気なことを考えていた私に、ルシャが勢いよく振り返る。
「ねぇレオニー! 騎士団長、直轄の森はいくつかあるって言ってたよね」
「ああ、うちの森は代々騎士団の鍛錬に使うものだから、いずれもある程度王都の近くにある……っていうか、褒賞で授与されたり買い取ったりしたものらしいが」
「どんなのがあるの。ざっくりでいいから特徴とか教えて」
「いきなりだな。レイサルとタニルも合わせてざっと六箇所くらいあるけれど、私もまだ行ったことがなくて詳しくは分からない森もあるんだ。次に会う時までに調べておくよ」
魔物がかなり強い森もある筈だ。まず自分が先に見ておかないと、おいそれとは紹介できない。私がついていながらルシャを危険な目に合わせるわけにはいかないものな。
「六箇所……」
ルシャはさっきよりもさらにうっとりとした表情になった。まだ見ぬ森と素材に想いを馳せているんだろうなぁ。
「レオニーが分かってるのだけでいいから教えて」
「そうだなぁ……さっき言ったタニルの森は、森に入ってすぐはこのレイサルみたいに明るい森だよ。泉の周りは市場の噴水広場くらいの広さに木が伐採されていてね、綺麗な草原の中に管理小屋があるから馬を休めるにはもってこいだ」
「畑も作れそう……」
「ああ、いいね。土も栄養豊富だと思うよ。でもその草原から奥は結構すぐに深い森になるんだ。さっき地形が豊富だと言ったけれど、単に広大でアガニル山まで延々と続く森だから、間に切り立った崖だの沼だの魔物の巣窟になってる洞窟だのがあるっていう感じだな」
「それはまた色々採取できそうだなぁ」
「聞いていたか? 結構危険な森だぞ」
「うん。でもうちの森もそんな感じだったから。そこそこのレベルの魔物なら僕でも狩れるよ?」
思いがけないルシャの言葉に、私は目を丸くした。
でもそうか、ルシャは森の民なんだ。もしかしたら王都で暮らす私達よりよほど逞しいのかも知れない。
「ルシャの森では皆、魔物と戦えるのか?」
「よほどセンスがないヤツじゃない限り、ひととおり教えられるよ。集団で狩ることも多いけど、僕みたいに素材が欲しくて遠出するような奴は大体ソロで戦えるよね。魔物しか持ってない素材だってたくさんあるわけだからさ。珍しい素材が欲しけりゃ強くなるしかないよね」
なんと。守ってやりたくなるような姫のごとき容姿の薬師&錬金術師は、実は立派なハンターでもあったわけだ。
「頼もしいな」
褒めるとルシャは素直に嬉しそうな表情をした。けれど、なぜかその顔がふと曇る。